表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第十一章 戦乱の時代
151/153

新たな敵

 遅くなりましたが、新年最初の投稿です。

 年開け直ぐに親族のお葬式、その他諸事情が重なり時間が中々取れず、大変お待たせして申し訳ございません。本年も、本作をご愛読賜れれば幸甚に存じます。







「フリュンゲルが?」

「えぇ、現在、南部への増援の為、海岸線防衛に充てられていた兵が呼び戻されている状態です。戦線は膠着状態に陥り、バスネル将軍は敵に劣る兵数で持久戦を余儀なくされております。しかし、幸いながらフリュンゲルは攻勢に打って出る気配がなく、今のところは問題なく持ちこたえられそうとのことですが……」

「それもいつまで続くか分からない、ということか」

「はい」

「フリュンゲル……今になって急にとは、一体何事だ?」

 サグラーシ砦に赴いたゲオルグは今、ニコライと面談中であった。元々、込み入った話をするつもりは全くなく、ちょっとした挨拶程度に考えていたのだが、どうにもそういう訳にもいかなそうである。

「フリュンゲルと言えば、教会の影響も大きいのだったか?」

「えぇ。まぁどちらかと言えば帝国に近い立ち位置ではありますが、とは言え亜人が人前に出られる程平和的ではありませんな。隠れ住んでいるか、人間に使役されているかのどちらでしょう」

「そんな国が対帝国戦に参入とは、あまり嬉しくはない情報だな。全く……まぁ情勢が情勢故、流動的なのは致し方ないのだが……」

 腕を組み唸るゲオルグに、ニコライが同情するように声を掛けた。

「ご心中、お察し致します。しかし、これは好機やもしれませぬな」

「好機?」

「えぇ。帝国とは敵対致しましたが、それは必ずしもスタンフォード公との敵対を意味するものではありますまい。貴方様がフリュンゲルと帝国の様に直接交渉なさるのであれば、撤兵と亜じ……ガルディナ人の供出くらいは引き出せるのでは?」

 亜人、と言いかけたことに一瞬眉を顰めたゲオルグではあるが、それが今まで当たり前の呼び方であった以上、殊更責めたてるようなことは出来ない。まして、彼はゲオルグと交流を始めてから日も浅い。これがラシードであったならば、彼がその怒りを露わにした可能性もあるが。

 ゲオルグは一度頭を振って彼の失言を忘れる様に努め、そして改めてニコライの言葉を咀嚼し、頭の中で計算を重ねた。そして。

「案外、それが狙いなのかもしれんな」

 と言った。

「……成る程、そういう可能性もありますな」

 ニコライの方も、その言葉の意味する所を理解したらしく、鷹揚に頷きながらそう返した。彼らは最初、フリュンゲルがゲオルグの存在を知らないという体で話をしていたが、ゲオルグはそれを逆転させたのだ。

「帝国との戦線に軍を送ることで、帝国ではなく、その先に居るであろうスタンフォード公との交渉の席を設けようとしている、というころですな」

「ついでに、軍の撤退を条件に強気の交渉でもしてくるやもな」

「なんともはや……愚かなことを……」

 ニコライが首を左右に振りながら嘆息する。呆れと侮蔑の色がありありと浮かんでいるが、それは彼がゲオルグの力を知っているからこそである。それを知らぬフリュンゲルからすれば、真偽の定かでないのドラグニルの伝承を信じ、初手から下手に出て交渉しようとすることの方が余程有り得ないことだ。

 帝国のように、いきなり何の前触れもなく訪れたならば慎重にもなるだろうが、彼らは帝国からの間接的な情報を元に行動している。そこに、ゲオルグの個人的な武力などが含まれていないことも要因の一つであろう。彼が空輸以外でその力を発揮したのは砦の建設やサグラーシ砦での交戦であるが、砦の建設はそれこそ一部将校しかその現場を見ておらず、サグラーシ砦での交戦もその殆どはガルディナ正規軍に任せていた以上、それは致し方のないことでもあるのだが。

「如何するおつもりで?」

 ニコライがゲオルグの表情を伺いながらそう訊ねるが、当のゲオルグも想定していなかった出来事に腕を組みむっつりと黙り込んだままである。彼はこれまで、良くも悪くも自分主体、ガルディナ主体に物事を進めてきていたのだが、今回は帝国まで巻き込んでいる以上、そういう訳にもいかない。それが、彼の悩みの種であった。

「さて……どうしたものか。一番早いのは俺が奴らを物理的に黙らせることだろうが、それでは帝国の面目が立つまい。ラシードが戦地で苦労しているのはフリュンゲルの連中のお蔭だ。一矢も報いずに撤退などされては、ラシードや将兵も面白くはあるまいな」

「そうですな……彼らも、今回は南の領地を獲得する為に躍起になっております。その出鼻を挫いてきた連中に対して、強く不快感を抱いていることでしょうな」

「で、あろうな。とは言え、これを無視しても良いことはあるまい。ラシード等には我慢をして貰うか……いや」

 そこで言葉を切ってから、ゲオルグは一度天井を見上げ、溜め息を一つ吐いた。それは、困った、というよりは、面白いことを思いつき、それが実行できるか思案している様子である。

「……どうせ、既に事実上敵対しているしな」

「……?」

 ゲオルグの誰に向けた訳でもない言葉に、ニコライが訝しむような表情を浮かべた。どうにも、不穏な気配が漂っている。

「例えば、そう、例えばの話なのだがな? ニコライ」

「な、なんでしょう……」

「我々も、既に一〇〇〇を超える兵を抱えている訳だが、それは援軍としては頼りないものだろうか?」

「……近衛も含めるのであれば、かなりの脅威を言えましょう。それでなくとも、ガルディナの軍の練度、そして機動力は音に聞こえております。先のサグラーシ防衛戦においても、散々に敵を奇襲し、休ませることがなかったとか」

「ふむ、そうか……」

 そこまで言ってから再び黙りこくるゲオルグに、ニコライは冷や汗を流し始めた、彼の発言は、明らかに帝国とディナントの戦線に彼の、ガルディナの軍を送り込む為の確認であるからだ。

 確かに、ガルディナ軍は先の戦闘で僅か三〇〇ばかりの兵でありながら、恐れることなく敵に突貫し、最初の奇襲に関して言えば敵の戦線の一部を崩してすらいる。今度はそれの三倍の兵力を用意しようと言うのだ。決して無力、無用とは言えないだろう。

 だが、それはガルディナ軍の存在が、少なくともディナント、フリュンゲルに公になることを意味しており、必然的に帝国との関係性も露わになり始めることを示唆する。そうなれば、教会が本格的に動き出す。帝国は今より厳しい立場に立たされる可能性すらあるのだ。

「恐れながら、公はこの戦線に介入するおつもりなのですか?」

 それ故のこの質問である。当然、彼とて正面きって彼の行動を批判、或いは否定することは恐ろしい。だが、帝国が危地に陥る可能性があれとなれば、それを見過ごす訳にもいかない。彼の地位は帝国あってのもの。帝国の危機は己の地位にも及ぶことになるからだ。

「何とも言えんな。フリュンゲル次第、と言った所か。俺としては、今は外よりも内に目を向けたいところではある。ただ、状況がそれを許さないというのであれば話は別だ。フリュンゲルが本格的にこの戦争に介入し、帝国に不利益を齎そうというのであれば、俺も看過は出来ん。軍の派遣になるか、或いは俺自身が手を貸すかは分からんが、何かしらの形で対抗することになるだろうな」

 ゲオルグのその言葉に、ニコライは胸をとりあえずなで下ろした。流石に、いきなりガルディナ軍を介入させることを考えていた訳ではないようだったからである。しかし。

「まぁ、やることになれば徹底して叩き潰しておきたいところでもあるが、ね」

 続けて発せられたその言葉に、軽い眩暈すら覚えたのは余談である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ