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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第十章 そして世界が廻り出す
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幕間  ~サンドラの日常・ガルディナ編~

サンドラの朝は早い。


夜が明けると同時に布団を抜け出し、兵舎の外にある井戸で水を浴び眠気を覚まし、軽く走ってから剣を振るい、汗をかいてきたころにまた水を浴び、そして朝食を摂る。


金髪碧眼の美しい容姿を誇る彼女が半裸になって水を浴びるシーンを見る為に、帝国武官達も自然と早起きするようになったのは余談である。


彼女に言わせると「私の体に恥ずべき点など何もない。見たいと言うなら見ればいい」とのことである。ちなみにだが、流石に手を出そうとする者はいない。彼女が腕っぷしが強いから、などではなく、単純に彼女の父親を恐れてのことである。


彼女の父であるレオニードが、彼女の嫁入り先を探しているというのは周知の事実である。そして、彼女が帝国女の鑑と言わんばかりの勝気な性格であることも。


剣を嗜み馬術にも秀で、男顔負けの武勇を誇る彼女を御する自信を持つ者はそうはいない。いたとしても、それだけの器量があれば他の優良物件を選ぶに決まっている。


事故物件、と呼ぶと非常に語弊があるが、すくなくとも、貴族の男として女の尻に敷かれるなど真っ平である、という者が多いのも事実であるし、なにより、侯爵家という家格もそれを一層強くする要因である。


話しがずれたが、とにかく、彼女には浮いた話の一つも無い、ということだ。


「おい! そこの! 暇なら私と手合せ願おう!」


こうして暇さえあれば誰彼かまわず試合を申し込むというのもあるが。


そんな彼女であるが、ガルディナに来てからと言うもの、それはより顕著になり始めている。なにせ、外出がほとんど出来ず、馬で遠乗りも出来ないがため、その鬱憤を晴らさんと剣術にのめり込んでいるからだ。


「お願い致します。どうか、彼女だけでも外出の許可を出して下さい。ガルディナ軍、いえ近衛の方でも構いません。存分に見張りをつけて頂いて結構ですから……」


そんな嘆願が、ヨハンを通しゲオルグの元に届いたのはつい最近である。


その嘆願書の内容を要約すると。


・剣術の勝負を毎日のように無差別に仕掛け、怪我人が増え始めた。

・愛馬に乗り練兵場の敷地内で早駆けを行い、危うく事故を起こすところだった。

・夜中に酒盛を始め、若い連中を巻き込んで大騒ぎをして苦情が絶えない。

・ガルディナ軍の方々を見かけては勝負を挑むため、両国の関係に悪影響を与えかねない。


等々、ゲオルグが軽い眩暈を起こすにまで至る内容であった。


「本当に女か……?」


そんな彼の呟きに、嘆願書を提出にきたヨハンを始めとする周囲の者達が苦笑を浮かべた光景が、容易に想像出来るであろう。


そんな彼女に、ゲオルグが直接に会いに行きその要望を聞いたのは昨日。そして本日、彼女の要望がめでたく(?)叶えられることとなったのだ。


「おぉ! これがガルディナの街並み! 活気があって素晴らしいわ!」


彼女は数名の近衛同行のもと、街中を歩いている。


元々、そろそろ帝国人の兵舎外への外出許可を考えてはいたため、それは呆気なく承認された。正規軍の面々を通じて、対人間感情も緩やかにではあるが良くなりつつある。


全ての人間が亜人に対し差別的態度を取る訳ではない、という声が目立つようにもなってきたところである。勿論、この街に駐在している帝国武官達がそうなるよう懸命に取り組んでいるというのが大きな理由でもある。


事実、彼らも来た当初はガルディナ正規軍の面々との距離感を掴めずに苦労していた訳だが、今ではよき僚友となりつつある。


「んー……服はちょっとまだアレだけど、装飾品は見事の一言ね。これ、ちなみにお幾ら?」


「は、はぁ。小金貨1枚と銀貨1枚です」


「買ったわ。これでいいかしら?」


宝飾品を取り扱う店で、銀のブレスレットを購入するサンドラ。銀のみで作られたシンプルなものだが、細かな鎖状になったブレスレットには、一か所だけ板状に加工された部分があり、そこに炎を吹く竜の意匠が施されている、少しばかり手の込んだ品物だった。


男性向けにデザインされているそれであるが、サンドラは気に留める様子もない。もともと、貴婦人が身に着けるような宝飾品にはあまり興味を示さない彼女だ。ゴテゴテして重いだけのものを身に着ける意味が分からない、とまでのたまった事がある彼女らしいと言えばそれまでだが。


ちなみに、デザインが現代的なのはゲオルグが時折口を出すからである。また、彼女や他の武官に渡されているガルディナの通貨だが、これはガルディナに駐在している間のみ、帝国からとは別に支給されている給料である。帝国とは通貨が異なるための致し方ない処置であるが、こちらを出国する際には返金し、それ相当する額を帝国が改めて支給する、ということになっている。


この非常に面倒な方法に至るまでの紆余曲折はここでは省略しておく。


「無骨と言えばそうかもしれないけど、帝国ではこれだけ細かくて凝った作りの物なんて中々お目にかかれないわ。父上にも何か買っていこうかしら?」


買ったばかりのブレスレットを早速身に着け、日の光にかざしながら感想を呟くサンドラに、近衛の面々と店主は苦笑を浮かべる。


その後は、ガルディナでは軍と警衛隊以外が所持を禁止されている武器や防具を見たいと言い出し近衛を困らせたり、街の外を走らせたいと馬を連れ出そうとしたりと騒動はあるにはあったが、概ね問題なくその日は終わる。


後日、感想を求めにやって来たゲオルグを相手に手合せを申込み、案の定完敗し、その後遠乗りを提案、ゲオルグを半ば無理矢理に同伴させ街の外周を馬で早駆け。帰りがてらに街中で買い物、と、これまでにたまったストレスを発散させるかのように1日やりたい放題してくれた。


とは言え、街の住民に迷惑をかける訳でもなく(尤も、軍やゲオルグには少なからぬ迷惑を掛けている)、その日付き合ったお蔭か、しばらくそのやかましさも鳴りを潜め、時折街に金を落としてくれるので何とも言い難いというのがゲオルグの感想だった。


後日、正式に帝国武官達に街中を出歩く許可が下りたのだが、住民達から「帝国人は金払いが良い」という印象が付いたのか、あらゆるものを売りつけられていたりする。


なにはともあれ、ガルディナの住民達と帝国人……人間の交流は、今のところは順調ということである。


その要因となったサンドラは、近頃「お父様の思惑に乗るのは面白くないけど……ゲオルグ様ならありね」などと言う発言がちらほらと聞かれるようになったそうだが、その真意は未だ謎……ということにしておこう。





なんとか3話終わった……新年からは新章に突入致します。

書籍も……頑張ります。

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