第84話 過ぎたるは猶及ばざるが如し
どうも、ヌマサンです!
今回はハウズディナの丘の合戦後の両軍の動きが中心となります。
はたして、どのような動きを見せるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第84話「過ぎたるは猶及ばざるが如し」をお楽しみください!
ハウズディナの丘一帯での戦闘で惨敗を喫したロベルティ王国軍。しかし、フェルネ砦の奪取には成功していた。
戦略的にはロベルティ王国の勝利とも言えなくもないが、局地的な戦で大敗を喫しているため、1の成果を挙げたものの2の損失を被ったようなものである。
「兄者、アラン将軍の亡骸はノーマンの部隊が撤退する際に回収できたらしい」
「……そうか」
トラヴィスはアランを死なせてしまったという事実に責任を感じ、自責の念に潰されそうになっていた。あまり細かいことは気にしないローランは気にし過ぎだと笑っていたが、責任感の強いトラヴィスにはその言葉は届かなかった。
「父上、叔父上のご様子は……!」
「ダメだな、かなり落ち込んでいる様子だ。あれじゃあ、軍の指揮を執るのは難しいだろう」
ハウズディナの丘一帯での敗戦で、アランが戦死。プリスコット領の兵士も6千いたうち、5千弱が討ち死にを遂げるという壊滅的な状況となっている。
救援に向かったトラヴィス隊、ノーマン隊も少なくない損害が出ており、9千のうち2千が戦死しており、残るは7千。フェルネ砦を攻略したローラン隊も千近い死傷者が出ており、すぐに動かせるのは3千。
合計すれば、先鋒部隊の1万9千のうち、残存する兵力は1万。およそ半数近い数が討ち死にするのは大負けという他はない。しかし、ハウズディナの丘に侵入したのはアランの独断であり、むしろ止めようとしていたトラヴィスに非はない。
ともあれ、今のトラヴィスに軍務を行なうことは厳しいと判断し、弟であり、副将であるローランが実際の軍務を取り行なっていた。
そんなローランは此度の二ヵ所での戦の結果を記した書状をしたため、息子のノーマンにナターシャの下へと届けるよう命じた。
書状を預かったノーマンは駿馬に鞭打ち、昼夜の分けなくかけ続けた。結果、2日後にナターシャのいる本営へと到着することができた。
「……なんと、トラヴィス将軍率いる先鋒が敗北ですか……!?」
「そうでござる。アラン将軍も、敵の術中に陥り戦死なされたのでござる」
ノーマンから受け取ったローランからの報告書に、さすがのナターシャも血の気が失せる思いであった。
「それと、トラヴィス叔父上も軍務を行なえる状態ではなく、現在は我が父ローランが代わりに軍を取りまとめているでござるよ」
「ノーマン将軍、マルグリット・サランジェ率いる1万5千も明日にはフェルネ砦に到着するはず。まずは、マルグリットと一緒に砦を中心に守りを固めていてくれる?」
「レティシア殿、承知したでござる!拙者はすぐにフェルネ砦へと戻るでござる!」
レティシアとのやり取りを終え、ノーマンはすぐに本営を飛び出し、父の待つフェルネ砦へと急ぎ戻っていった。
「ナターシャ様、事態は思ったよりも深刻のようです」
「ええ、そうね。まずはマルグリットの部隊と合流してもらって、私たちが行くまでは動かず、待機させるとしましょうか」
「そうですな。一先ずはそれでよろしいかと」
臣下のモレーノから話しかけられ、敗戦のショックに思考が飛んでいたナターシャも思考を目の前へと戻すことができていた。
とにもかくにも、ナターシャ率いる本隊は迅速にフェルネ砦へと向かうことを最優先事項と定めた。即日、ヘキラトゥス山地を急いで越えていくことを全軍へ命じた。
その頃、カルロッタ率いる帝国軍はハウズディナの丘を西から迂回し、南へ撤退。フェルネ砦とカルロッタの居城であるヌティス城の中間あたりの位置に本陣を構えていた。
その陣中では勝利に湧きたち、兵たちの士気はうなぎ上りであった。なにせ、彼らからすればロベルティ王国軍など侵略者以外何者でもないのだから。侵略者を数多く討ち取ったとあれば、士気も上がるというもの。
「カルロッタ姉さま。まずは大勝利、おめでとうございます」
「ミルカもご苦労様でした。名将トラヴィスを足止めできたのは一番勝利に貢献したと言えるわね」
「ありがとうございます。ですが、トラヴィスを討ち漏らしたのは痛恨の極みです……!」
「そう自分を責めるのは良くないわ。ミルカは十分によくやってくれたわ」
トラヴィスを討ち漏らしたことを悔やむミルカを慰めつつ、カルロッタは今後の方針を固めるべく、軍議を開始した。
「カルロッタ様、此度の一戦で敵の半数近くを討ち取りました。このまま北へ進軍し、ナターシャ率いる本隊が到着する前に叩き潰しておくのが上策と心得ますが……」
「ユルゲン将軍の説は良いと思うよ。ここまで来たのなら敵の本隊が来る前に徹底的に叩き潰しておくのが吉だと思うけど?」
「ユルゲン将軍、ローレンスの意見は良いわね。私としてもナターシャ本隊が来ればフェルネ砦を拠点にダルトワ領への侵攻を本格に行なうだろうし」
手練れのユルゲン、軍師のローレンス、総大将であるカルロッタの意見が合致。名将カルロッタが采配を執る帝国軍の動きは電光石火であった。動くことのできる兵をまとめ上げ、5万2千もの大軍をフェルネ砦へと迫った。
そんな折、カルロッタの下へ物見兵が駆け込んできたのである。
「申し上げます!」
「どうかしたの?かなり慌てているみたいだけど……」
「ハッ、先ほどフェルネ砦に敵の増援が到着!その数、およそ1万5千!」
1万5千。その数を聞き、カルロッタは面倒なことになったと考えた。今いる1万の兵を駆逐するだけなら、短期決戦で片付くと考えたが、敵の第二陣の到着が想定よりも早かった。
「そうだ、援軍の大将は誰か分かるかい?」
「ハッ、援軍の大将はマルグリット・サランジェです」
「サランジェか……」
マルグリットたちサランジェ族はかつて、ダルトワ領内の平野部に暮らしていたが、野蛮な騎馬民族だと迫害を受けてクレメンツ教国へと追われた経緯がある。
だからこそ、マルグリットに率いられたサランジェ族の戦士たちの戦意は高い。そんな戦意の高い敵が1万5千も増えたのだ。これは帝国軍としては迂闊に動けない状況となった。
カルロッタは報せを聞くなり、命令を変更。攻めかかることはなく、フェルネ砦南に広がるライオギ平野まで進み、本陣を構えた。
「敵は先に我らと戦った1万とサランジェ族の増援1万5千の併せて2万5千か」
「こちらは5万2千ですが、短期決戦で打ち破るのは難しそうね」
敵がフェルネ砦に収まり切れず、外に陣営を構え、大軍が駐屯しているのを眺めながらポツリと呟いたカルロッタ。ユルゲンはじれったいものを感じたが、直感的に今責めるのはマズいとも感じていたため、何も言わなかった。
そんな折である。夜のフェルネ砦に大軍が到着した。街道沿いに松明の明かりがともされている様はなんとも壮観であった。
ともあれ、フェルネ砦に総大将であるナターシャの旗が翻ったことから、カルロッタも敵の本隊が到着したのだと思い知らされた。
だが、カルロッタは仕掛けなかったことに安堵していた。『増援ごと蹴散らしてしまえ』と号令していたら、今ごろ手痛い敗北を喫していたに相違ない。
ともあれ、2万5千の軍勢にナターシャ率いる3万3千が加わったともなると、敵の総勢は5万8千。帝国軍よりも6千多い。この6千という兵数の差は大きい。
カルロッタは形勢不利を悟り、その夜のうちに本陣を南へと下げ、ハウズディナの丘での戦い後に本営を置いていた地に戻した。
敵が後退したことを受け、ナターシャ率いるロベルティ王国軍も軍議へ突入するのであった――
第84話「過ぎたるは猶及ばざるが如し」はいかがでしたでしょうか?
士気の落ち込むロベルティ王国、勝利で士気の上がる帝国軍。
今回は小競り合いすら起こりませんでしたが、次回は動きがあります……!
――次回「任重くして道遠し」
更新は3日後、3/29(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




