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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第二章 建国へ向け
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始動

昨晩、宿にもどった二人は、今日のことを入念に打ち合わせしてあった。引き渡しの際のことや、あの開拓地に戻ってからのことなど。つまりそれなりの覚悟などを決めていた訳だが、流石に目の前の光景には目を見張った。


「…………なんと言うか」


「…………私、こんなにたくさんの獣人初めて見ました」


街から見えない程度に離れた平原、そこに、100人程の人影。そしてその殆どは亜人であるというのは、なんと言うか感動的ですらある(人間は30人程)。更には大量の物資が山と積まれ、視界を遮るほどである。


「…………ご注文の品、確かに揃えて御座います。こちらが目録と収支報告書です」


そう言ったエドが、ゲオルグに数枚の紙を差し出す。そこには、亜人の種類毎の数と物資の種類と量、また、差し引きで幾らほどの資産が残ったかがしっかりと記載されている。


目録内容に触れると

・狼人族、雄6匹、雌7匹  ※狼人族ろうじんぞく

・虎人族、雄4匹、雌8匹  ※虎人族こじんぞく

・兎人族、雄6匹、雌9匹  ※兎人族とじんぞく

・鼠人族、雄2匹、雌4匹  ※鼠人族そじんぞく

・羊人族、雄4匹、雌7匹  ※羊人族ようじんぞく

・ドワーフ、雄2匹、雌1匹

・エルフ、雄3匹、雌5匹


合計68人もの亜人が揃っていた。男より女が多いのは、単純に労働力として男に劣り安価だからだそうだ。ちなみに、ドワーフやエルフなどはそもそも獣人よりも尚数が少なく、男女による力の差が少ないのでその方式には当てはまらないそうだが。


子供や老人の姿は見えない。子供は売り手が渋るし、年老いて労働力として期待できなくなった者はほとんどが殺処分されてしまうが故だろう。


ついでに言うとドワーフは、よくイメージとして上げられるずんぐりむっくりの毛むくじゃらではなく、人間よりやや体が小さく、その割にやたらと立派な筋肉様である以外は人間と大差ない。


エルフはだいたい想像通りであるが、際立って美形だとかそう言うことはなく、耳が独特の形をしていて線が細いのが特徴である。それと魔法適性が本来高いはずなのだが、半監禁生活でまともな訓練などしていないとなれば使えないのも通りである。


「ふむ………言っておいてなんだが、よくこれだけ集めたな」


この他にも、600着以上もの衣類(亜人達にそれぞれ持たせている)に、100枚を超える毛布、干し肉や黒パン、塩、胡椒などの食料や調味料、砂糖も多くはないが含まれている。また生活の上で必要になってくる鉄鍋や割れにくい木皿などの類もかなりの数が目録に記されている。


最悪獣人達だけでも揃っていれば御の字、くらいに思っていたので、これには流石に驚いた。しかも、これでもまだ資産が5分の3くらいは残っている(しっかり1割半は引かれているが)。相当の無理をしたことは想像に難くない。


「はは………えぇ、それはもう、ドラ……ゲオルグ様の要望とあっては、叶えぬ訳にはいきませんからな」


「………一瞬本音が出たな?」


「い………いやいや、まさかそのようなことは……」


疲れきった表情を隠し切れない様子で答えてくるその様には、最早尊敬すら覚える。別に、ゲオルグからすれば、ドラグニルを恐れた結果だろうがなんだろうが構わないことである。


「………まぁいい。金は払っているが、エドの様子を見るにそれ以上の苦労を強いたようなのはよく分かる。これは、俺への貸しを一つ作ったとでも思っておくといい」


ゲオルグのその言葉に、エドが表情を輝かせた


「で、では!今後ともあのような品を卸して頂けるので!?」


「む………そうきたか。あれは俺からすれば大した価値はないとは言え、今回限りと思ってやったこと。まぁ、エドがどうしてもと望むなら、考えるが………」


ゲオルグが渋るような言い方をすると、エドも少し考え込むような仕草をし。


「いえ、確かに高望みが過ぎましたな。あのような物はそうそう出回って良いものでもありません、取り合えず今回は、貴方様のような方と縁を結べただけでも良しとしましょう」


「ふっ、賢い選択だな。ま、そのうちまた来るさ………そうだな、3ヶ月か4ヶ月、遅くとも半年以内には、また世話になるだろう」


「……………やはりあの噂、出所は貴方でしたか」


「さて、なんのことやら」


訝しげなエドに、飄々としたゲオルグ、それはまるで、悪童に手を焼く大人のようでもある。


「まぁ、敢えて触れずにおきましょう。興味は尽きませぬが、どうにも深入りするのは恐ろしい」


「正しい選択だ。では、そろそろ引き上げよう。そちらの人手はもう返して貰って構わん、よく頑張ってくれた」


「………へ?、こ、これらをどう運ぶおつもりなのですか?」


「人間には出来ぬ方法で、さ。あまり大勢に見られるのは都合が悪いのでな」


恐らく、ゲオルグの種族を知るのはエドだけだ。故に、小声で耳打ちすると、エドはすぐに理解したのか、部下達に撤収を命じた。


「ではゲオルグ樣、またの機会がございましたら、是非ともまたご贔屓の程、お願い致します」


「ん、期待しておいて構わんぞ?」


「心よりお待ちしております。では、この度は当ゴルトベルク商会をご利用頂き、誠にありがとうございました」


そう挨拶して立ち去る商会の人間達を見送り、その姿が見えなくなった頃、ゲオルグの傍らに、今まで距離を取っていたフェリスが近付いてくる。


「兄さん、やっぱり、みんなスゴく怯えてる」


「だろうな、いきなり大金で買われてこんなところに集められてじゃ、怖がりもするさ。だが、不安や恐怖を取り除くのはあっちに着いてからだな………」


そう言って、ゲオルグは集まってオドオドしている獣人達に向き直り、フードを取って極上の笑顔を浮かべてこう言った。





「さぁ諸君!!空を飛んだことはあるか?」と。

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