幕間 未来
前話の予約投稿日時を誤っておりました。
タイトル、本文に一部修正がございます。内容に影響はございません。
「お父さん、お母さん、行ってきます!!」
「おう、怪我だけはすんなよ!」
「日が沈む前には帰ってくるのよ」
「はーい!」
そう返事をしながら、家を飛び出していく狼人族の子供、名はガルシェという。
このガルディナで一番最初に生まれた子供であり、ゲオルグからも度々気にかけて貰っている、今年で5歳になったばかりの育ち盛りの男の子だ。人間よりもやや成長が早い為、発育的に人間に換算すればおよそ7歳から8歳、といったところだろう。
正しく遊び盛り、元気盛りという表現の似合う彼は、彼よりも後から生まれた子供達のまとめ役、有り体に言えば「ガキ大将」のような存在でもあった。ガルディナではあまり子供が多くない、多くないが故に、かえって強固なコミュニティを形成しているのかもしれない、とは、ゲオルグの言葉である。
「お待たせー!!」
「ガルシェ君おそーい」
「ねぇねぇ、今日は何するの?何するの?」
「私かくれんぼしたい!!この前出来たクカク?ってまだ行ってないもん」
彼らがいつも待ち合わせに使うのは、居住区中央の広場。時折ゲオルグがフラッと現れては住民達との交流を深めている場所だ。そこには、3歳から4歳程の子供達がガルシェを待っていた。3、4歳とは言え、その体格はすでに人間の5歳から6歳くらいであり、彼、彼女らもまた、外で活発に動き回るのが好きなのだ。
「ごめんごめん。んじゃ新しく出来たところを皆で探検しよう!」
「「「おぉー!!」」
その新しく出来た区画とは、勿論帝国からの第二次住民受け入れに際し拡張された部分であり、基本的に拡張中、また拡張後から住民受け入れ後しばらくは子供の立ち入りを禁じている。
拡張中は当然、建築作業などで危険だからであり、拡張後から受け入れまでは、不備の点検、また極力綺麗な状態での利用開始の為。そして受け入れからしばらくというのは、治安が安定するまでは非力な子供を入れさせる訳にはいかないからだ。
そういったゲオルグの、というよりかはこの街のルール上、彼らはまだその新区画には立ち入ったことがなかったのだ。そして、ようやくそこへの立ち入りが許可されたのがつい最近であり、それを知れば彼らが喜び勇んでそこへ向かうのは自明の理とも言えよう。
ちなみに、ゲオルグは子供に関しては厳重に保護する姿勢を示しており、子供に対する犯罪行為は通常のそれよりも厳罰化されている。殺傷は勿論極刑であるが、悪質な嘘、暴行、恐喝は容赦なく追放処分。暴行により重い怪我を負わせた場合は利き腕を切り落とした上で、同じく追放とされている。
幸いにして、街の人々も子供に対しては非常に寛容であるため、これらが適用された事はない。そもそも、獣人に関して言えば、彼らの同族、そしてその子供に対する仲間意識は人間のそれらの比ではない。そしてエルフは生来の穏やかな性格があり、ドワーフは体格が良いため一見粗暴そうでありながら根っこは面倒見の良い者が多い。そんな者しか住まぬ街だからこそ、子供に対する対応は今のところ問題になったこともない。無論、例外的な者も中には居るだろうが、厳罰、そして周囲からの非難や家族からの報復を考えれば、おとなしくせざるを得ないであろうが。
「ねぇねぇ、そう言えば今日はゲオルグ様はいないの?」
「しばらくいなくなるって、お父さんが言ってたよ」
「セイキグン?の人と、コノエ?の人と、お出かけしてるんだって」
「いいなぁ。ぼくもお外出てみたいなぁ」
「お外はゼッタイ出ちゃダメなんだよ」
「分かってるよ。それに、ケーエータイの人がいつも出口にいるから通して貰えないもん」
そんな会話をしながら、子供達はにぎやかに新区画、その中でも特に大きく拡張された、農業区に向かっていく。そんな彼らを、どこか優しい眼差しで見守る大人達。彼らもまた、この街ではまだ少ない子供のことを、ゲオルグと同じように慈しんでくれている。
「すっげぇぇぇ!!」
「ひろーい!!」
ガルディナでも随一の広さを持つ農業区画。そこは、小麦を始めとして、豆類、根菜類などの野菜、複数種類の果樹園、そしてそれらを収穫し保存する倉庫に、農業の管理を担当する者達の働く管理棟など、子供にとってはこの上ない遊び場でもあった。
これまででもそういう認識であったのに、そこがさらに広くなったともなれば、彼らが瞳を輝かせるのも無理はないだろう。
「これなら追いかけっこも楽しそうだなぁ」
「えぇ……やだよ。私、追いかけっこじゃ勝てないもん」
追いかけっこ、という言葉に嫌そうな表情を浮かべたのは、街でも唯一のエルフの子供で、美しい金髪を持つ、どこか儚い雰囲気漂う女の子だ。農業担当の女性エルフと、畜産部門の主任の男性エルフとの間に生まれた子。彼女もまた、ゲオルグから良く気にかけて貰っている。「リアル幼女エルフとかその手の輩には垂涎だな……」と、呟いたとか呟いてないとか。
「でもお前、魔法使えるんじゃないの?」
「まだ教えて貰ってないもん……」
初のエルフの子供、ということもあって、周囲の大人はその発育、教育には慎重になっている。魔法を使えるよう鍛えるには、先ず魔力を使う感覚を覚え、自身の持つ魔力を限界まで引き出す、ということを繰り返すのが最も手っ取り早い。しかし、その訓練が子供にどのような影響を及ぼすかが不明であり、それ故に魔法の教育に関しては慎重にならざるを得ないのだが、それが彼女には不満のようだった。
「お父さんもお母さんも、お前にはまだ早いーって」
「へぇー。なんか、エルフの人って皆すごい魔法使うから、ちっちゃくてもそうなんだって思ってた」
「うん、ぼくもぼくも。ほら、あそこ」
そう言って男の子が指差す先には、水分の不足気味な畑に魔法で水を撒く女性エルフの姿があった。
「すげぇなぁ……」
「どうやってやるんだろ?こうかな……えいっ!!」
「……なんもでねぇじゃん」
「う……うるさい!わかんないんだもんしょうがないじゃん!!」
「……かっこわるい」
「そ、そんなこといわれても……」
かくれんぼをしようと言ったり、探検しようと言ったり、追いかけっこ、はたまた魔法の練習?をしてみたりと、落ち着きも一貫性もない子供らしい姿。
それは、亜人と呼ばれ蔑まれてきた彼らが、決して経験し得ないと、諦めていたもの。自分達の、友人の、戦友の、隣人の子が見せてくれるその姿に、見ている大人たちは、未来を見出す。
その未来に、自分の子が、孫が、家族が、幸せに生きる姿を。
自分達の見えぬ所で、その命を懸け、その未来を掴み取ろうとしている者達がいることを知る彼らは、その勇姿を、そして、その者達を率いる誇り高き救世主の姿を、頭に思い描きながら。




