第64話 不倶戴天の仇
どうも、ヌマサンです!
今回はついにナターシャとデニスの一騎打ち!
はたして、一騎打ちの勝敗やいかに……!?
それでは、第64話「不倶戴天の仇」をお楽しみください!
ウルムクーナ川北岸の戦場にて、ナターシャとデニス。互いを『仇』と憎む両名は巡り合った。
デニスは兄と同じく雷魔紋の力を振るい、敵を蹴散らしていた。ところへ、ウルムクーナ川をナターシャが渡河してきた。そして、ナターシャが敵勢の只中に突入していったところで、バッタリと。まるで、待ち合わせでもしていたかのように。
「おい、黒い髪に黒い瞳。剣と鎧、馬まで漆黒で統一された女……テメェがナターシャ・ランドレスか」
「ええ。私がナターシャですが、あなたは?」
「オレはデニス・フレッチャー!テメェの弟を殺した男だ!」
デニスは元より憎悪を身に纏っていたが、ナターシャはこのデニスの言葉が引き金となり、憎悪と殺気が体内から溢れ出していた。
「なるほど、あなたがクライヴを……」
「ああん?怒ったか?でも、テメェは3年前にオレの兄貴を殺した!その仇を今、ここで晴らす!その前に、骨肉の兄弟を奪われる悲しみってヤツをテメェにもお裾分けしてやろうと思ってな……!」
デニスの嗜虐的な笑みは、ナターシャにとっては怒りを増幅させるものでしかなかった。たちまち、両雄は剣を構え、一騎打ちというよりも殺し合いに近いものを始めることとなる。
「おい、オレはテメェを殺す。テメェもオレを殺したい。なら、やることは1つだ」
「そうですね。このようなところで押し問答をするのは無用ですね」
ナターシャの持つ漆黒の剣、魔剣ヴィントシュティレを構え、デニスも帝国の紋章が刻まれた直長剣に雷を纏わせる。
そこからは熾烈な剣撃の応酬が繰り広げられる。黒と黄の閃光が幾重にも重なっては離れ、また幾度もの衝突を繰り返す。
兄と同じく剛力を重視する剣術を用いるデニス。剣術の流派としては、アマリアとも似ている点が多い。しかし、完全なる別物だ。
対するナターシャは目にも止まらぬ速さで相手を両断する、速度を重視する剣術を用いる。それなのに、ナターシャの剣術には得意の素早さが欠けていた。
なぜか。ナターシャは本気を出していないのである。デニスごとき、これで十分に仕留められる。
その自信と予想を大きく上回る形で、デニスは憎悪と雷を纏わせた直長剣を暴力的にナターシャへと浴びせかける。しかし、デニスがどれだけ全力を出そうとも、ナターシャにはかすり傷の1つも付けられていない。
すでに互いの剣をぶつけ合うこと、50合。これほど打ち合っても一太刀も見舞うことができないのは、デニスにとっては苛立ちを募らせる要素でしかなかった。だが、ここで苛立っている時点で、デニスはナターシャに遠く及ばない。
対するナターシャはあくまでも冷静に、デニスの剣筋を読み切ることに注力している。ゆえに、デニスの攻撃が当たらないのは、ナターシャに剣捌きを完全に見切られているからに他ならない。
そんな余裕しかないナターシャと全力を出しても届かないデニス。勝敗はすでについたようなもの。そして、迎えた決着の時は一瞬であった。
「フッ!」
「うぐっ!」
大上段から振り下ろすデニスの一撃に対し、ナターシャは目にも止まらぬ速度でガラ空きの胴に自らの斬撃を滑り込ませた。
結果、デニスの剣が届く前に、彼自身の体はへそを境に上下に分断されてしまっていた。すなわち、デニスの剣は最後までナターシャに届くことはなく、3年にわたって待ち続けた復讐は漆黒の一閃により終止符が打たれたのである。
『オレは、こんなところで……!まだ兄貴の仇も討ててねぇのに!』
そんなデニスの悲痛な叫びを、ナターシャは聞いたような気がした。かくして、帝国軍1万7千を統べる猛将デニスは、今ここにナターシャにより討ち取られた。享年26。
ナターシャにとって、デニスは弟を殺した憎い敵ではあったが、1人の戦士として丁重に弔うように部下へ命じ、自身は再び乱戦の中へと駆けこんでいくのであった。
一方、川の北側でノーマン率いる6千と交戦中の帝国軍4千5百はと言えば。
「将軍、マズいですぞ!本隊が敵の猛攻を受けております!3万を超える敵の新手が押し寄せて……!」
「チッ、急いでデニス将軍のところへ――」
「行かせぬでござるよ」
刹那、翡翠の風を纏う両刃の大剣に将軍の首が叩き落とされる。それに驚く、副将の首も次の瞬間には宙を舞うこととなった。
「敵将、このノーマン・ハワードが討ち取ったでござるよ!」
ノーマンの声を聞いたロベルティ王国軍から歓声が上がる。対する帝国軍は指揮官を失い、支離滅裂。軍としては死んだも同然であった。
ノーマンはすかさず総攻撃を命じ、瞬く間に帝国軍を壊滅させると、残った兵を率いて南下。ナターシャたち本隊と合流した。
合流し、再び5万近い数となったロベルティ王国軍は次の獲物として、アルベルトの立て籠もる城を包囲している最中のシドロフ王国軍に目をつけた。
「陛下、ロベルティ王国の大軍がこっちに向かって来ます!」
先日からの城攻めで消耗し、数が4千強にまで減ったシドロフ王国軍に対し、帝国軍を蹴散らして勢いに乗るロベルティ王国軍5万弱。勝敗など、戦う前から明らかであった。
「よし、これこそ好機!今こそ、アンディと親父の仇を討ってやる!」
「何が『よし』だ!ここは撤退するべきだ!」
「ラウル!この腰抜けが!お前はそれでも武将か!」
敵を迎撃しようとするカイルと、撤退を進めるラウル。両者はしばらく言い合ったが、その間にも兵士たちは続々と逃亡を始める。
「あっ、お前ら!逃げるな!戦え!戦わんか!」
カイルはサッと剣を抜き、近くの逃亡兵を切り捨てる。続いて、その近くにいる逃亡兵も斬らんとしたところ、ラウルが横から剣を弾いた。
「カイル!いい加減にしろ!もう私たちは負けたのだ!これ以上、無駄に死者を出してはいけない!」
「黙れ!」
カイルは馬上からラウルを蹴り飛ばした。しかし、ラウルは近くに兵士が捨てていった槍を拾うと、穂先とは反対の石突の部分でカイルの乗る栗毛の馬の尻の部分を突いた。
それにより、馬は暴れ出し、カイルを乗せたまま北へ。すなわち、向かってくるロベルティ王国軍とは反対方向へ駆けだしたのである。
「ラウル!お前、後で覚えていろよ!」
カイルは必死に馬を操ろうとしながらも、次第にラウルとは距離が開いていき、そのうちラウルからもカイルの姿は見えなくなった。
「ラウル様!ぼうっと突っ立っていては危険です!我らと共に逃げましょう!」
「いいや、私は逃げるわけにはいかない。君たちだけでも逃げてくれ」
「バカ言わねぇでくれ!ラウル様、死ぬつもりか!?」
「そうだ、と言ったら?」
「おらたちも残る!」
そういうシドロフ王国兵の周りにいる者たちも逃げようともせず、ラウルと共にその場に残っていた。そんな彼らの様子に、ラウルはため息を1つ。
「いいや、君たちはここから逃げるんだ。こんな無益で大義のない戦で死ぬ必要はない」
「それなら、ラウル様だって……!」
「いいんだ、これは私なりのケジメの付け方なんだ。君たちには、故郷で待っている人たちがいるのだろう?だったら、その人たちのために、君たちは今できることをするんだ。いいね?」
ラウルの言葉は兵士たちの胸に刺さった。そして、そこまで言われては何も言えず、1人1人がお辞儀をしては、走り去っていく。そうして、最後の1人になった。
「君に頼みたいことがある。もし、嫌でなければ……これからもカイルを、国王陛下の力になってあげてくれ。この私の言葉を先に逃げていった人たちにも伝えてほしい」
「……ハッ!承知しました!それでは、御免!」
――こうして兵士たちを逃がした後、ラウルは馬を拾い、ロベルティ王国軍に命がけで、そして無謀な突撃を仕掛けるのであった。
第64話「不倶戴天の仇」はいかがでしたでしょうか?
今回はナターシャがデニスを討ち取り、帝国軍が壊滅。
アルベルトの籠城する城を囲むシドロフ王国兵たちも次々に逃亡を開始。
そんな中、ラウルはたった一人で突撃を敢行したわけですが……
――次回「忠義と友情の果てに」
更新は3日後、1/28(土)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




