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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第六章 避け得ぬ争い、未来の為に
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暴露

「さて、どこから話したものかな……」


結局、オリガ以外はリュドミラが全員下がらせた広間で、ゲオルグは温くなった茶を飲み干してそう呟いた。


「まず聞いておきたいのだが、お主ら……この呼び方も面倒だな、リュドミラで良いか?」


いきなりのファーストネームでの呼び捨てに、さしものリュドミラも戸惑った。そんな風に自分を呼ぶのは、母と父しか記憶にないからだ。


「気に入らなければ貴公でもお主でも、なんなら陛下でもいいが? 正直、オリガのあれを聞いてから、気を遣うのがバカらしくなった」


そう言われると何も言い返せない二人である。なにせ、多くの人間から神のように崇められる伝説の存在であるドラグニルに、あんなにも生意気な態度をとったのだ。それこそ、教会の敬虔な信者が聞いたら卒倒するか激怒するに違いない。


「いえ、リュドミラで結構よ、ゲオルグ殿。それで、聞きたいこととは?」


とは言え、過ぎたことをいつまでも言っていても仕方ない。リュドミラもリュドミラで、いつしか開き直って口調に変化が表れていた。


「ん、ではリュドミラ、リュドミラは、ディナントでの亜人の動きを聞いたことがあるか?」


そのゲオルグの問いに、オリガが答えた。


「その件につきましては私から陛下へご報告しておりますので、私から。とは言え、いまだ噂程度の情報しか入ってきておりませんが……」


「構わんよ、言ってみろ」


「……ディナントでここ数年の間に、2000近い亜人が姿を消し、王国がその行方を捜査した結果、ガルディナ大森林ではないかという結論が出た、という程度です」


「…………なるほど。そして、その調査という名目でディナントで兵が動き出し、それに対応する形でリュドミラも動いた、といったところか」


「ご名答よ、正直、私たちはディナントがガルディナに行くというのはあまり信じてないわ。なにせ、あのガルディナ大森林ですもの。亜人達ばかりで入ったところで、全滅するのは目に見えているわ。それをわからない人ばかり、なんてこともないでしょうし、そもそも亜人がそんなに大量に消えたということ自体が、陽動のために流された噂の一つではないか、とも思っていいるわ」


リュドミラのその言葉に、ゲオルグは少しばかり悩んだ素振りを見せてから、再び口を開いた。


「亜人ばかりがガルディナに入ったところで全滅する。そう判断した理由は?」


「?……そんなもの、決まってるじゃない。あそこは大陸でも有数の危険地帯、ゴブリンやオーク、ファイアウルフを始めとする数多の種類の強力な魔物。そしてそれらと渡り合える大型の肉食動物に、独自の進化を遂げた植物もいると聞いているもの。ディナントもこの国も、何度も軍を送ったけれど、毎回悲惨な目に遭ったと聞いているし、そんな場所で無事に生き抜こうというなら、それこそ、ドラグニルの手助けでもない……と……」


そこで何かに気づいたように、ゲオルグの顔を直視するリュドミラ。それを真っ直ぐ見返したゲオルグは、笑みを浮かべながら。


「ご名答」


とだけ言った。

















「亜人だけの……国?」


「まぁ、端的に言えばな。国というには些か規模が小さいが、それはゆくゆく……」


「ま……待って!!待って頂戴!!本気なの!?そんなことをすれば、教会も、多くの国も敵に回すことになるのよ!?」


「……それを知らずに、やっているとでも?」


ゲオルグの表情から笑みが消え、底冷えするような冷やかさと、確かな決意を感じさせる強い輝きを持った瞳が、リュドミラを射抜いた。


そこに迷いなどなく、あるのは覚悟、熱意、自信。それを確と感じ取ったリュドミラは、言葉を詰まらせ、しばらく押し黙った。これは、確かに余人に聞かせるには重い、重すぎる話だ。


紛いなりにも、大陸で確かな影響力を持つハルミット教。時として一国の興亡にすら関わることすらあり得ると言われるその勢力に、正面から立ち向かえる国などそうはない。


可能性があるとすれば、比較的影響力の薄い大陸南部か北部だろう。あの宗教は元々大陸中央部で生まれたものであり、かつての大乱の折り、その主戦場となった地域でとくに広まったものだからだ。幸いにして、極端に暑い、あるいは寒い地域というのは、温暖で過ごしやすい中央部に比べれば主戦場となることも少なく、普及は爆発的に広まることもなかった。


とは言えど、亜人に対する差別は大差ないのが現状である。亜人はそもそも、そのほとんどがドラグニルやドラゴニュートのように人間に不干渉という態度を貫いていたのだ。各国が戦乱で多くの兵を、労働力を失っていく中、我関せずと言わんばかりに山奥や辺境で平穏を享受していた亜人は、人間からすれば八つ当たりには最適な存在であったことだろう。


自分達よりも良い暮らしをしている者達を、自分の手で引きずりおろし、見下し、踏みつけ、殺す。


人間の残虐性とエゴイズムの被害者、それが、今亜人と呼ばれ差別と弾圧と苦しむ者達の姿であろう。


「世界の在り様を変えようと言ってるんだ。人間なぞ、まして人間の作った宗教、神なんぞ、俺が意に関することはない。が、できるならば平和的に解決できるならそれに越したこともない。というのが基本的なスタンスだ。もし、リュドミラがそれに理解を示し、協力とまでは言わずとも、敵対しないと宣言するだけでも、余裕が生まれる。ちなみに言っておくが、ディナントと同じような交渉をするつもりはない。あそこは教会の影響が大きすぎる」


ゲオルグの言葉に、「この国も、教会の影響は皆無ではないのよ……?」と、力なく返すリュドミラ。


ディナントが兵など出さなければ、それを察知していなければ、深読みして出兵命令など出さなければ、様々な仮定が思い浮かんでは消えていく。


リュドミラは、自分が皇帝となったこの時代に、ゲオルグという存在が生まれてきてしまったことを、ひどく恨めしく思った。


それが、完全な八つ当たりであるということは分かってはいる、しかし、どうにも抑えきれそうにはなかった。そうでもしないと、目の前のドラグニルに暴言の一つでも吐いてしまいそうだからだ。



命は惜しいのである。

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