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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第九章 歴史の幕開け
118/153

いざ戦場、そして歴史の表舞台へ

新章突入。そしてメリークリスマス。

クリスマスにつき2話同時更新。

ガルディナ史書による限り、人間の国家との公の交戦は、サンクツィ城塞における帝国との共同による対ディナント戦が最初である、とされている。


それは多くの証人からの証言をもとに書かれているため、信憑性は高く、帝国側の史書にもそう記されている。


元々、派遣された兵の少なさ、そして人間を含まぬ構成、さらに城外からの兵数差を考えない奇襲という戦法をとったこともあり、当初は帝国が編成した一部隊でしかないという見解が多かったが、後にガルディナの存在が公になり、ガルディナ、帝国双方が互いに別勢力であると明言したことで、初めて事実が明るみに出た形だ。


しかし、ディナント側では異なる。


あくまでディナントは帝国とのみ交戦したのだと、彼らはそう語っている。それが何故なのかと言えば、彼らは終始、亜人の国家というものの存在を認めず、これを帝国の一属領からの増援と捉え、それを主張し続けたからだ。


しかし、恐らく本当の理由は、ガルディナ大森林で自国の部隊が壊滅した責任を帝国に押し付けるという形で開戦に踏み切ったディナント側の大義が失われることを恐れてのことだったのであろうと、多くの者が推察していることだが。


その評価はディナントという国家が、国家の体を成さなくなるその時まで変わる事はなかったが、それでもやはり、ガルディナという国家が歴史に躍り出たのは、この戦闘からというのが大陸の共通認識だ。


亜人と呼ばれた者のみで構成された都市国家、ガルディナ。これは、まだガルディナが王国と名乗っていなかった頃、圧倒的兵数を相手に一歩たりとも怯むことなく幾日にも亘って交戦を続けた、偉大な一歩の記録。


ガルディナと幾度となく戦火を交えたディナント王国。この名を知らずして、ガルディナの歴史を語ることは出来まい。


我らが祖先が、我らが生まれるより前に、我らの為に戦った、数々の戦場、その貴重な記録の記念すべき第一項に、サンクツィ城塞攻防戦を記そう。


最も、記すのがその初戦に敵として参戦していた人間の末裔である私であると言うのは、少々滑稽なことかもしれないが。


【ガルディナ王国 建国戦史】

著者:ロバート・レイモンド・グレフェンベルグ

(【ガルディナ王国、始祖に仕えた人間】に代表される数々の著書を執筆した作家にして政治家)



















「閣下、近衛より報告です。南方およ6km地点にてディナントの軍勢を確認。数は少なくとも2万5千以上、明日にはここへ到着するだろうとのことです」


「そうか……ジル、その情報をラシードにも伝えてやってくれ」


「既に近衛の一人を向かわせました。我々はこれより城外に移動し、機を見て攻撃出来るよう準備を整えます」


「あぁ、任せる。俺もこちらで用が済み次第、直ちに合流する……ジル、重ね重ね言っておくが、我々の勝利、その第一条件は総員生存だ。引き際を見誤るな」


「承知しております。では閣下、しばしの間失礼致します」


「あぁ。レオンにも、くれぐれ頼むと伝えてくれ」


その言葉に、剣を持たずに略式の敬礼をしてからその場を立ち去るジル。その後ろ姿のなんと頼もしいことかと、ゲオルグはそう思っていた。


彼女もまた、以前の森林での戦闘で先陣を切った一人だ。人を斬ることに、慣れてこそいないかもしれないが、それでも覚悟は決まっている筈。


<願わくば、その覚悟に押し潰されぬ強さを、彼女が持っている事を>


ガルディナでも特に強い精神を持つであろう彼女だが、それでも心配をせずにはいられない。それが、統治者として部下を思うものなのか、それとも男として一人の女を想うものなのか、それはまだ分からないが。


<この戦闘を当初の目的を達成しつつ終える事が出来れば、そろそろ余裕も出てくる筈。そうなれば、そろそろ答えを出さねばならないか……>


ジルにからの告白は、未だ記憶に新しい。ゲオルグを一途に慕い、もしかしたら子を生せないかもというゲオルグの言葉を聞いても尚、ストレートな想いを向けてくれた彼女のことを、憎からず思う、とまでは言わずとも、他の女性陣よりも意識してしまっているのは事実だ。


そして、最愛の妹、フェリス。彼女のこともまた、女性として意識してしまう機会が何度かあった。しかし、これまでの関係を壊してしまう可能性も考えると、恐怖を覚えるのも事実だ。


どちらも、形は違えどゲオルグを特に慕ってくれている二人だ。故に、いい加減な、曖昧な態度などで誤魔化したくはない。


「ここにおいででしたか。スタンフォード様、バスネル将軍が、至急お会いしたいとのことです」



「ん?……あぁ、済まないな。指揮官室か?」


「はっ、既に幕僚の方々も揃う頃合いでしょう」


「そうか。ならば急ぐとしよう、ご苦労だった」


今はそんなことを考えている場合ではないと思い直したゲオルグが、ラシードの侍従らしき年若い騎士にそう返した。彼もまた、ラシードの部下らしいドラグニルファンであるようで、ゲオルグが労いの言葉を一言発しただけで、感動したように頬を紅潮させた。


<悪い気分とは言わないがね……>


この青年は態度に出ないだけマシな部類だ。握手や武具をねだるような者も中にはいるし、そういった者は片っ端から断っているのに中々しつこい連中が多い。人によっては、媚び諂うかのような癪に障る態度を取る事もある。


とは言え、それに対し露骨に嫌そうな態度をとって不和になるのも避けたい以上、有無を言わせず拒否する、というのも出来ないのが、目下の頭痛の種だ。


<まぁ、今日から外での野営だ。この煩わしいやりとりからもしばらくは解放されるだろう>


そもそも、明日からは帝国とて交戦する可能性が高いのだ。悠長なことをしている余裕などないだろう。なにせ、敵は2万を超える兵力なのに対し、こちらはその三分の一にも満たない8千だ。


城攻めの常道として存在する、防衛側の3倍の兵力を用意する、という事項を達成している王国側からすれば、その状態を保っている初期段階で勝利をもぎ取ろうと躍起になる筈。


リュドミラ曰く、「言いがかりを付けられた挙句に突如侵攻を受け、防衛戦力の不足する中での勝利、という形が、今後の情勢も鑑みて最も良い勝ち方なのよ」だそうだが、どうにも帝国側にゲオルグがいることを加味して戦力を調整したように思えてならない。


<俺を利用する分には構わないがね……貸しは後々取立てさせて貰うが>


恐らく、リュドミラの構想としては、援軍到着までゲオルグに粘って貰い、到着次第逆襲、逆侵攻、そしてその正当性を掲げた上での制圧、領土獲得、といったところだろうと、ゲオルグは推測している。


ゲオルグが単独でディナントの軍勢を壊滅させるのは容易いが、それを行えば恐らく他国はむしろディナントに同情的になる可能性もある。大義名分を掲げて帝国へ攻め込んだものの、その帝国に味方するドラグニルよって軍が壊滅。挙句逆侵攻を受け、領土を失う。


文字にして見れば自業自得と言えなくもないが、出来る事なら、ガルディナという存在を公にした上で、その大義名分を損なわせてからの逆侵攻が一番望ましいのは事実だろう。


亜人のみで構成された国家を、ディナント以外の他国が認めるかは別として。


リュドミラの描く理想のシナリオは恐らく。


1・ガルディナ大森林内部で起こったディナント兵の壊滅に関して責任追及され、帝国が関わっていないことを重ねて主張しても受け入れられず、侵攻を受ける。


2・宣戦布告もなしに半ば強襲に近い形での侵攻を受け、防衛戦力も整わぬうちに国境で交戦の開始。


3・事情を知ったガルディナの新興国家が、事実を帝国に公表した上で援軍として己の兵を派遣。共にディナントを迎撃する。


4・その後、公にガルディナを国家として認め、協定を締結。


5・然るべき後、ディナントに対し先の侵攻に対しての非難声明、宣戦布告、侵攻。


といったところだろう。


<まぁ、それくらいやっておかねば他国に対し侵攻する名目としては不十分なのだろうがね>


外交というものの厄介なところだ。しかし、帝国がディナントとの戦争に移るというのは、ガルディナにとっても悪いことだけではない。


ディナントの国軍が帝国に対応せざるを得なくなる、ともなれば、教会がもしガルディナに対し攻撃的態度をとったところで、地理的関係から独力でこれと相対せねばならなくなる。


いかにディナントとて、戦時下の自国領内に他国からの武装勢力を入れる事に肯定的になる訳がないだろうという目測がある。


つまり、帝国はディナントに。ガルディナは教会に集中出来る、という訳だ。


<ディナントも教会も帝国も、次のアクションに移るには時間がかかる筈。いや、帝国は既に侵攻まで視野に入れて準備している可能性はあるが、それは大した問題はない。教会が動き出すまでに、国力を少しでも底上げし、奴らに打撃を与える準備をせねば、な……>


教会がどれだけの兵力を動員できるかが不鮮明である。それが不安材料ではあるが、帝国からの侵攻も受けている状態ともなれば、ガルディナだけに注力することもままならないであろう。


確かに、時期が想定よりもあまりに早いというのは困った話ではあるが、しかし、これ以上ない機会でもある。帝国がディナント全土を征服できるとは思っていない、というより、されては困るのだ。


海岸線を欲するゲオルグとしては、今回の戦に乗じてガルディナの南部、具体的にはニデアあたりまでとそれ以西の海岸線までを確保しておきたい、という目論見がある。


手に入れたところで統治する人材も住まわせる住民もいないが(とは言え、管理する人材ぐらいは確保しておかねばならない為、それはレイモンドあたりを伝手にどうにかせねばならないかと考えてはいる)、領有権だけでも確保しておかねば、万が一帝国がそれらを抑えてしまった時、ガルディナは海岸線を手に入れる機会を逸することになる。


それどころか、四方全てを帝国に囲まれては、今後の外交にも大きな打撃を及ぼすことは疑いようもない。


<領土としては僅かなものだが、それ故に渋ることもない、といいんだがな>


ニデアはそもそもディナント国内でも北西に位置しており、帝国からガルディナ大森林東部を抜けディナント王都を目指した場合はその進軍路からも外れる可能性が高い。問題は、リュドミラがそれをどう捉え、行動するかにかかっている。


<ま、リュドミラとて俺の思惑に気づかぬということもあるまい。あとは、それを踏まえどういった進軍経路をとるか、といったところか>


場合によっては、再びリュドミラの元を訪れ、正式に領土の切り取りに関する問題を話し合う必要も出てくるだろう。しかし、それらはこの一戦を無事終えてからだ。


<さてさて、この一戦、いよいよ負けられぬな>


元より負けるつもりなどさらさらない。


ゲオルグは一人、意味深な笑みを浮かべながら指揮官室へと向かうのだった。



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