第75話 生兵法は大怪我の基
どうも、ヌマサンです!
今回はついにヴォードクラヌ王国軍と帝国軍の戦いが始まります!
はたして、ケリトデリ盆地の戦いはどうなるのか……!
それでは、第75話「生兵法は大怪我の基」をお楽しみください!
ケリトデリ盆地での戦いは明朝の開戦となった。仕掛けたのはヴォードクラヌ王国。それも、右翼でも左翼でもなく、真ん中に陣取るルイス自らが仕掛けたのである。
ヴォードクラヌ王国軍は左翼と右翼にそれぞれに6千ずつ兵を配置しており、残る1万千が中央に布陣している。この1万2千こそ、ルイス自らが率いる精鋭部隊であった。
「ルイス様!ご命令の通り、先鋒部隊が攻撃を開始!現在、敵勢に矢を射かけております!」
「ご苦労。まずは、敵の出方を見る。オレも前線へ行くぞ」
伝令兵の労をねぎらいつつ、ルイスは自ら供回りを連れて敵軍の動きを見るべく、前線へ。
――その動きを見た帝国軍は。
「フッ、総大将自ら前線に出て来たか。なら、一気に討ち取ってしまえ!騎馬隊を突っ込ませろ!」
シリルは一気にケリをつけられるまたとない好機であると考え、突破力のある騎兵をぶつけようとした。そこへ。
「シリル様!敵が騎馬隊を先頭に突撃を開始!」
「数は?」
「およそ6千!」
中央に布陣した数の半分近い数が押し出されてきた。これに対して、シリルは朝令暮改ではあるが、命令の変更を伝えた。騎馬隊を下がらせ、槍と盾を持った重装歩兵を前面に押し出し、壁を作るように命じたのである。
ヴォードクラヌ王国の騎馬部隊が殺到する頃には帝国軍は素早く陣形を変え、重装歩兵による壁が形成されていた。盾を並べた後ろから槍が突き出されてくるため、騎馬隊は勢いを完全に殺されてしまう。
そこからは一進一退の攻防となるも、数で劣るヴォードクラヌ王国軍の不利は明らかであった。
「ルイス様が仕掛けたみたいね。私たちも敵側面を突破し、ルイス様に加勢するわよ!」
「おおっ!」
盆地中央で戦端が開かれたことを受け、右翼のアレーヌ隊も前進を開始。士気の高い兵6千が黒い塊となって帝国軍へ攻めかかる。さらに、大将を務めるアレーヌ自ら馬に乗り、先頭切って敵中に駈け行っていく。
馬上から水滴の文様が描かれた水色の大剣を振るうアレーヌの猛勇に、立ちはだかる帝国兵が次々に討ち取られていく。その様を見たアレーヌ隊の士気はうなぎ上りとなる。
そんなアレーヌ隊の奮戦ぶりを遠目から見ていたコリンはといえば。突撃するでもなく、予め設けた柵より外には出ず、ひたすらに目の前の敵勢とにらみ合っていた。
「コリン様、我々は動かないのですか!?」
「そう焦るな。まだ早い」
椅子に腰かけ、静かに戦場を眺めるコリン。他の将軍たちは動きを見せないことにじれ始める中、コリンはそれを制していた。
そんな折である。敵は槍隊を前面に押し出し、少しずつ少しずつ前進を開始。その動きはヴォードクラヌ王国軍を焦らすかのようであり、挑発して誘っているのは明らかであった。
「よし、弓隊に矢を番えて柵のすぐ内側に待機するよう伝えよ」
「ハハッ!」
コリンは速やかに迎撃準備を整えさせる動きを取った。コリン自身、柵の近くまで赴き、敵の動きを両の目でしかと確かめた。
「コリン様!敵勢はすでに弓の射程に入っております!命令をいただければ、すぐにでも……」
部下が話そうとするのを遮り、コリンはまだ待つように告げた。まだなのか。兵士も将軍もみながじれる中、槍隊の姿が大きくなってきた時。コリンの采配が風を切った。
「放て!」
コリンの号令で、何千という矢の雨が帝国軍へと降り注ぐ。帝国兵はバタバタと射倒されるが、手に盾を持つ者はやっとのことで矢の雨を凌ぎ、さらなる接近を目論む。
「オレの弓をよこせ!」
「こちらに!」
部下から自らが愛用している弓を受け取り、すぐさま矢を番え、狙いを定める。コリンの放った矢は槍隊を指揮する敵将の首筋を射抜いた。
「敵将、このコリン・ヒメネスが討ち取ったぞ!」
笑いながらコリンは弓を頭上に掲げながら、自らの手柄を誇った。それからは自身も馬に乗り、剣を振るって突き進んでいく。
コリンも前線で暴れ出したことで、他の将軍たちも遅れを取るなとばかりに敵勢へ斬り込み始める。兵士たちも手柄を立てようと必死に応戦し始めた。
ついにコリン隊が攻勢に出た。これにより、戦況はさらなる動きを見せる。そんな戦況の変化について、ジェロームは帝国軍本陣にて次々に飛び込んでくる報せを受け取っていた。
「敵右翼の猛攻により、第一陣が突破!このままでは第二陣も危ないかと!」
「申し上げます!敵左翼も前進を開始!すでに将軍2名が討ち取られた模様!」
「よし、先に敵右翼を片付ける!左翼の方は第一陣が食い止めているなら問題はない!オレ自ら敵右翼を片付け、その後で左翼も片付けるとしようぞ!」
ジェロームは灰色の鎧に身を包み、背負っている紅蓮色の大剣を抜き払い、騎乗。数百の手勢を率いて、アレーヌ隊と交戦中の味方を救援するべく動き出した。
「まずは敵の第一陣を崩したわ!このまま第二陣、第三陣も突破するわよ!」
アレーヌ隊の奮戦ぶりに帝国軍の第二陣は総崩れの一歩手前まで来ており、第三陣も浮足立っていた。そこへ、ジェロームが到着。たちどころにヴォードクラヌの武将を一撃で斬って捨ててしまう。
ジェロームの猛勇ぶりにアレーヌ隊の猛攻に歯止めがかかる。勢いが徐々に弱り始めたことを受け、アレーヌ自らジェロームを討ち取らんとぶつかっていく。
ヴォードクラヌ王国でも武名の通ったアレーヌと、帝国軍でも指折りの猛者であるジェロームは、このケリトデリ盆地で相対した。
「そなたがアレーヌとかいう、この部隊の大将か。オレは此度の征伐軍の大将、ジェローム・コルテーゼだ」
「あなたが総大将だったのね……!あなたさえ倒せば!」
大剣を握るアレーヌの手に、より一層の力が込められる。ここで、このジェロームという男を斬れば、敵軍は総崩れとなる。決戦の勝敗はここでジェロームを仕留められるかにかかっている。
アレーヌはジェロームに一騎打ちを申し入れ、ジェロームが受けたことで一騎打ちは始まった。
両者が駒を寄せ、互いの大剣をぶつけ合う初撃。その際の金属音たるや凄まじく、甲高い金属音が周囲に轟いた。それから休む暇も無く、何合も連続して大剣と大剣が打ち合われる。
「くっ……!?」
「どうした?その程度の力ではオレは倒せんぞ!」
大剣ごとアレーヌを薙ぎ払うジェローム。その力任せの一撃に、アレーヌも馬上から叩き落とされる。が、人を地面に叩き落とすようなジェロームの怪力に気をとられている暇など無い。
続けざまに振り下ろされ、薙ぎ払われる紅蓮の大剣に水色の大剣は防御するしか手が無かった。しつこくアレーヌを追撃してくる斬撃の嵐に、アレーヌの腕や足、肩に傷が1つ、また1つと刻まれていく。
だが、アレーヌもギリギリのところで防御を重ねており、致命傷だけは避けているという状況である。そこで、ジェロームの大上段からの振り下ろしを受け止めた反動で、強制的に間合いの外へと放出される。
その隙にアレーヌは水魔紋の力を発動させ、大剣と同じ色の水流が纏われる。こうでもしなければ、とてもジェロームとやり合うことはできない。そう感じたからである。
「行くわよ!」
「おう!紋章なり力なり、全部出しとけ!死んでから使っとけばよかったって後悔しなくて済むようにな!」
あくまで武人肌なジェロームはアレーヌの紋章発動が完了するのを瞬き一回分ほど待ち、正面から大剣をぶつける。先ほどよりも一撃の威力が増していることを感じつつも、思っていたほどではないと嘆息する。
――そんなジェロームに一太刀酬いんとアレーヌは必死に食らいつくのだった。
第75話「生兵法は大怪我の基」はいかがでしたでしょうか?
ついに始まったヴォードクラヌ王国と帝国の戦争。
ケリトデリ盆地の戦いはどう決着するのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
――次回「老少不定」
更新は3日後、3/2(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




