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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第九章 歴史の幕開け
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孤高の覚悟

「ジル、作戦は?」


「はっ。我らは先ず、初戦にて敵の出鼻を挫き、勢いついたまま城塞に取り付くことを防ぐのが肝要かと」


陣に戻り、陣地をガルディナの森林内へと転換した後、ゲオルグはジルやその副将達と軍議を行っていた。


「その方法は?」


「敵が城塞に向かい進軍を開始したタイミングを見計らい、近衛による空からの一撃離脱、これが最善ではないかと」


「ふむ……地上戦力は用いないか」


「はい。敵は戦地に到着したばかり、意気昂然にして流るる水の如き勢いをもっておりましょう。そこに僅か400ばかりの我らの手勢を以て当たるは下策と判断致しました」


「ん、良い。しかし、いつでも事を起こす準備だけは怠るな」


「はっ。万が一、その初撃にて敵に大きな動揺を与え、こちらに好機が生まれるようであれば、地上戦力の動員も有り得ましょう」


「うむ。それこそ、ラシードとてそれを見逃すような真似もすまい。場合によっては内外からの挟撃の形になるやもしれん。友軍の動きも逐一確認し、最大限の威力を発揮できるよう留意してくれ」


「そうですね……有り得ない話ではない以上、十分に考慮致します。バスネル将軍と打ち合わせておくべきでしょうか?」


「構わん。こちらはあくまで独立した戦力として、帝国軍とは完全な別行動をとる。毎度ラシードと打ち合わせせねばならないとなれば、それこそ手間であろう。同盟軍として、城塞内に我らも居るのであれば勝手な行動など出来ぬが、城塞外部で別行動を行う以上は我らは我らの判断で動かねばならない。まして、ラシードは帝国の将でありガルディナの将ではない。彼の命令に我が軍が従うとも思えん。ラシードから何らかの要請があったとして、それは俺から伝えねばなるまいよ」


「えぇ、確かに、閣下の頭越しに命令を与えられたとて、それを閣下に相談なしに行うことなど有り得ませぬ。指揮系統も別である以上、我らの統帥権を持つ閣下にこそ、一番に要請するのが筋ですね」


「そういうことだ。まぁ、こちらもいずれは今より纏まった兵を持つであろう、その後、共闘する機会があれば、陣を共にして緊密な連携を取らねばなるまいが……今はまだ、時期尚早。圧倒的少数の兵しか持たぬ我らに、全く同等の権限を、などというつもりもない。反発は必定であろうし、なにより実力も示さぬままでは、立つ瀬もなかろう」


「はい、此度の戦にて力を示し、後に数を揃え、錬度、士気、装備の質、全てにおいて、数に頼らぬ、大陸に冠たる精鋭無比の軍を築き上げて見せましょう」


「冠たるとは、大きく出たな……だが、その意気やよし。意志の在るところに道はある。その意志を持ち続ける限り、いずれ道は拓かれるであろうよ」


「はっ!!」


ジルの思いは、実のところゲオルグ、そしておよそ全ての軍人が願うところでもある。人口と言う、数年、数十年では埋めがたい差をつけられている以上、数で人間に優越することは難しい。だとすれば、後はその差を質で補う他ない。


ゲオルグの思惑としては、現状の装備の質の向上、のみならず、技術革新を積極的に取り入れるつもりである。剣と弓の時代を終わらせ、個人の身体能力に依存しない均一化された兵士。即ち、銃砲による遠距離からの一方的戦闘を取り入れたいと考えていた。


それが叶えば、魔法という貴重な遠距離攻撃手段はその優位性を失い、結果としてガルディナのエルフを全て内政に回せることとなる。現在、散水施設や焼却処理施設のないガルディナにおいて、魔法という至極利便性の高い能力を持つ彼、彼女らは常にあらゆる部門から増員要請が後を絶たない。仮に、それらの施設が出来たとしても、場所や天候、環境に左右されずに一定以上の効果をもたらす彼らの存在価値は落ちることもないだろう。その数の少なさも相まって、今はほぼ例外なく生産職に就いているのが現状だ。


エルフの中には軍へ志願する者もいる、それも、決して少数とは言い難い数だ。しかし、ゲオルグはそれを一切認めていない。例外としては、医療関係に従事するエルフを医官として戦場へ同行させる従軍医官というものもあるが、それもゆくゆくは廃止し、衛生兵を編制したいというのが本音だ。


これを「エルフだけ特別視している」などと言われることもあるだろう。だが、これは決して差別ではない。言わば適材適所である。この時代の戦争においては、侵略戦、防衛戦、攻城戦、撤退戦、その他あらゆる戦闘行為において、最終的には近接戦闘にもつれ込むのが当たり前である。いかにエルフや近衛が魔法に秀でていても、一日に行使できる回数は限られている上、乱戦となれば魔法の出番はない。ともすれば、人間に身体能力の勝る獣人をより多く軍に組み込むのは至極当然の結果と言えよう。


それを言えばドワーフも当てはまると思うだろうが、ドワーフは体力、筋力などは兎も角、俊敏性に欠けるという欠点がある。これは、足並みを揃えることが重要視される軍においては些か問題がある。


これはゲオルグ自身公言してはいないが、軍の編成ほど種族による差異に頭を悩ませることはないという。故に現在は獣人により構成されているのだが。


<まぁ、銃砲の類さえ出来上がれば、それもほとんど考慮する必要はなくなるのだろうが……>


その為には先ず黒色火薬の精製をせねばならないが、木炭、硝石はいいとして、問題は硫黄だ。残念ながらガルディナには硫黄が存在しない。恐らく、帝国の広い国土を探索すれば見つかるのではないかと考えてはいるが、その辺りはリュドミラと良く話をせねばならない。そも、火山があるかすら不明なのだが、何も硫黄を入手する手段は火山付近の捜索に限る訳でもない。


<とは言え、本当に良いのだろうか……>


技術革新と銃砲の開発。それは、ガルディナを軍事力において大陸の列強と成す為には必要なことだと確信している。しかし、銃砲による戦闘は、この大陸、ひいては世界の戦争の在り様を間違いなく変革させるだろう。


製鋼の為の反射炉すら、ゲオルグの曖昧な知識を元に作り上げてくれたドワーフの職人達が、銃砲を造れないとは思っていない。だが、それはこの世界、この時代には過ぎたるものではないかと、思わない訳ではないのだ。


<ま、そうは言っても、数に劣る軍がそれを補う為には、質、もしくは圧倒的技術力を用いた新兵器、そんな類の物が必要不可欠なのは疑うべくもない……>


この世界のこの大陸に、亜人だけの国を興す。それは、断じて綺麗事だけで成せるような生易しいものではない。人間の所有物という常識を覆すだけでも、それは彼らの財産を奪うということに等しい。それに加えて独立国家を建国しようともなれば、そこに争いが生まれるのは必然だ。そして、それに勝たねばならない以上、躊躇いも後退も停滞も有り得ない。


幸いにして、ガルディナ地理的にも人員的にも技術を秘匿することも容易い。銃砲の開発そのものがスムーズに行くとも思っていないが、そもそも日本で言うところの火縄銃レベルのうちは実戦投入するつもりはない。研究、開発、改良を重ね、戦場における確固としたアドバンテージを得られるようにする。そして、その威力と性能、そしてガルディナの技術力を示し、各国に「敵にするより味方になって技術供与を受けた方が良い」と思わせることが出来れば勝ちだ。


そして、その上で友好的な国家に対しては初期段階の銃砲に関してのみ技術を開示する。ガルディナは常に最先端技術を駆使した兵器を、他国はそれより一世代か二世代前の兵器を、という形を成すことが出来れば、常に戦場においてガルディナは質で勝ることが可能になる。そして、それを他国が理解すれば、そうそう戦端を開こうなどとは思うまい。無論、ガルディナの開発技術が人間の国家に勝り続けることが前提だが、そもそも製鋼技術すら未だ未発達の人間がそうそう追いつく可能性もないだろう。銃砲を造る上で、それはかなりの痛手に違いない。如何に銃と大砲の構造を教えたところで、それを造る技術と素材の確保が先に来なければならない。そこを上手く利用して、常に兵器産業の先頭に立ち続けることが理想だ。


それが果たしていつになるかは分からないが、やる価値はあると思っている。確かに、現状でも獣人の身体能力、エルフやドラゴニュートの魔法など、人間とは一線を画したアドバンテージがある。だが、人間とはこと争うことに関しては研究開発能力が異様に高い。


これから先、もし人間の国家との戦闘が長期間に及んだ場合、彼らがガルディナの戦略的アドバンテージに対し何の対策も講じない訳がない。特に、航空戦力であるドラゴニュートに対しては、躍起になって対抗兵器の開発を行うことであろう。それこそ、対空用の大型の弩程度なら構わないが、そこから派生、発展を重ねていった時、それがドラゴニュートにとって脅威となってしまっては、運用もままならない。獣人に関していえば、彼らは確かに身体能力に関して言えば人間に勝るが、戦場は人間と同じ大地だ、対抗策などいくらでもある。


いつかそうなるならば、それに先んじて新兵器の開発を、ゲオルグがそう考え付いたのは、ある意味では必然かもしれない。


当然、最終的にその技術をものにするまでには数年、長ければ十年以上はかかるだろう。それまでは、今あるアドバンテージを精一杯活かす方法を考えねばならないのだが。


<既に覚悟は決めている。迷うなよ、俺>


自分を信じる者達の為、自分の行動を疑う訳にはいかないのだ。例え、それが人間にとって疑いようのない「不義」であろうと、「悪」であろうと。自分に付き従う者にとって「正義」ならば、「善」ならば、自分はその道をただひた走ろう。


ゲオルグがその思いを口にすることはない、誰かに語る事はない。


孤独な誓い。


然して、そこに悲壮感はなく、決意の鈍りも感じさせない。


ただ悠然と佇む姿は、正しく気高き竜のそれであった。

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