第63話 枯木竜吟
どうも、ヌマサンです!
今回はいよいよアルベルトとカイルの間で戦いが勃発します!
はたして、十倍以上の敵を相手に、アルベルトがどんな戦いを見せるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第63話「枯木竜吟」をお楽しみください!
「愚王カイルに物申す!」
絶体絶命の小城の櫓に現れた鎧兜を身に纏う若武者の声が、包囲する寄せ手の兵士たちに落とされる。雷のように大気をつんざく声に、戦場にいる者は敵味方問わず耳を傾けた。
「我こそはアルベルト!かつて、シドロフ王国の臣下であった者だ!」
アルベルトが櫓から叫ぶ声を聞いたカイルは本営にて怒りに震えながら、アルベルトを睨みつけていた。
「カイル様、死にぞこないの妄言など、気にしてはなりませんぞ」
「そんなこと、言われなくとも分かっているわ!おのれ、オレのことを愚かな王よばわりするなど、許してはおけん!この手で踏みつぶし、血祭りに挙げてやる……!」
若きカイルは、このアルベルトの演説が挑発であると分かっていても、体の奥底から沸々と湧き上がる怒りを抑えられなかった。
「愚王カイルはロベルティ王位を簒奪した逆賊ジェフリーに加担し、滅亡の道を進み始めている!その胸に大志はなく、己の野望と私怨のみで無益な戦を起こした!これを愚かと言わずして、なんという!このままでは、罪なきシドロフ王国の民までも、いらぬ戦禍の巻き添えとなるだろう!」
「おのれ……!誰か、あの痴れ者を射ろ!」
「はっ、ハハッ!」
カイルはアルベルトの演説が終わる前に、堪忍袋の緒が切れていた。しかし、カイルに命じられ、アルベルトを射た弓兵は、わざとアルベルトにあたらぬよう、外した。
その行為を皮切りにカイル率いるシドロフ王国の軍勢による攻撃が始まった。まずは、寄せ手の6千との戦い。これだけでも兵力差は10倍以上。
しかし、アルベルトの指揮する兵士たちは死をも恐れず、果敢に応戦する。対する寄せ手はアルベルトの演説を聞き、戦う意味を見失っていた。そんな心に迷いの生じている兵士では、いかに小城とはいえ、微塵も揺らがせることはできない。
――そうして3日が経った。
王として、かつてない屈辱を受けたカイルにとって、10倍の兵で包囲しておきながら、たかが小さな城1つ落とせないなど、王の誇りが許さなかった。
アルベルトたち籠城側も必死で応戦しているが、兵士の数はすでに3百をきっており、半数近くがすでに物言わぬ死体となっている。だが、その数倍の屍が城の外に転がっていた。
予想以上の奮戦ぶりに、アルベルトも意外に思っていた。ところへ、さらなる絶望が襲来する。
「申し上げます!帝国軍の軍旗が見えました!」
「……来たか」
実にシドロフ王国軍の3倍に匹敵する1万8千の数で、帝国軍がこの小城までやって来た。すなわち、これよりは今までの4倍近い敵を防がなければならなくなったということ。
これを絶望と呼ばずして何という。だが、アルベルトだけではなく、シュテフィやクロエも女性でありながら剣を振るい、弓を引き、必死に兵士たちを鼓舞する。
そんな姿にアルベルトも負けてはいられなかった。すでに幾筋もの矢を負いながらも、剣を抜き、寄せ手の兵士を斬り捨てていく。
だが、帝国軍の猛攻はすさまじく、瞬く間に城門が打ち破られ、城内に敵の侵入を許してしまう。
「クロエ!ここを頼む!」
「兄さん、破られた城門のところへ行くの?」
クロエからの言葉に、アルベルトは死を覚悟した表情で、頷くのみ。ここまで奮戦したが、落城の時が来たか。
そう思いながらも、死ぬ一瞬まで戦い抜くと自身を鼓舞し、クロエもめちゃくちゃに剣を振り回して、敵勢に突っ込む。
シュテフィも慣れぬ槍を揮って、死力の限りを尽くして戦っていた。クロエを死なせまいと、彼女を補佐する形で互いに背中を預け、敵と死闘を演じる。
一方のアルベルトも、愛用の斧槍の刃が砕けて尚、剣を手に取り、敵将を斬り伏せていく。鎧の上から両断するのでは、刃が持たない。よって、鎧の隙間に滑り込ませながら敵将、敵兵を次々に斬っていく。
大将アルベルトの奮戦もあり、勇猛で知られる帝国軍も千近い死傷者を出したことで、一時後退を余儀なくされる。そして、昼食を挟んだ頃、再度帝国軍が押し寄せてくるとなった時。
ウルムクーナ川を越えた先に、アルベルトたちは光を見た。真昼の太陽に照らされたのは、猛然と北上してきた誰でもない、ナターシャ率いる大軍勢であった。
城へと攻めかかろうとしていた帝国軍であったが、大将デニスの判断により、攻撃は中止。城の包囲はカイルたちシドロフ王国軍へと委ねられ、帝国軍は全軍を挙げてウルムクーナ川北岸に布陣、迎撃する構えをとった。
こうして、川の北に帝国軍1万7千。南側にはナターシャ率いるロベルティ王国軍5万5千が5段構えで布陣。
ウルムクーナ川南岸を埋め尽くすほどの大軍に、さすがの勇将デニスも信じられないものを見るような視線を送っていた。一体、これほどまでの大軍をここまで迅速に北上させたのか。
理解に苦しむデニスであったが、そんなことを悠長に考えている場合ではない。今から自軍の3倍以上の敵を相手にしなければならないのだ。
だが、それ以上にデニスは想定よりも早く、兄の仇と巡り会えたことに喜びを感じてもいた。
この思わぬ援軍に、アルベルトたちは希望を見いだした。すなわち、攻城戦で破壊された城を捨て、全軍で打って出たのである。まさか籠城側が打って出てくるとは想定していなかったシドロフ王国軍は足並みが乱れる。
そんな後方の異変に、デニスは気づいていたが、十分にシドロフ王国軍だけで対応できると判断、一兵たりとも援軍を送ることはなかった。
そうして、にらみ合いが続く中、陽が西に傾き始めた頃。ロベルティ王国軍の先鋒を務めるアマリア、ユリアの両名に率いられた1万4千が渡河を開始。
眼前の帝国軍へ猛攻撃を仕掛ける。アマリア隊8千が前進し、渡河する間、ユリアは6千の兵で援護射撃を行ない、少しでもアマリアが渡河しやすくなるよう、立ち回った。
このユリアの補佐もあり、アマリアは帝国軍1万7千と合戦の火ぶたを切った。そして、ユリア隊も遅れを取るまいとアマリア隊に加勢。1万7千と1万4千の大軍同士が血で血を洗うような戦模様を展開し始める。
しかし、デニスは見事に全軍を統率し、勇猛果敢に応戦。アマリア隊、ユリア隊をたちまち押し返し始める。
――だが、その時。デニスの元へ驚くべき報せが舞い込む。
「なに、敵が北から川を渡り始めただと!?」
「ハッ、数はおよそ6千!ハワード家の旗が翻っております!」
「ハワード……来たのは名将として名高いトラヴィスか?ならば、放置するわけにはいかねぇな……」
デニスはすぐさま4千5百の騎兵を信頼を置く部下に授け、急行させる。だが、これは参謀であるフェルナンドの仕組んだ狡猾な罠であった。
「ナターシャ、そろそろ良いんじゃないか?」
「ええ、4千を超える敵が本隊と離れ、ノーマン将軍率いる6千と交戦を始めました。フェルナンドの言う通り、今こそ好機。全軍に渡河を命じなさい!このまま数で押し切ります!」
そう。4千5百を北へ向かわせたことで、残る帝国軍はアマリア隊、ユリア隊とほぼ同数。これだけの合戦が行なわれていながら、ロベルティ王国軍は3万5千という数が戦わず、無傷のまま後方に控えていた。
それが、堤の堰を切ったかのように、一斉に前進を開始。まさしく津波の如き大軍がウルムクーナ川を埋め尽くし、渡河を済ませる。
総帥のナターシャ自らが先頭を突き進み、弓の弦を放れた矢のように敵陣へと食い込んでいく。
――その最中であった。弟の仇を見つけたのは。
第63話「枯木竜吟」はいかがでしたでしょうか?
今回はアルベルトがカイル率いる軍勢との戦いに臨んでましたが、絶望的な状況になったところへ、ナターシャ率いる大軍が到着!
デニス率いる帝国軍とナターシャ率いるロベルティ王国の戦いがどうなるのか、引き続き注目してもらえればと思います……!
ーー次回「不倶戴天の仇」
更新は3日後の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




