語らい
「閣下、では、お気を付けて」
「あぁ、しばしの間、街を任せたぞ」
「はい、閣下ご不在の間、しかと守り通してみせます」
「そう気負うな。お前らなら、何の問題もあるまい」
「兄さん、また体調崩したりしないでね?」
ゲオルグは今、街の広場で住民達に見送りを受けていた。
新たな住民確保のため、再び北の帝国へ向かうのだ。
「全く……揃いも揃って、心配性に過ぎるな。気苦労ばかりでは早死にするぞ?」
「閣下にだけは言われたくないです」
「我らの気苦労など、閣下に比べれば如何程のものでもありませぬ」
「言うようになったな……悪くない。では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
「ご無事にお戻りを」
「無理だけはしないでね」
様々な見送りの言葉を受けながら、ゲオルグは北へ飛び立った。
その後ろ姿を見送った人々が、一人、また一人と日常生活へ戻っていく中、フェリス、ニーナ、ケイル、ヨハン、ジルという街の首脳陣だけが、その場に止まっていた。
「兄さん、本当に無理しなければいいけど……」
「はい……体調が優れないなどと仰られたのは、初めてでしたからね」
「閣下はご無理が過ぎるのです。それでなくとも日々街のために身を粉にして下さっておられるのに……」
「それだけ、我らの力が足らぬということであろう。閣下は決してそのようなことを仰らないだろうが」
「えぇ……しかし、いずれは我らだけでこの街を円滑に動かしていかなければならないのですから、今回もまた、そのための演習のようなものでしょう」
「かもね……兄さんはいつも、任せた、の一言しか言わないけど、きっとそういう意味もあるんじゃないかな」
「はい、だからこそ、何事も起らぬよう粉骨砕身せねばならないかと」
「うん。いつかは兄さんの手を、こっちから離さなきゃならないしね」
フェリスがそう言いながら街の方を振り返ると、皆が一斉に同じ方向に目を向ける。
そこには数多の獣人、エルフ、ドワーフ達がいる。友人知人と笑みを浮かべる者、声を張り上げ商売に勤しむ者、汗を流しながら荷物を運搬している者など、数年前では想像も及ばない世界が広がっていた。
「…………この街、いえ、世界を、私達だけで護っていくなんて、本当に出来るのかな」
「出来ますとも、出来ねばならぬのです。閣下……ゲオルグ様より賜ったこの世界、お護り頂くだけではあまりにも不甲斐ない。いや、それでなくとも、返しきれぬ程のご恩があるのです、それを碌に返せぬまま生涯を終えるなど、これからここで生まれ、生きていく者達に見せる顔が無いではありませぬか」
「隊長の仰る通りです。そもそも、私達が与えられた世界ならば、私たちが護るのが通りというもの。ただ、我らはゲオルグ様に比べあまりにも生が短い……」
「えぇ、でも、なんとしてでも、私たちの手で、ゲオルグ様に安心して後を任せて貰えるようにしなければ……」
「そうだな。これからまた人も増えていくことだろうし、その度に苦労せねばならないだろうが、それも閣下のそれに比べればなんということもないだろう」
「そうね。街の為、皆の為、そして、閣下の為にも、一日でも早くより多くの仕事を終わらせなければ……」
「あぁ、そして閣下には早く落ち着いて頂き、妻でも娶って頂こう……なぁジル?」
「そ……そこで私を引き合いに出さないで下さい隊長」
「あら、満更でもなさそうじゃない」
「確かに」
「そう言われましても……閣下にその気がなければ如何とも……」
「だから、その気を持つ余裕を持って貰うためにだな……」
「……そう言う皆さんだって未婚ではないですか」
「私はこれでも長命種ですから、まだまだ時間はありますし」
「右に同じだ」
「俺は閣下の為に尽くすことしか今は考えていない。それでなくとも警衛隊は今や色々と多忙だ」
「私も警衛隊なのですが……」
「隊長と副長を一緒くたにするな。現に部下の何人かは結婚してるだろう?」
「それはそうですが……私とて、暇な訳では……」
「だが、休みを取って閣下の元へ向かう余裕はあるのだろう?」
「そっ!……それは……」
「まぁ、焦る事もないがな。だが、うかうかしていれば、案外他の者が見初められるやもしれんぞ?」
「…………」
「ジルも奥手ね……でも、私の記憶が正しければ、貴女は最初、閣下に懐疑的な態度だったと思うのだけれど、そんな貴女でも今はこうして閣下をお慕いしているのですから、最初から好意的だった人達がいつまでも何のアクションも起こさない、なんて楽天的な考えではないわよね?」
「……はい」
「ならいいけど……けど、何よりも先に、妹君にお許しを貰わなきゃね」
「え?……私?」
「えぇ、フェリス様がダメと仰れば、きっと閣下はそれを押し切ったりはしないと思いますので」
「それはないと思うけど……」
「そのようなことはありますとも。閣下がフェリス様を如何に大切にしているか、傍から見れば一目瞭然。そのフェリス様からお許しなくば、閣下と恋仲になろうなど夢物語、と、よく言われております」
「どこで!?」
「街全体、ではないですか?」
「知らなかった……」
「まぁ、実は閣下と兄妹と言うより恋人のようだと言われてたりもしてますが」
「……」
「フェリス様?」
「恋人……恋人……」
「フェ……フェリス様?」
どこか違う世界へトリップしたフェリスが現実世界に帰ってくるまで、少々の時間を要したこと、フェリスがゲオルグに対して抱く想いをなんとなく察したことは、語るまでもないことだろう。




