第76話 老少不定
どうも、ヌマサンです!
今回も更新日時が遅れて申し訳ありません!
今回はケリトデリ盆地の戦いも決着します!
はたして、どのような決着となるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第76話「老少不定」をお楽しみください!
「ハッ!」
「うぬっ!」
水流を纏うアレーヌの大剣がジェロームの大剣と衝突する。その衝突たるや凄まじく、周囲の兵たちも近くに留まることはできず、2人とは距離を取って合戦を続けていた。
アレーヌとジェロームの一騎打ちはあれからも何十合も大剣をぶつけ合っていたが、依然としてジェローム優位に進んでいく。
「爆魔紋!」
地を蹴り砕きアレーヌへと肉薄したジェローム。アレーヌは弦を離れた矢のように接近してくるジェロームの一撃に、全力をもって応じる。しかし、紋章の力を発動させたものの、同じく紋章の力を用いたジェロームの怪力無双の一撃を相殺することは叶わなかった。
ケリトデリ盆地の土を削りながら後退。爆魔紋の威力たるや凄まじく、アレーヌの用いていた大剣は吹き飛ばされ、宙を何度も回転し、アレーヌから離れた地に突き刺さる。
アレーヌの身に着けた鎧も爆発と衝撃波により砕け散り、ダメージはアレーヌ本人にも到達。この時点でアレーヌにジェロームに抗する力は持ち合わせていなかった。
「アレーヌだったか。そなたほどの武芸者を殺すには惜しい。オレとここまで戦えるなど、帝国でもそうはおらん。どうだ?北方の辺境の国でしかないヴォードクラヌに仕えるなど……」
「私はヴォードクラヌを裏切るつもりはないわ!斬るならサッサと斬りなさい!」
さすがのジェロームも迷いを表情の上にチラつかせていたが、表情は覚悟を決めた漢の目に変貌した。
「許せよ」
ジェロームがその言葉と共に紅蓮の大剣を振りかぶり、大上段の構えを取る。アレーヌも自らの死を受け入れ、静かに目を閉じる。
「ルイス様、最後までお供できず申し訳ありません……」
涙と共にこぼした言葉に、ジェロームの涙腺も決壊しかける。そんな折、ヴォードクラヌ王国軍左翼の方から大爆発が起こる。
「ジェローム様!敵将コリンと名乗る者が手強く、右備えが崩されております!」
「バカな!あっちには敵の倍近い兵を配しているだろう!?」
「早くに将軍が射殺され、兵がまとまりに欠けておるのです!副将ではどうも、統制が取りづらく……!」
「おのれ、何のための副将なのだ!」
ここで起こっても仕方ない。そう判断し、ジェロームは早く左備えの加勢に向かう必要を感じ、アレーヌにトドメを刺そうとする。しかし、一瞬目を離したすきにアレーヌはこつ然と姿を消していた。
「アレーヌはどこだ!?」
ジェロームが辺りを見渡すと、瞳の端に水色の大剣を引っ提げて馬を走らせるアレーヌの姿を捉えた。向かう先はルイスのいる中軍だろうと推測された。
「やむを得ん、事後処理はおぬしらに任せる!オレは左備えの加勢に向かう!」
ジェロームはアレーヌの追撃を自分が行なうほどではないと判断。自らは崩れつつあるという左備えへと援護するべく急行していった。
だが、ここでジェロームが追撃を行なわなかったことでアレーヌは命拾いすることとなる。アレーヌ自身、逃げながらも帝国軍の将兵を何十も討ち取っていた。結果、ルイスの元へと辿り着くことに成功。
「アレーヌ、その傷は……?」
「申し訳ありません。不覚を取りました。ジェロームと一騎打ちをしたのですが、私では敵わず……」
「そうか、ご苦労だったな。まあ、右翼が崩れたのは痛手だがな」
少々嫌みが混じっていたが、ルイスなりにアレーヌを労ったつもりだった。アレーヌ本人もそのことは分かっていたが、周りにいた者たちは不信感をくすぶる種となっていた。
もはや、アレーヌ率いる右翼が崩れた時点で、ヴォードクラヌ王国軍の士気はガタガタであった。コリン率いる6千の左翼部隊のみが高い士気を維持したまま、獅子奮迅の働きを見せている状態。
「おう、そなたがコリンとかいう大将か!」
「ああ、そうだが」
コリンもまた、猛将ジェロームと遭遇してしまう。しかし、アレーヌとは違い、接近戦を苦手とするコリンは、勝ち目ナシと判断。あくまで遠くから矢を放つだけに留め、ジェロームに近づくようなマネはしなかった。
結果、コリン隊の士気も下がり、さらにはジェロームの猛勇に恐れをなした兵たちが逃亡を開始する。
この瞬間、ケリトデリ盆地の戦いはフレーベル帝国軍の勝利が確定。ルイス率いる中軍もシリルが采配を揮う帝国軍の猛攻によって突き崩され、やむなく撤退という形となった。
「ルイス様、我々の力及ばずで申し訳ありませんが……」
「撤退か。このオレが父と同じく帝国軍に不覚を取るなど……!」
悔やんでも悔やみきれないルイスであったが、アレーヌに引きずられ、無理やりの撤退となった。ルイスたちはシリル率いる帝国軍に必要以上の追撃を受け、次々にその数を減らしていき、シムナリア丘陵地帯を抜ける頃には6百足らずの兵士か従っていなかった。
「申し上げます!」
「……どうした?」
「し、シルヴィオ様が討ち死になされました……!」
「なに、シルヴィオが?」
アレーヌの祖父であり、ヴォードクラヌ王国随一の猛将として名高いシルヴィオが戦死。確かに頭髪も白くなり、老いがちらつき始めていたが、戦場で討ち取られるなどとは信じられないことであった。
アレーヌも祖父の死にショックを受けたが、討ち取ったのが他でもないジェロームだと知り、妙に納得してしまうのだった。
シルヴィオはアーネストからコリンの伝言を受け取った後、1万5千という大軍でケリトデリ盆地へと向かう途中に、帝国軍3万と遭遇。乱戦となるも、戦の最中でシルヴィオが戦死したことを受け、残された1万以上の兵士たちは続々と投降し、戦いは決着したのだという。
「おのれ帝国め……!う、うぐっ!?」
「ルイス様!?」
怒りを発したためか、撤退途中に受けた矢傷が開いたのだ。口から洪水のように血を溢れさせながら、落馬してしまう。
ヴォードクラヌ王ルイスの落ちぶれた姿を見た兵士たちは見限り、王都レシテラへ入った時にはアレーヌを含めて百にも満たない数しか近辺にはいなかった。
その後も破竹の勢いで北上してくる帝国軍を前に、ヴォードクラヌ王国の領主たちは戦うこともなく投降し続け、シルヴィオを討ち取った戦以降、死者はおろか負傷者を1人も出すことなく、帝国軍は王都レシテラまでたどり着いた。
「シリル。こうまで容易くヴォードクラヌ王国を破れるとは思わなかったぞ」
「このシリルにはすべて読めていたぞ。だから言っただろう?あのケリトデリ盆地の戦いの結果にかかっている……と」
シリルはケリトデリ盆地の戦いの軍議の最中、何度も口にしていたことを改めて口にした。ジェロームもその時のやり取りを思い出したのか、笑みをこぼした。そして、ヴォードクラヌ王国征伐の総仕上げにかかるべく、戦支度を開始するのであった。
しかし。帝国軍に包囲された王都レシテラにはルイスとアレーヌの姿はなかった。そう、死んでは何にもならぬと逃亡したのだ。
どこへ逃げたのかと問われれば、無論ロベルティ王国である。現在、ヴォードクラヌ王国が同盟を組んでいるのはロベルティ王国のみ。他に頼れる国もないのだ。
ヴォードクラヌ王国単独では万事休すというほかない状況であったが、ロベルティ王国の協力さえ得られればもう一度帝国相手に一矢報いることができる。
ルイスの一縷の望みはロベルティ王国でつながるか。アレーヌも心の内で不安を抱きつつ、主君であるルイスの後を追い慕っていくのであった。
第76話「老少不定」はいかがでしたでしょうか?
今回は老将シルヴィオが討ち死にする事態に……
とはいえ、ルイス、アレーヌが敗北後、ロベルティ王国へと逃れる流れになっていましたが、はたして逃げきることができるのか……!
――次回「最後の奉公」
更新は明日、3/5(日)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




