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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第九章 歴史の幕開け
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この親にして

「ぬははははは!! いや、スタンフォード公、誠に見事な戦い振り、それがし心より感服仕った!!」


「なに、俺は先の宣言通り、ほとんど手を出してはいない。褒めるのであれば、後でガルディナの兵達に直接言ってやってくれ。ラシードから、人間からその言葉を引き出せたともなれば、死んだ兵も報われよう」


「うむ、それも通りにございますな。なれば、後ほどガルディナ軍を見舞うことと致しまする。いやしかし、勝ち戦というのはどれほど歳を取ろうと気分の良いものですな!! それも、ドラグニルたるスタンフォード公と共闘出来ようとは、いや、長生きはするものですぞ!!」


ディナント軍が後退した翌日、ガルディナの近衛による入念な偵察の結果、再侵攻はないと判断され、ゲオルグは手勢を連れて城塞に戻ってきていた。勿論、今後の事を話し合う為である。


「そうよな。ラシードには精々長生きして貰わねばならん。軍部に顔の効く人間と繋ぎを絶たれるのは、こちらとしても望ましいとは言えん。これからも頼む」


「言われずとも、これからもスタンフォード公の為、忠勤に励みましょうぞ!!」


「いや、だから忠誠はリュドミラに誓ってやってくれ。励んでくれるのは良いのだがな?」


そんなやりとりをしている最中、一人の将校が二人の元を訪れた。ゲオルグも何度か目にしている、ラシードの幕僚の一人である。


「ご報告致します。援軍のラスカー・バスネル将軍率いる援軍第一陣が只今着陣致しました。間もなく、こちらへ挨拶へ参るものかと思われます」


「おぉ来たか!! スタンフォード公、今しばらくお待ちくだされ、我が愚息を是非に目通り願いたい!!」


「それは構わぬが……」


久し振りにテンションの終始高いラシードに、しばしば押されているゲオルグであるが、それも勝ち戦の後とあっては致し方あるまいと思い、何も言わずにいるゲオルグである。


その後のしばらく他愛もない話に花を咲かせていると、その部屋に先ほどの将校と、30頃であろうという偉丈夫が現れた。


どこかラシード似ているその偉丈夫は、満面の笑みを浮かべながら部屋の中を進んだ。


「おぉよくz――」


「お初にお目にかかりまする!! 我が名はラスカー・バスネル!! ラシード・バスネルの不肖の息子にございますが、何卒よしなにお頼み申し上げる!!」


「――ぞ参っ……た」


「あ、あぁ、こちらこそ……」


両手を広げて出迎えた実の父を、邪魔だと言わんばかりに押しのけてゲオルグの元へ挨拶へと来た偉丈夫――ラスカー・バスネルに、半歩退きながらもどうにか応答した彼は、思いがけない行動に硬直するラシードを横目に見た。


<……なんともまぁ、分かりやすく親子だな>


目をキラキラと輝かせ、今にも抱きついてくるのではないかと思える程興奮しているその様は、後にゲオルグをして「猫は獲物を狙う時、体を左右にうずうずさせるだろう? あれだな、正しく」と言わせたとか。


「ん、んんっ!!」


「いや、まさかこうしてドラグニルにお目見えする事が叶う日が来ようとは、このラスカー、運命の女神に感謝が堪えませぬ!! 私が生まれ、生きているこの時代に、御身がおわすこの幸運、この世のあらゆる神々に感謝を!!」


「そうか……いや、うん、そうか」


わざとらしい咳払いをするラシードすらも尚無視する形で、次々とその感動を表すラスカーであるが、そこでいよいよラシードも耐え切れなくなったのか、ラスカーの方を掴んで無理矢理己に振り向かせた。


「この愚息めが!! 実の父を素通りし、あまつさえその後も無視を重ねるとは、この親不孝者が!!」


「何を仰るかと思えば……なれば申しますが、私が父と同じくドラグニルに憧憬を抱いていることを知りながら、その存在をこれまで隠し通し、幾度となく目通りなさるとは、実の息子の夢を叶えようという親として当たり前に持つべき感性をどこかに置き去りにでもなさいましたか?」


「これは国家の大事である!! そこに親子の情など差し挟む余地はないわ!!」


「国家の大事であるならば!! 尚の事、実の息子にして陛下より一軍を預かるこの私に、一言くらい相談があってもよろしいではありませぬか!!」


「他ならぬ陛下のご決断である!! それを覆すことなど、この身では能わぬことくらい察せと言うのだ!!」


「ぐぬぬ……」


「むむむ……」


「スタンフォード公、侍従に茶でも用意させましょうか? こうなるとこのお二方は長うございますれば」


「……さして珍しくもないというのか」


幕僚の言葉に、正しく開いた口の塞がらぬ様子であるゲオルグはその後、侍従に用意して貰った茶を飲みながら、二人の無益な争いを眺めていた。
















「誠に申し訳ございませぬ……」


「公にかような醜態を晒すことになりましょうとは、一生の不覚にございます」


「あぁ、いや、気にするな。中々面白いものを見せて貰った」


その後、あわや殴り合いにまで発展しそうになったところで、騒ぎを聞きつけた他の幕僚達も現れ、彼らの仲裁によってようやく終戦を迎えた親子喧嘩である。


「まぁ、随分時間を食ってしまったのも事実だ。俺はそろそろ戻る。この後は予定通り、一度ガルディナに戻り軍の再編成、そしてリュドミラと会見するつもりだ。リュドミラには、ラシードの方から知らせて貰えまいか? 正確に何時とは言えぬが、この一か月以内には顔を出すと伝えてくれ」


「あい分かり申した。負傷兵を帰還させます故、それを護衛する部隊から早馬を出しましょう。しかし、早馬より早く到着されては意味もありませぬでしょうが」


「む、それもそうだな。では、出来るだけ直近は避けよう。早馬なれば何時頃に帝都へ到着する?」


「3週間もあれば十分でしょう。ここに至るまでの主要な道筋には代え馬が常に用意されております。早ければ2週間もあれば到着するでしょうが、万全を期すのであれば、やはり3週間といったところかと」


「そうか、なれば、今日より数えて30日後に向かうことにする。その日のうちに着くであろう故、これは確実と思って貰って構わない。では、ラシード、そしてラスカー、重ねて言うが、これからも頼むぞ」


「はっ!」


「身命を賭して、公にご助力できるよう努めましょう」


「……うむ。では、ラシード、我らが発つ前に、兵に言葉を掛けてやってくれ」


「確と承ってございます」


「頼んだ。では、しばしの別れであるが、いずれまた相見えよう」


そう言い部屋を後にするゲオルグを、ラシード、ラスカー、そして同席していた幕僚達が見送り、彼らの共闘は一時終わりを迎えた。
















「なんとも、やはりドラグニルともなると、風格が違いますな」


「であろう? 儂も歳は食うたが、自然と頭の下がる相手など、陛下か公くらいしかおらぬ」


「それはそれでどうかと思うのですが……」


「ふん、他の者など、無駄に歳を食っただけの老害か、嘴が黄色い小童であろうに」


「ほう、父上にとって私はまだ雛鳥だとでも?」


「ふん、親にとって子はいつまでも子よ。いいから、さっさとガルディナ軍の元へ向かうぞ。彼らの勇姿を讃えるのは今しかあるまい」


「私はその一戦に間に合っておりませんのですが……」


「うるさいぞ青二才、いいからさっさと来ぬか」


「……この腐れ爺め」


「おう、なんぞ申したか? ん?」


「その老骨を何本か折って差し上げましょうか? あ?」


齢50を超え未だ壮健なラシード。年齢的にも経験的にも正しく全盛期と言えようラスカー。二人の親子は、再び戦火を交えたそうだが、それはゲオルグの知らぬところ。


だが、その後ガルディナ軍の前に現れた二人の姿を見て、「すわ城塞内に敵が」と一騒ぎ起こったことは、しっかりと叱られたようである。












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