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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第三章 国の土台と基礎固め
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大人買い

村人達を集めて新体制を構築した翌日、ゲオルグとフェリスの二人は、街の城門で見送りを受けていた。


「では、行ってくる。俺達が不在の間、しっかりとここを守ってくれ」


「はい、この命に懸けましても」


「結構。なに、ほんの3日程度の話だ、何事も起こらないと信じているぞ」


「はっ、どうぞお任せ下さい」


やたらと堅苦しい挨拶をしてくるニーナとケイル、この生真面目で努力を惜しまない性格を、ゲオルグは好ましく思っている。


「それでは、皆、何事もなければまた3日後に会おう。フェリス」


「はい」


そう言って、風魔法で二人は飛び立ち、68人の住民に見送られながら、彼らと出会った街へと向かっていった。













「行っちゃった………」


「そうだな………よし、仕事に戻るか!!」


「そうね、たった3日、きっと大した事なんてできないけど、ゲオルグ様を失望させないようにしないと」


「あぁ、いつまでもゲオルグ様に全てをお任せする訳にもいかないからな」


「えぇ、私達の救世主にして偉大なるドラグニル様、きっとあのお方だけでも多くの事は解決できます、でも、それを私たちにお任せ下さるということは、きっと期待して下さっているから」


「それを裏切らぬことこそ、我らに出来る恩返しにして奉公、忠義の証」


「我ら皆、あのお方の御為に………」


二人が飛び去った後、残された人々の気持ちを代弁するかのように、ニーナとケイルがそう言った。後ろでそれを聞いていた他の住民達も、大きく頷いている。彼らにとって、ゲオルグとはどれだけ親しくなろうとも、神聖不可侵の存在であることに変わりはない。きっと、いつしかゲオルグの願いが叶い、ここに国が興った時、その歴史が続く限り、ゲオルグは語り続けられるだろう。偉大な祖として、或いは主として、あるいは親として………
















「見えてきたな」


「はい、確かに見覚えのある街です」


そんな会話がされていることなど露知らぬ二人は、ようやく以前訪れた街に到着するところだった。


「あまり代わり映えはないようだな」


「私達の街が急速に変化し過ぎなだけだと思いますけどね」


そんな他愛もない会話をしながら地上に降り立ち、歩いて城門へと向かう。そこには、ゲオルグ達を見た途端に顔を青くした衛兵がいた(ゲオルグ達が前回と全く同じ格好だからすぐに気付いたらしい)。


「こ……これはこれは、どうぞお通り下さい!!」


「ん、御苦労」


もはや顔パスである。たったの一度しか訪れていないというのに。


ただ労少なく済むのならそれに越したことはないので、それ以上は何も言わずに二人とも街に入り、そのままゴルトベルク商会へ向かう。


商会に着くと、外で掃き掃除をしていた店員が気付き、一礼した後に慌てて中に入っていった。二人が中へ入るとすぐに前回通された部屋に案内され、そこにはすでにエドが待機していた。


「ようこそお越し下さいました!!ささ、どうぞお座り下さい」


「ん、すまんな」


「失礼します」


満面の笑みで二人を出迎えたエド。最後に会った時は青白い顔をしていたが、今はすこぶる健康そうでなによりだ。


「さて、エド、今日の用件は大体察しているのだろう?」


「勿論ですとも!!亜人の追加で御座いましょう?」


「主目的はそれだ。それで、今回は如何程集められる?」


「そうですな………何処かの誰かが噂を流してくれたお陰で、昨日までに確認しただけでも400は下らない、と言ったところでしょう」


その言葉に、ゲオルグが驚いた。精々300程度と見積もり準備を整えていたのに、それを大きく上回る数字が出てきたからだ。


<これは………俺の見通しが甘かったか。しかし、全てを引き取るという方針を変える訳にはいかない。寧ろ嬉しい誤算、家屋は足りるだろうから、問題は食料か………街に戻り次第食料の増産を図らねばな。500人分の食料ともなれば、狩猟も推進していかねばならないか。それと漁業も、そろそろ本格的に動かすか?>


「あ………あの、ゲオルグ様?」


「ん?、あぁ、済まない。予想以上に集まったのでな、少々早く手を出せる事業もありそうだな、と」


「あぁそうでしたか。もし足らないなどと言われてはどうしようかと………」


「そんなことはないさ。それより、亜人だけでなくいくつかの追加発注があるのだが………その前に資産の確認か」


そこまで言ったところで、エドは表情を輝かせた。


「実はそのことなのですが、あの服を想定の倍以上で購入された方がおりまして、以前お渡しした資料を大きく上回る資産が残されております」


「………なに?」


「前回消費なされた資産、それがおよそ倍になったとお思い下さい。あれでも高めに見積もってあったのですが、その倍です。王族に連なるさるお方がどこかで聞き付け、それを購入なされたのです。お陰で我が商会は王族の御一族と繋がりを得て、さらに多く収入を得ることができました。今では、商会の規模を今少し拡大しようかなどという意見すら出てきております。全ては貴方様のお陰、我ら商会員一同、ただただ頭の下がる思いにございます」


一気に捲し立てながら本当に頭を下げてくるエド、しかし、ゲオルグとして聞き捨てならない言葉が他にあった。


「王族に連なる者だと?………一体誰だ?」


そう、王族の人間ともなれば、あれにそれだけの金を費やすのも分かる。だが問題なのはそこではなく、王族にゲオルグの存在が伝わることなのだ。そうなれば、煩わしい事に巻き込まれる姿が目に浮かぶ。


「王国北部、つまりこのニデアの街を含めた一帯と、その他にも多くの地域を治める、侯爵閣下、エイルハルト・フォン・フリードリヒ・グロタンディーク様です」


「………長い。で、聞くが、そのグロタンとやらに俺の事は?」


「ま……まさか喋ってなどおりませんよ!!ただ古い伝手つてから偶然にも相場より安く手に入れられた、としか」


「ならば結構、エドも商人の一員ならば、腹芸も得意技なのだろうしな」


「そ………それはまぁ……は、はは」


ゲオルグの威圧するような視線に、乾いた笑みを浮かべるエド。もしあの侯爵の激しい質問攻めや酒を使っての誘導尋問などに掛かり彼のことを喋ってしまっていたら、今頃どんな目に遭っていたか想像もつかなかった。


「では本題に戻ろう。つまり、俺の資産はその亜人400人以上を相場の10倍程度で買っても、まだ余裕ということだな?」


「えぇ、その価格で700人も買えば流石に底が見えて来るでしょうが………」


「そんなにはいない、という事か………まぁそれはいい。では追加の注文だが、まずは亜人達の服、これは前回と同じ、それから食料や毛布だが、これもだ。そこに今度は、鶏を50羽程、小麦の苗、あるいは種籾を……そうだな、500M四方の畑に植えられる程度揃えばいい。これとは別に、小麦粉も300Kgほど欲しいな。あとは、服飾関係の人間から、簡単な衣服の作り方などを紙に纏めさせてこれの提出、それと裁縫に必要な道具一式を50セット程、基本的な材料、これはあればあるだけいい。植物関係の材料ならば、その原材料の苗か種もだ。後、馬も10頭ばかり頼みたい。これも雌雄の数は繁殖に適した割合をだ……こんなところか」


とりあえず思い付く限りの要望を伝えたところで、ふんふんと頷きながらメモを走らせていたエドが顔を上げた。


「これだけの物となると、資産の大部分を投入することになりますが……」


「構わない。恐らく、次に来るのは2年以上先になるだろう」


500人にもなる住民に教育を施し識字率と四則演算の習得率を100%にし、さらに今ある産業の規模の拡大、また新たな産業の開発や、独自の文化の一定レベルまでの育成、それに伴い産業毎の組織化と、それを統括する人材の育成。その他あらゆる課題があの街に一気に山積みになるのだ。今回ばかりは、数ヵ月や一年程度でどうにかなることではない。


「に………2年……ですか?」


「あぁ、短くともな。だから、ここで資産を一気に使っておきたい。余った資産はその3割をこの商会に与える、残った7割で、先の注文の中で増やせるものを増やして、使いきってくれ」


「そ………それでは……」


「あぁ、別にお前との縁が切れることはないさ。次に人里に来るときも、最初はこの………ニデアだったか?、の街だろうし、その時はまたここを訪ねる。その時には新たな取引が出来ることを期待していてくれ」


ゲオルグのその言葉に、エドはあからさまに安堵の溜め息をついた。エドにとって、ゲオルグというドラグニルは莫大な利益をもたらしてくれた幸運の神様だ。その縁が切れることはさけたかったのだろう。


「では、頼んだぞ。期限は三日、場所は前回と同じだ」


「えぇ、畏まりました。ただ、今回は数が数です。間に合うかどうか、保証は致しかねます。ですので、二日後の夕方、よろしければここをお訪ね下さい。その時にでも、進捗状況を報告させて頂きます」


「分かった、では今日はここらで失礼しよう。エド、お前が思っている以上に、俺がお前に受けた借りは大きい。なにか問題が起きた時、俺の力でどうにかできることだったならば、協力してやるのもやぶさかではない」


「そ………それは……」


ドラグニルの助力、それでどうにもならないことなど、恐らくはほとんどあるまい。それを理解しているからこそ、エドは素直に言葉が出てこなかった。


「なに、お前の手腕ならそんな事態にはなるまいが、最後の手段程度には思っても構わん、程度の話さ。では、また二日後にな」


そう言い立ち去るゲオルグと、それに追随するフェリスを、エドは呆けて見送るしか出来なかった。ゲオルグの発言は、それだけ巨大な爆弾だった、ということだ。


エドがその意味を十全に理解した時、ゴルトベルク商会に絶叫が響き渡ったとか………

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