新しい家族
「兄さん………」
「ん?」
「何人か気絶してっるぽいけど………」
「勿体無いな、きっと空を飛ぶのは初めてだろうに」
「だからじゃないかな……………」
今、ゲオルグ達はあの開拓地へ向け順調に飛行中である。最初はフェリスと同じように体を飛ばせようとも思ったのだが、流石に地に足が着かないのは怖いかとおもい「地面」ごと飛ばすことにしたのだ。
物資や獣人達の集まっていた地点を厚さ50cmほどに切り取り圧縮した後硬化させ、そのまるで鉄板のようになったそれごと、風魔法で空に持ち上げて移動している。
「あ~………あんなに身を寄せ合っちゃって………」
「仲良くなれたなら結構じゃないか、吊り橋効果ってやつだな」
そう言って快活に笑うゲオルグを、フェリスはジトッとした目で見つめた。
「そう見つめるな、照れる」
「そういう意味で見てないし!!」
「それは残念。それより、どうせすぐ到着だ、今の内に挨拶を考えておけよ?」
「急に真面目になるし………まぁいいですけど。今日は治療と食事、休息だけでしたよね?」
「あぁ、なんなら街中を案内してもいいが、まだ何もないしな。適当に家を割り振ったらそこに毛布や雑貨を運びこむ手伝いくらいはして貰うか。簡単なクローゼットくらいなら俺でも作れるし、毛布があるのだからベッドもあった方がいいだろう。服は生産できるようになるまでは、今持っている物がすべてになるのだから、大切に使って貰わねばな」
「なんと言うか、万能なようで微妙に万能じゃないんだよね、兄さんって」
「………言うな」
衣服は作れないし(竜皮の服などは脱皮のようなものなので自身は服とは認めていない)、食糧を生み出したり成長を早めたりもできない。まして生物の創造なんて論外だし、魔物を眷属にしたりなんてことも出来ない。あくまで、独りで生きるには全く困らない程度、というか持て余すほどの性能ではあるが、こと国を作り発展させるとなると、どうにも自分だけだは手が届かないところがあった。
「如何なる生物にも、完璧なものなど存在しないってことなんだろうよ。ま、人間から比べれば完璧に限りなく近いのだろうがな」
「だろうねぇ」
地上のあらゆる生物を凌駕する力に頑強さ、その上、魔法の素質も万遍なく高く、寿命は20倍以上にもなるのだから、人間が憧れるのも無理もない。
「お蔭で色々と無理が利くのは助かるがな」
「兄さんはやり過ぎだと思うけどね」
「これでも大分、穏当にしているつもりなのだがな」
そんな会話を続けながら、獣人達の新天地へと向かう二人だった。
「到着っと」
「やっとだねぇ、あ、後ろの君たち、今から地上に降りるから気を付けてね」
そして、築き上げられた城壁の内側、まだなにも建築していない場所に降ろしていく。
「ん、着地予定地点障害なし、魔力異常なし、出力正常、これより……」
「何言ってるの?」
「……………………」
男のロマンだ分かれよ、などと思ったかは別として、結局無言で地上に降ろしたゲオルグである。
「さて、まずは諸君、新天地へようこそ!!色々言いたいことはあるが、まずは………そうだな、体を治してからにしようか」
改めて獣人達を見ると、ほとんどが大なり小なり怪我をしているし、具合の悪そうなのも見受けられる(ゲオルグのせいもあるのだが)。まずはそれを治してからだと思い立ち、ゲオルグは広域回復魔法を行使した。
暖かな日差しのように辺りを包み込む光。それが消えた時、そこには見るからに顔色のよくなった獣人達がいた。ついでに、後ろで檻に入れられた動物達も元気になっていたようだが。
「こ………これは……」
「わ、私の耳……耳がある!!」
「足も手も痛くない………」
「暖かい………」
そんな声が俄かに響く、それに満足げに頷いたゲオルグが続ける。
「さぁ、改めて挨拶といこう、俺はゲオルグ・スタンフォード。見ての通りのドラグニルだ、こっちは妹の……」
「フェリスです。フェリス・スタンフォード。虎人族です」
そう挨拶をしながらフードを取ると、先ほどとは違った喧噪が巻き起こる。
「妹と言いましたが、見ての通り血は繋がっていません。私はある村に買われ、そこで過ごしていたところを兄に救われ、こうして自分の意思でここにいます。過分にも家族として頂き、兄、妹として今まで過ごしてきました。これからは、みなさんも家族となってくれたら嬉しいです」
そう言って締めると、喧噪は静まり、次の言葉を待つように二人をじっと見てくる。
「………では諸君、ようこそ我が街、我が家、我が家族の元へ。ここに人間はいない、諸君らを虐げる存在はない。ここはこれから諸君らが諸君らの手で発展させ、豊かにし、人生を謳歌する場所だ・・・ここにいる限り、少なくとも俺がいる限り、それは守られる。俺は、この世界の、人間が亜人と呼び蔑むあらゆる種族の在り方を変えたい。その第一歩が、妹のフェリスであり諸君らである………一応聞いておくが、元いた場所に戻りたいというのならすぐに言ってくれ、必ず俺が送り届ける。だが願わくば、俺は諸君らと共に新たな歴史を刻みたい」
そこまで言い切り反応を待つ。やがて、ポツポツと、声が返ってくる。
「………ここでなら、自由に生きていいのか?」
「あぁ、だが限度はある。殺しや盗み、詐欺、その他犯罪行為には厳罰を以て処する」
「あの……私達は………なにをしたらいいの?」
「色々だな、農業、酪農、畜産、将来的には商業や俺の補佐として街の運営なども任せることになるだろう」
「そ……そんなこと………学もないのに……」
「言い忘れたが、これから数か月の間は、勉学に励んで貰うぞ。文字の読み書きから始まり、足し算、引き算、掛け算、割り算はしっかりと出来るようにな。その間の衣食住は俺が保障しよう。そしてそれらが修了した段階で希望を募り、できるだけその要望にあった仕事を与えよう。今から仮の家も与えるが、仕事が決まり次第それに適した場所に移ってもらい、そこを本宅として貰うつもりだ」
「学問を教えて頂けるのですか!?」
「当たり前だ。それとも、これからより多くの人々を抱えていこうと言うのに、全て俺に任せる気か?、勘弁してくれ」
そう言って苦笑したところで、獣人達のボルテージは最高潮にまで高まる。
「俺達が勉学を………」
「もう暴力に怯えなくていいの?」
「じ………自分で仕事も選べるのか………」
「信じられない………人間みたい……」
「ふざけるな、俺達は人間みてえな真似はしない」
「そ………それより、い……家も持てるのか?」
「今そう言ってたじゃない」
そんな喧噪がしばらく続いた後。
「俺はスタンフォード様についていく」
「私も、この耳を治して貰った恩もお返ししたい」
「非力なエルフでもお役に立てるなら………」
そんな声が口々から発せられ、それがやがて総意となった頃、ゲオルグはなだめて語りかける。
「よくぞ決心してくれた。諸君らはこの街の始まりにして歴史の起源だ、そして………」
そこで一度区切り、目の前の人々を見渡してから微笑み。
「我が、家族だ」
そう言うと、皆一様に嬉しそうな笑みを、或いは泣き顔、或いは何かを覚悟したような表情を、浮かべるのだった。




