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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第4章 帝国との激闘
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第91話 池魚の殃

どうも、ヌマサンです!

今回はアラン亡き後のプリスコット領が舞台。

アランの墓参りにハワード家の面々が訪れる話になります。

それでは、第91話「池魚の殃」をお楽しみください!

 ダルトワ領への侵攻から1ヶ月後、先鋒部隊の大将を務めていたトラヴィスは弟のローランと甥のノーマンの両名を伴って、プリスコット領を訪れていた。


「おお、これは王国五大将の筆頭であるトラヴィス殿自らお越しとは……!」


「ラッセル殿自らの出迎え、かたじけない」


 トラヴィスがクルメドを訪れたのは、先のダルトワ領侵攻の初戦であるハウズディナの丘の戦いにて討ち死にしたアラン・プリスコットの墓参りをするためであった。


 アランの墓はクルメドの側にあるプリスコット王家の墳墓に埋葬された。葬儀はプリスコット領内で厳かに行われ、これにはトラヴィスたちハワード家の者たちは参加できなかったこともあり、この機会に改めて墓参りを、となったわけである。


 ラッセルに案内され、王家の墳墓に入った3名はアランの墓の前に跪き、冥福を祈った。


「トラヴィス殿自ら墓に参ったとなれば、アランのやつも天上で喜んでいることだろう」


「そうであればいいが。あの戦で死なせるには惜しい若武者であった」


 トラヴィスが瞳から雫をいくつもこぼしながら、口惜し気に呟いた。そんなトラヴィスをなだめながら、ラッセルはトラヴィスたち城へと招待し、ささやかながら宴を開いた。


「父上、追加の酒をお届けに参りました」


「おお、ノルベルトか。悪いな、もう寝る時間だろうに」


「いいや、別にこれくらい大したことない」


 宴の最中、追加の酒を持った少年がやって来た。父ラッセル譲りの深緋色の髪と翡翠色の瞳が印象的であり、瓜二つという言葉そのものであった。


「ラッセル殿、その少年はご子息か」


「はい、ノルベルトと申します。ノルベルト、トラヴィス将軍に自己紹介を」


「トラヴィス様、ノルベルト・プリスコットと申します。以後、お見知りおきを」


 礼儀正しいノルベルトの態度にトラヴィスは感心し、自身が初陣の頃より愛用していた長剣をノルベルトに譲り渡した。


「トラヴィス殿、このような貴重な品を……!」


「いや、ノルベルト殿には将来性を感じる。こんな古い長剣では不服だろうが、受け取っておいてくれ」


 ラッセルは恐れ多いとして、トラヴィスに長剣を返そうとしたが、トラヴィスはアランを失わせてしまった負い目を償うためにもどうか収めてほしいと懇願し、ラッセルとしては断れなかった。


「そうだ、ノルベルト殿は今おいくつなのでござろうか?」


「おお、ノーマン殿。ノルベルトは13歳だ。2年後くらいには初陣をと考えているところ」


「なるほど、拙者とは7つ違いでござるか……!」


 特に意味はないが、ノーマンがノルベルトの年齢を尋ね、そこからローランがなんとか話をつなげていく。


「おお、そうだ。アラン殿が死に際に名を呼んだという娘御は何処に?」


「シンシアのことですか?それならば、母であるマリナと共にゼンドアの方にいる」


「ならば、帰り際にマリナ殿共々会って行ってはダメか?」


「……とりあえず、マリナに書状を出して聞いてみるとしよう。アランが討たれたと聞いて、かなり沈んでいたもので」


 マリナの状態を聞き、ラッセルに面会を求める書状を出してもらうこととし、その夜は飲み明かすこととなった。


 こうして、飲み明かした翌日はクルメドを観光してゆっくり休み、マリナからの返書を待った。トラヴィスたちがクルメド観光をした翌日、早くもマリナからの返書が届き、面会できることとなった。


 こうしてゼンドアにてマリナと面会することが叶ったわけだが、マリナは人の意見をよく聞き、ゼンドアを治めているのは相変わらずの繁栄ぶりであった。


「トラヴィス殿、ローラン殿、ノーマン殿、わざわざ夫の墓参りに来ていただき、感謝します」


 礼儀正しくマリナが頭を下げ、ゼンドアの城門にて出迎える。出迎えには兵士たちも規律正しく並んでおり、統率が隅々まで行き届いている。一糸乱れぬ統率ぶりにマリナの人の上に立つ者としての器があることを感じさせられる光景であった。


 ともあれ、マリナからの出迎えを受け、ゼンドアの城へと招かれ、ラッセルによるクルメドでの宴とは違い、盛大なものであった。


「マリナ殿、今回はアラン殿を死なせてしまったことは先鋒大将である俺の失態だ。詫びて済むことではないが……」


「いいえ、夫は常々強者と腕比べをして武功を立てることを願っていましたから。あの帝国の名将カルロッタに討たれたのであれば、悔いは……あまりないでしょう」


 マリナが言葉を濁したのには理由があった。アランは娘であるシンシアを溺愛しており、生きていた頃は『シンシアは嫁にはやらん!』と豪語していたほど。


 そんなシンシアは父であるアランと同じ茶髪であるが、髪型は母親のマリナと同じくお姫様カットにしている。そして、翡翠色の瞳は髪型と同じく母親であるマリナから受け継いだと言える。


 シンシアは10歳の少女だが、将来的には母親であるマリナに匹敵するほどの美女となるであろうと、誰もが嘱目されているほどである。トラヴィスたちはそんなシンシアと少し言葉をかわし、宴を楽しんだ。


 宴の場ではマリナからも謝罪の言葉が述べられた。何を謝罪したのかと言えば、アランが軍議の場で何かとトラヴィスと衝突したことや、独断で軍を進めたことなど、色々と謝られてしまい、さすがのトラヴィスも困り顔であった。


 しかし、軍議の場では衝突が多かったものの、トラヴィスはアランの武勇は認めていたし、これからのロベルティ王国軍を担っていく若武者として将来を嘱目していたほどである。


「マリナ殿、もう謝らないでくれ。俺も悪い所があったのだからな」


 その言葉により、謝罪大会はストップがかかることとなった。ともあれ、宴はプリスコット家とハワード家の親睦を深めることに大いに貢献するものとなっていた。


「ノーマン将軍、シンシアを見てどう思う?」


「どう思う……とは、どういうことでござるか?」


「率直な印象を聞いてるんだけど……」


「それならば、確かに幼く可愛らしい姫君であるとは思うでござるが」


 酒に酔うマリナから質問を浴びせられるノーマン。マリナとは違い、酒が苦手なノーマンは振る舞われる酒を一滴も飲まず、ここまで酔っ払いだらけの宴を楽しんでいたのだが、マリナに絡まれたことで一変する。


「よし、シンシアは5年後に成人するし、ノーマン将軍の正室にどうかしら?」


「せ、拙者の正室に……!?し、しかし、こればかりは拙者の独断では……!」


「よし、いいぜ!ノーマンとシンシアの縁談、断るいわれはない!」


「ちょっ、父上……!?」


 ノーマンが良い感じに縁談話を持ち帰ろうと試みていたにもかかわらず、すぐそばで飲んだくれていたローランにより、縁談話を受け入れるという方向へ話を勧められてしまう。


 こうして、酔っ払ったマリナとローランの間でノーマンとシンシアの縁談話をまとめられてしまった。


 父ローランとマリナという酔っ払い二人が談笑しているのを横目に、このような酒の場のノリで結婚相手が決められたとあっては、苦笑する他ないノーマンなのであった。


 ノーマンとしては、マリナとローランの酔いが醒めれば縁談話は取りやめとなることに一縷の望みをかけたが、ノーマンの願うような事態に転がるようなことはなく、正式な縁談話として両家の間で誓書が交わされてしまう事態に。


 だが、将来的にシンシアがマリナのような美人となるのであれば、ノーマンとしても正室としては文句のつけようがなかった。


 こんなハワード家とプリスコット家の縁談話を聞き、関係の良好さを感じ取ったマリアナやナターシャはホッと胸を撫でおろすこととなったのであったが、それはまた別の話。

第91話「池魚の殃」はいかがでしたでしょうか?

今回はトラヴィスたちハワード家とラッセルたちプリスコット家の交流についての話でした。

宴の中、ノーマンとシンシアの縁談が親同士でまとめられてしまうという事態に。

次回も今回の話と同じく、日常的なエピソードになります。

――次回「玉磨かざれば光なし」

更新は3日後、4/19(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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