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「マジで!東京メトロの過酷さは出張で知ってたけど、神奈川のJR、私鉄、市営地下鉄の類似駅名はトラップじゃね?」
汗だくになりながら控室にやって来た辰治さんの久しぶりな第一声はそんなお小言だった。
現在の時刻は16時40分。
あともう少しで開場のタイミングで到着となった。
「辰治さん、お忙しい中ありがとうございます!」
「太郎君!久しぶり!まぁ良いって事よ。そうは言っても友達のライブは見たいし参考にしたいしね。」
走って来てくれたのだろう。少し着崩れたスーツがそれを物語っている。有難いなぁ…
「格好良い様に聞こえるが、辰治の出張は半分遊びが絡んでるかんな。」
「虎太郎。余計な事を言うなよ?」
不思議なプレッシャーを感じる。
と、言う事は虎太郎君が言ってる事は高確率でそうなんだろうな。聞かなかった事にしておこう。
「あそこにいる子ってnioだよね。友達なんだ?」
「はい。アカシャグマ休止中に彼のサポートに僕が参加したのが縁で仲良くして貰ってます。」
「へー。確かnioってメジャー決めてるよね?」
「そうですね。最近情報解禁になってましたね。僕達も頑張らなくちゃなぁ…」
「あ………もしかしたら太郎、分からない?」
スーツのジャケットを脱いでネクタイを緩めながら近くにあったパイプ椅子に腰を掛ける。
「何がです?」
「nioも天使がいるな。」
「え…?」
今まで鳰君からそんな話なんて聞いた事は無かった。
「人によるけど。天使保有者同志って何となーく分かるんだよ。虎太郎と悠兎はその感覚は無いみたいだけどね。」
貰うね。とテーブルに置かれた差し入れのお茶に手を伸ばしながら辰治さんは続けた。
「どうやらnioも俺側みたいだね。今、聞いてみたら?」
スッと右手を上げたので辰治さんの視線を辿ると、鳰君が笑顔で此方に会釈してくれる。そうだったんだ。
「あの可愛い双子ちゃんには天使いないね。でもSNSで見た事あるな子だな。ちょっとしたインフルエンサーだよね。」
「しかし辰治さんって色々詳しいですよね。」
様々なアンテナを張ってると言うか、鳰君もエレクトリック⭐︎エコーもワイルドドックとは全然ジャンルが違う筈なのに。
「ジャンルは数多かれど、結局は全て同じ音楽なんだからね。俺は色々聞くよ。良いものは良いからね。」
それは俺も思う所はある。
両親や姉がクラッシックの世界にいるせいもあって楽団の演奏が大好きだ。
アカシャグマもそんな志があるので様々なタイプの音楽を世に出しているせいか、中々固定のオーディエンスが少ないんだよね。今日のワンマンもギリギリ8割埋まったけど半分は身内だからな。これからの課題だ。
「そうだ、太郎君。nio紹介してくれる?そして何となーく天使の話を聞き出そうか?」
もしかしたらチャダの詳細が明らかになる?
悠兎さんから聞いた天使の話を思い出す。
鳰君の天使はどれだけの間を共にしているのだろうか?それだけでも分かれば良いかもしれない。
聞けるタイミングは今とscreamで予定されてるラストワンマンのみになる。サポートを頼まれてるから練習の時に聞けるかも知れない。
ドクドクと全身の血流が巡る音がダイレクトに聞こえて来る気がする。
どうしよう。どうしよう。
「ね、太郎?」
何かを察したか、雷華と一緒にいたチャダが俺の左腕にしがみつく。
「太郎、大丈夫?何かあった?」
「蕪木サン?どした?」
「チャダ、虎太郎君。」
息を飲んで今の心情をそのまま口にした。
「やばい。やっぱり緊張してきた………」
いつもの事だけど何とか耐えていた緊張が、辰治さんの話で一気に振り切ってしまった。
「え?蕪木サン、無茶苦茶頑張ってチョコ食べたじゃん!」
「いやあ…辰治さんの話を聞いてたら……」
「何してんねん!ゴラ!辰治!」
「え?俺?俺が悪いの?」
背中をさするチャダと俺の前で虎太郎君がキレたと同時に
「ホラ!開場はじめるよ!」
そんな円堂さんの声が更に緊張を高めてしまった。
辰「え?緊張緩和対策で皆でキングパフェ食べたの?狡くない?」
虎「たわけ、辰治。」
日中にハニー&バニーの裏メニュー・キングパフェ(約10人前)を宿泊メンツで食べたのは別のお話。




