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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第九章 歴史の幕開け
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ディナント王国軍

クリスマス2話同時更新 2話目です。

「将軍、あと一日もすればサンクツィ城塞です。このあたりで一度、兵に休息をとらせては?」


「そうだな。しかし、こちらはこの大所帯だ。想定外の事態で遅れ、敵に時間を与えるようなことになってはならん。今しばらく兵を進めた後、休息としよう。まだ日も高い」


「はっ、ではそのように」


そう言い離れていく若い貴族の倅を、将軍と呼ばれた男は小さく溜息をつきながら見送った。その男は、ライオネル・ベレスフォードという。


国王であるアルトゥール・ルイコフ・ディナントより、サンクツィ城塞攻略の命を受け、2万6千もの兵を率い、ディナント北西部の国境へ向かい進軍している最中だった。


<何が「兵の休息をとらせては?」だ。己が休みたいだけであろう>


先ほどの若い男の言葉を思い出し、嘆息しては首を横に振った。


この大所帯の中には、今回の戦に兵を出した中部や北方の貴族の子息が多数存在する。彼らは、この一戦にてなにかしらの功績を挙げ、自分の人生に箔を付けたい、とでも考えているのであろう。


聞くところによれば、帝国は未だ防備を整えきれておらず、その兵数は8000程度だという。対してこちらはその3倍以上。いかにサンクツィ城塞が難攻不落の城塞とは言え、そうそう負けはしない兵数差だ。


この時代、戦の趨勢を決めるのは何より「数」である。というのは、兵を率いる者なら誰しもが知るところであろう。


<だが、これだけ出兵に時間を食いながら、帝国のあの女狐が何もしていない、と考えてよいのか?……いや、それこそ有り得ぬ。それは、老将のバスネルがあそこの守将に就いた時点でない>


ラシード・バスネル。帝国の将であり、確か齢50を超える名将だ。その男が、1000を超える手勢を率いてサンクツィ城塞に入ったという情報は、すでに彼の耳にも届いていた。


また、その他にも最近になって見慣れぬ軍旗を掲げた部隊が城塞に入ったとの知らせもあったが、数は400にも満たない程度、ということもあり、それについてはあまり重視していなかった。


勿論、ゲオルグ率いるガルディナ正規軍のことだが、彼は戦場付近には敵の物見も多かろうということで、わざわざ兵をサンクツィ城塞よりかなり北方へ兵を輸送した後、徒歩で向かったのだ。翼の目立つドラゴニュートは輜重隊の馬車に隠れて貰い、獣人に関してはその耳や尾を外套で隠すようにした上で、だ。


幸いにして、帝国の兵は寒冷地での戦闘の為に外套を持っているのは当たり前のことであり、それを着ていたところで不審に思われる可能性は低いのだ。


<とは言え、軍旗に竜を用いるなど、傲岸不遜も甚だしいがな……>


教会の影響の強いディナントにおいて、竜やドラグニルというのは神聖視されている。その為、貴族の紋章や軍の旗印に竜を使うことは許されていない。貴族は途絶えることもある、軍旗は折れたり、或は土に塗れたり血で汚れるという可能性も大いにある。そういったことを、教会が許していないのだ。


ライオネルは敬虔な信者、という訳でもない。とは言え、幼い頃から常日頃そういった価値観を教えられ続けてきたが為、やはりどうしても癪に障るのだ。


<その旗印、帝国の傲慢ごと、叩き潰してくれよう>


ライオネルは一人、馬上でそう決意していた。


















「はぁ、休息はまだ暫く先だとさ」


「全く、あの石頭め……」


「陛下も、なぜあのような者に兵権などお与えになるのだ」


「全くだ。少しばかり剣の腕が良いのをいいことに、軍のお偉方にでも取り入ったのであろうよ」


そこは、ディナント軍の中陣、貴族の兵ばかりを集めた部隊の中心だった。


そこでくだらない会話に花を咲かせているのは、今回、親に命じられ渋々従軍している貴族の子息達だ。


「あぁっくそっ!!いい加減歩き通しで尻が痛い」


「あぁ、俺もだ。こんなに長いこと馬になんぞ乗らぬからな」


「だから馬車を出せと言うたのだ。にも拘わらずあの石頭、行軍に影響する可能性があるから認められぬ、だと?……図に乗るのも大概にしろというものだ」


「なに、この戦が終わるまでの辛抱よ。所詮成り上がりもの。この戦の最中にボロさえ出せば、それを利用し王城から追い出せばよい」


「……俺は、たとえ一日であっても、あのような者の下で働くことが我慢ならん。まして、俺や俺の兵の命など、預けられるものか」


「そういえば、ニデアのグレフェンベルグ殿は兵も少数、ご子息も従軍させておらぬとか」


「ふむ、さもありなん。あのお方も古くから続く名門貴族の一員。あのような者に使われるのが気に食わないのであろう」


「で、あろうなぁ。我らとて、父が命じなければ来てはおらぬ」


「あぁ、そうとも。何が悲しくて帝国などという野蛮人の巣窟に向かわねばならんのか」


「まぁ物は捉えようよ。知っておるだろう? 帝国女の気の強さ。俺は、帝国に踏み入ったらまずは女だ。気の強い女を力で屈服させるあの征服感、堪らんよ」


「貴殿も相変わらずだな……だが、そうだな。帝国女の気丈さは確かに良い。そうだ、どうせなら夫のいる女を、夫の目の前で犯してやるのも良いかもしれんなぁ」


「おぉ、それは確かに面白そうですな。どうせなら、穢した上で目の前で夫を殺してやればよい。気が強いと評判の帝国女が、どこまで正気でいられるか試してみようではないか」


「ははっ、そなたらはとことん外道よな。俺ならば、亜人共を捕えて持ち帰り、売ることにするがね。知っておるだろう? 先の亜人の動き。あれで国内の亜人の需要が高まっておるらしい。女と亜人、両方捕えて売れば、そこそこの金になるだろうよ」


「ほう。そう言えば、あの野蛮人共、亜人を国内に放し飼いにしておるらしいな」


「うむ。故に、誰がどこでどれだけ持ち去ろうと問題にはなるまい」


「成程、悪くはない。ふふ、帝国行きが少々楽しく思えてきた」


「そうであろう?なに、こちらは敵の3倍の兵がいるのだ。戦闘などさっさと終わらせ、金稼ぎといこうじゃないか」


そう締めるように発せられた言葉に、その場の者達が大きく頷く。


ディナント軍では、国軍と貴族の私兵で錬度と士気にあまりにも大きな差異があり、後々そこを集中的に狙われることとなるのだが、彼らはまだ、そんなことは知りもしない。



歴史に様々な意味で名を遺した「サンクツィ城塞攻防戦」の幕が、間もなく上がろうとしている。

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