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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第三章 国の土台と基礎固め
27/153

準備

いよいよ新たな住人を受け入れる時がきた、68人の住人が来てから4ヶ月と15日ばかり経った日のことである。


街も、主に畑や果樹園を拡張、城壁の外の西側を新たに開拓し、そこをまた城壁で囲った後に城門と石畳の通りで接続、家畜をそちらに移して空いた土地に作った形だ(狼人族から臭いがキツいと苦言を受けて隔離した結果である)。新たに作られた区画は西畜産特区などと名付けられ(決してゲオルグがつけたのではない)、現在はまだ建てられていないが、いずれは食肉製造の為の加工場も出来る予定だ。現在はまだ数が少ないため、その頭数を増やすことが第一であるとしっかり言いつけてある。


またエルフのニーナとケイルも、十分ではないとは言えゲオルグやフェリスの補佐が務まるようになってきたので、そろそろ実務もさせて見ようかと思ってもいる。


そして、これは個人的に特に嬉しいことなのだが、この街始まって以来初のカップルが誕生した。これまで自由恋愛など禁じられていた為か、そう言う話がほとんど出てこなかったのだが、ここに来て急にそれである。ちなみに、狼人族の男と兎人族の女という組み合わせ。これは教会も作らねば、などと思ったがそもそも宗教の存在しないこの街にそんなものを建てても仕方ないと気付き、ちょっと大きめの、最近開発に成功した色ガラス(ドワーフの功績)を用いた教会のようなものを建てた。十字架もないし神父もいない、ただ結婚などを親しい人などに報告し愛を誓う為の場として用意されたものだ。残念ながらよく意味を理解して貰えなかったが、いずれは結婚式というものを根付かせたいものだと思っている。


ちなみにだが、獣人族同士の子供は両親どちらの種族が産まれるかは決まっているようで、男なら父親と同じ種族、女なら母親と同じ種族が産まれるのだそうだ。遺伝子の研究などこれっぽっちも進んでいないので何故かは不明である。ドワーフやエルフなどといった完全な別種族であってもこれは当てはまるらしく、ゲオルグはただ「生命の神秘だな」としか言えなかった。


話が逸れたが、兎に角色々な進展があり、そろそろまた新しい住人を受け入れても大丈夫だろうと判断したのだ。食料自給率も、既に300人程度なら問題なく行き渡るだろう、と言うのが、農作物の管理を任せている者達からの報告だ。加えて、最近は狼人族と虎人族、兎人族で組んで狩猟にも行くようになり、肉類の調達や湖の魚介類なども徐々に普及している。正直、狼の鼻に兎の耳の組み合わせは卑怯なくらい狩猟向きであると思い知った。


そして、新たな住人を迎える決断をした日、ゲオルグは住民達を一同に集めた。


「さて、皆に集まって貰ったのは他でもない、いよいよ、この街………ガルディナ森都しんとに新たな住人を迎えようと思ってのことだ」


ゲオルグのその声に、住人達が気炎を上げたのが伝わってくる。ちなみにガルディナ森都と言うのは、住民達がいつしかそう呼び始めたのが由来である。広さは兎も角、人口的にはまだまだ村レベルなのだが、敢えて訂正させたりはしない。いつしか名前に見合うものにすればいいのだから。


「どれだけの住人が集まるかは分からない。ただ恐らくは、諸君らよりも多くの人数となるであろうとは思う。それだけの人数に、俺はまた諸君らにしたようなことをまた一からせねばならない為、そちらに多くの時間が割かれることになるだろう。そうなれば、その間この街をより豊かにしていくのは、諸君らの仕事だ………どうだ?やりがいがあるだろう?」


不敵な笑みを携えたその問いかけに、意気込む者もいれば不安そうになる者、萎縮してしまう者など、反応は様々だ。


「無論、各々が思うがままに行動しては意味がない。新たな住人を迎えるにあたって、そろそろ上下関係を構築せねばならない。今回は、先ずそこから決めよう」


上下関係、その言葉に、多くの者が露骨に眉をしかめる。今までは、ゲオルグを頂点とした一頭体制の元、家族のような気安い関係を保ってきたのだ、無理もない。


「言っておくが、上下の上になったからと言って、それはこの街を円滑に運営するためのもの、人を使う立場にはなるが、当然そこには責任と義務が生ずる、決して楽が出来るなんてことはないし、その関係はあくまで仕事におけるものだ。日常生活にまでそれを持ち込む者は、問答無用で交代させる、いいな?」


ゲオルグがそう言ったところで、安堵の空気。要は、それぞれの仕事に代表者が出来て、その代表者がゲオルグの指示を受けてそれを的確に成す為に他の同僚に指示するというだけのこと。住民が増えて職種や職場が増えれば、当然ゲオルグがその全てを見て指示するというのは難しくなる。そこで、代表者を決めてその代表者が経過や成果の報告をし、それを受けたゲオルグが次の指示を与えるという現場と総指揮官の連携を効率化する為のものだ。


尤も、ゲオルグはこれを組織化の第一歩として採用したという一面もある。


「理解できたようだな、俺の教育の賜物か」


そう茶化して場の空気を弛緩させてから、話を続ける。


「また、新住民の教育が終わり次第、それぞれの仕事へ振り分けるが、決して先人だからと驕り高ぶることのないようにな。それと、俺とフェリスが三日ほどここを空けるが、その間はこのニーナとケイルが率先して運営にあたる。この二人の能力は皆も知るところであろうが、まだまだ半人前だ、諸君らもただ頼るのではなく、しっかりと協力してやって欲しい………二人とも」


「はい、このニーナ、恐れ多くもゲオルグ様の代役を務めさせて頂く以上、誠心誠意励むつもりでありますので、何卒、皆さんのお力をお貸し頂けますようお願い申し上げます」


「同じく、不肖ケイル、ゲオルグ様の期待を裏切らぬよう奮励努力する所存故、どうかご協力頂きたい」


男女二人組のエルフの挨拶に、衆人は拍手を以て応える。日々の努力が皆に正しく伝わっている証だろう。


「よろしい、では、今から各職の長とその補佐を発表する。まずは農業、兎人族のヘレン、補佐は鼠人族の………」


こうして、各職の長と補佐を任命したのち、各々からの質問を受け付けそれに答え、この会合は終わりを迎えた。


「では諸君、新たな体制の元、新住民達をしっかりと受け入れられるよう鋭意努力するように、以上、解散!!」


ゲオルグの声が高らかに響き、最後の準備は整った。

間も無く、この街に新たな息吹が訪れる。

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