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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第三章 国の土台と基礎固め
37/153

大演説

よく考えたらランキング1位って、あとは落ちるしかないんですよね・・・


うん、そう思ったら気楽になった←


亜人の受け渡しを約束した日、ゲオルグとフェリスは、眼前の光景に感嘆の声を漏らしていた。


「これは………中々……圧巻だな……」


「うん………なんというか…………凄い、としか言えないよね」


目録を見たところ、亜人の数は434名。中には熊人族ゆうじんぞく豹人族ひょうじんぞく狐人族ふうじんぞくと言った初見の獣人もいた(狐人族だけは読み方が中国っぽいのは、多分虎人族と読み方が被るからだろう)。豹人族に至っては、完全な猫耳である。これに興奮しないゲオルグではない(一生懸命押隠したが)。


「豹人族は男女合わせて26名か……………少ないな」


「も……申し訳ございません。なにせ豹人族は元々、獣人の中でも特に瞬発力に優れ、逃げ出す者も多く………その、多くが殺処分されてしまうもので………」


「いや、そういう意味ではないのだがな?………」


凄く要らんことをエドに説明されてしまった。知りたくもなかった歴史だ、だが、数はこれから増やしていけばいい。というか是非に増えて欲しいものだ。


「兄さん、なんか変な事考えてる?………」


「ん?、そんなことはないが?」


「そう?」


「あぁ」


軽く見透かされてしまった。


だがそんなフェリスも、まるで誰かを探すようにどこかそわそわしているような気もする。


<気のせい………か?>


フェリスに家族がいるという話は今まで聞いていないし、知り合いがいるようにも思えないが、もしいたのなら、成る程、これだけいれば混ざっているかもしれないと思うのも致し方ない。


<もしいるのなら会わせてやりたいが………>


だがしかし、暫く辺りを見渡していたフェリスは、どこか残念そうに肩を落とした。


<やっぱり………顔も覚えてないんじゃ……ましてあれから結構経ってるし、分かるわけないよね………>


それでももし、この中にいたならば、たとえお互いに家族と分からなくとも、知らずとも、あの街で幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。


そんなフェリスの心境を知らないゲオルグは、エドと話を進めていく。


「それで、この目録の品物は確かに全てここに揃っているんだな?」


「はい、必要とあらば荷ほどき致しますが………」


「構わん、時間が惜しいからな。エドが言うことならば信じよう、まぁ、偽りがあった時は容赦せんが………」


「は、ははは、なんででしょうな、自主的にもう一度確かめてみたくなってきました」


「言っただろう、時間が惜しいと。目的地に着き次第、順次確認していくさ」


乾いた笑いを浮かべて表情を少し悪くするエド、しかし、ゲオルグとて実際に多少の差異があったくらいで本当に何かしらの報復をする気はない。ただの冗談のつもりだったのだが、どうにも本気と受け取られたようで不本意である(自分の日頃の行いのせいであるが、それを指摘するような者もいなかった)。


ちなみに、現在ニデアの街では、謎の白いローブを着たやたらと腕の立つ権力者の噂が飛び交っている。言うまでもなくゲオルグである(領主館の衛兵を一瞬でのした挙げ句、直臣の魔法士まで蹴散らし、尚且つなんのお咎めもなく平然と街中を闊歩していたが故である)。


どうやら衛兵達はしっかりと約束を守り、ドラグニルであるという噂はまるで聞こえてこなかったが。


<まぁ、出来ればあと20年は俺の存在は隠したいところなんだよな………>


20年の月日があれば、あのガルディナの街にもある程度の戦力を整えることは出来るだろうという目論みもある。基本的に人間とのいざこざが起きた時、それに自分が介入するのは最後の手段にしたいのだ。


ドラグニルがいるから手が出せない、ではなく、あの国は迂闊に手を出すと返り討ちに遭う、くらいの気持ちを人間達に抱かせたいからだ。まずは獣人やエルフ、ドワーフの集団が決して人間に劣ることなどない、と思わせるのが大事なのだ。


これまでは飼い殺しにすることで優位性を保ってきた亜人達が、一個の集団となり組織的な活動を始めた時、すでに人間の手には余るくらいの国力が欲しい。


<そうなれるかは、今後の俺次第、なんだろうがな………>


これまで街の運営はおろか、集団として生きることすら出来なかった者達に、そんな難題を投げられる訳もなく、ゲオルグは一人、また決意を固くするのだった。


「それでは、そろそろよかろう。これ以上遅くなると、これからの予定に差し支えが出るからな」


「左様にございますか、では、私共もこれで………」


「あぁそれと、次に来るのは幾分先だからな、早まって街の人間が亜人を集めて、世話ができなくなり殺処分が頻発、なんてことはやめてくれよ?」


「それは勿論。すでにこの街周辺の亜人は根こそぎ集まっておりますし、それを生業にする者も多くはありませんから、まず問題ないかと、一応私の方でも留意しておきますが」


「ならば良い、では、次に会えるのは人間にとっては先のことになるかもしれんが、それまで精々長生きしてくれ、人間の数少ない知り合いに死なれるのも悲しいものだ」


「それはもう、次も良いお話をお持ち頂けること考えれば、死ぬに死ねませぬよ」


「言うようになったじゃないか、悪くない」


「はは、とある個性的な方に鍛えられた結果でしょう。では、これにて失礼致します」


「ん、達者でな」


「はい、私も、ゲオルグ様のご健勝とご多幸をお祈りしております」


そう言い馬車に乗り込み、最後まで笑みを崩さずその場を立ち去ったエドに、ゲオルグも笑み返して見送った。基本的に人間に対し苛烈な行動を取りがちなゲオルグだが、敵対しない者、利益を与える者、恭順を示す者には寛容である。それもまた、統治者としては向いている資質と言えよう。


やがて、ゴルトベルク商会の面々の姿が完全に消えた時、ゲオルグは先ずフェリスに向き直り、彼女が何も言わず頷くと、こんどは434名の亜人に目を向け、こう言った。




「さて諸君、空を飛んだことはあるか?」




と。それは、かつて住民となった68名を迎えた時と同じ台詞、そして表情も同じだっただろう。まるでイタズラを思い付いたかのような天真爛漫な悪童のような笑み。


フェリスは苦笑し、434名は困惑した。


その反応に満足したゲオルグは、即座に例の魔法を行使した。


悲鳴と歓声、腰を抜かすものもいれば感嘆の声を上げる者もいる。亜人と呼ばれ家畜のように生きてきた彼、彼女らにも、こうした個性があるのだと、一番よく分かるところかもしれない。


だからこそ、ゲオルグはこの瞬間が好きになった。これからも何度か同じことをやるだろう、その度にこうして反応を楽しみ、こうしてフェリスに呆れられるだろう。だがこれはやめられそうにない。なんたってこれは、今この場にいる者たちの自由への第一歩。あの街の発展への兆し、そして歴史が、常識が崩れ去っていく始まり。


これを楽しまずして何を楽しめと言うのか。


「ははっ、皆、良い表情だ。よく見ておけ、これが世界、これが大地、これが空だ!!、何処に線がある、どこに境目がある、どこに、人間だけが幸せになって良いなどと書かれている!!人間が決めた常識なんぞ糞食らえ!!俺たち[は]、いや、俺たち[も]この世界に生きる命ぞ!!明かりぞ!!歴史ぞ!!それらを否定することなど、俺が許さん。お前たちが笑い、喜び、時に悲しむことの出来る世界、俺が創ろう!!俺が見せよう!!それが俺の義務だから故に!!故に、諸君らは共に生きる権利を持つ、俺が義務を果たしきるその時まで、興味がある奴は付いてこい!!去るも来るも諸君次第、それが自由であり権利だ!!どうだ、面白そうじゃないか!?」


突然の大声量での問いかけ、それは多くの者を困惑させた、しかし、風に吹かれフードが取れたゲオルグのその素顔と身振りを交えた熱意ある演説に、確かに目を輝かせる者もいるのを、見逃しはしなかった。


「さぁ、これからだ。ようやく始まるぞ、この世界の常識の終わりが。新しい世界と秩序、常識をつくるのは間違いなく諸君らだ。勝手ながら期待させて貰う。それが、俺の権利だからな」


誰よりも前を進まなければならない義務を負うが、それ故に後に続く者の全てを見る権利を持つのだと、そう宣言した。


中にはまだ疑惑の目を向けてくる者も多い。だが、それもしばらくのことだ。あの街に着いた時、そこに住む先人達を見ればきっと分かってくれるだろう。そして、共に歩んでくれるだろう。それは傲慢な願いかもしれない、だが、確信を持って言えた。


それは、あの街にすでに住んでいる者達を信頼するが故。


彼らはきっと、この新たな住民達をこう言って出迎えるだろう。


「我らの街、我らが家、我らが家族の元へようこそ!」


そんな姿と、これからの発展を思うと、興奮も期待も熱意も抑えきれない、若きドラグニルなのであった。

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