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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第3章 新たなる王国
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第62話 背水の陣

どうも、ヌマサンです!

今回はシドロフ王国での話になります!

はたして、ジェフリーの反乱に際して、シドロフ王国ではどんなことになるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

それでは、第62話「背水の陣」をお楽しみください!

 ナターシャたちが聖都コーテソミルを発ったのと同じ日。シドロフ王国軍は、デニス率いる帝国軍1万8千の到着に先んじて、ウルムクーナ川南岸に布陣することとなっていた。


 その指示は帝国軍の武将デニスからであり、先にウルムクーナ川を渡河させておけば自分たちも安全にウルムクーナ川を渡河することができる。それゆえに、『先鋒』という名目でデニスはシドロフ王カイルに役目を与えた。


「ラウル、帝国軍は3日後には王都パレイルに到着するらしい。ここは、指示通りにウルムクーナ川を渡河した上で、出迎えることにしようぜ」


「……そうだな。ここは全軍でウルムクーナ川へ向かうとしよう」


「決まった!アルセン!すぐに出陣だ!」


「おう!」


 カイルの言葉は光よりも早くアルセンの耳にまで届いたかのように、アルセンは返事をし、大きな足音を立てながら玉座の間を退出。即座に出陣の陣触れが行なわれた。


 こうして、朝に陣触れが出され、太陽が真上に来る頃にはシドロフ王カイル率いる6千は王都パレイルを出陣した。その出陣の様は、シドロフ王国の総力を結集したのが見て取れるほどの迫力があった。


「ラウル、お前は先にアルベルトのところに行って、共にウルムクーナ川を渡河するように伝えろ」


「分かった。それじゃあ、オレは先に行っているぞ」


 ラウルはカイルたち本隊よりも先に、数十の兵を連れてアルベルトの居城へと向かった。


 クレメンツ教国を滅ぼした後、シドロフ王国にはウルムクーナ川の北部に領地を加増されていた。その地の統治をアルセンの女婿であるアルベルトが担っていた。


 その際、アルベルトは正式に『ロメロ』の家名を名乗ることをアルセンから許され、今はアルベルト・ロメロと名乗っていた。


 そんなアルベルトに嫁いだのはラウルの姉、シュテフィ・ロメロ。ラウルとは1つ離れた姉にあたる。シュテフィは貴族の娘でありながら、幼少より農業に精を出す変わった娘であったため、父アルセンからは嫌われていた。


 もちろん、父であるアルセンから嫌われていることはシュテフィ自身も承知している。そのため、シュテフィも大の女好きで武闘派である父を激しく嫌っていた。


 アルベルトに嫁いだシュテフィはその後も農業に精を出していたが、農民上がりのアルベルトやクロエとは話があい、非情に親しく接していた。嫁に出され、シュテフィは初めて心から打ち解けられる『家族』を得たと感じていた。


 そうした家族関係はさておき、ラウルはアルベルトに面会を求め、国王カイルからの命令を伝えた。


「ラウル殿。申し訳ないが、ここでシドロフ王国とは袂を分かたせてもらう」


「あ、義兄上あにうえ、それはどういう……!」


 動揺しながらも、ラウルはアルベルトに詳しい説明を求めた。アルベルトとしても、説明不足のままで終わらせるつもりはない。ラウルからの要望に応え、理由を淡々と話し始める。


「第一に、カイル国王陛下が味方したジェフリーは王を僭称し、民を惑わす逆賊だ。それに味方する国王陛下もまた、逆賊といえる。第二に、今こちらに向かっている帝国の将軍デニスは、自分にとっては大恩人であるクライヴ殿を殺した張本人。恩人の仇に味方するなど、論外だ。以上の理由をもって、このアルベルトはシドロフ王国とは袂を分かつ!」


 声高らかに宣言したアルベルトを見たラウル。アルベルトの言語態度からして、相当な決意をもって述べたことは容易に理解できた。


 それでも、ラウルは姉の夫であるアルベルトを見殺しには出来なかった。今、カイルが率いている軍勢は6千。さらに、3日もすれば帝国軍1万8千が追いついてくる。


 今、このアルベルトの居城にいる兵の数は5百ほど。兵力差は四十数倍にもなるのだ。アルベルトの居城も、そこまでの兵力差があれば1日たりとも持ち応えられない。すなわち、犬死することだけは確かなのである。


「ラウル、今すぐここから立ち去りなさい」


「姉上……!姉上も義兄上あにうえと同じ考えなのですか!?」


「ええ。夫の恩人の仇の手先となるくらいならば、潔く城を枕に討ち死にした方がマシです」


「ラウル殿、シュテフィも、我が妹クロエも同意の上だ。すぐに、義父上ちちうえにもこのことを伝えてくれ」


 それ以上覚悟を決めた者たちにかける言葉は、ラウルには見つけられなかった。姉のシュテフィは農業に没頭してばかりであったが、弟のラウルには常に優しく接してくれた。


 ラウルも姉に影響され、細々とではあるが園芸を始めた。屋敷に仕える庭師と共に休日には庭の手入れをしたりもした。今は父に睨まれてしまい、まったくといっていいほど園芸はしていないが。


 ともあれ、ラウルは自分に影響を与え、優しさで包んでくれた姉の覚悟を受け入れざるを得なかった。


「姉上が育てた農作物。あの味を二度と味わうことはできないのか……」


 悲しげな表情を浮かべながら、ラウルは数十の兵と共にカイルの元へと戻る。そして、戻るなり、城主アルベルトとクロエ、実の姉のシュテフィの裏切りと、その覚悟を涙をこらえながら伝えた。


「おのれ、シュテフィ……!昔から出来の悪い娘だったが、まさかこれほどとはな……!」


「アルセン、実の娘と娘婿の命。助けることも可能だが、どうするよ?」


「ふん、生かしておく価値もない。速やかに討伐し、城ごと灰にしてやるまで」


「ま、そこまで言うならオレも止めるような事は言わねぇ」


 アルセンは怒りに拳も声も震わせていた。その怒りを帯びた言葉は、とても実の娘にかけるような言葉ではなく、聞いているラウルも悲しみで胸をえぐられる思いであった。


「全軍に告ぐ!ウルムクーナ川を渡河する前に、見せしめに我らに盾突いたアルベルトの立て籠もる城を叩き潰す!」


 カイルの声が全軍に響く。兵士たちは迫力ある声に、反射的に『おお!』と叫ぶ。だが、心中では、戦いたくないとも思っていた。


 カイルに率いられた軍の半数近くは、かつてクレメンツ教国へ遠征した際に、アルベルトの指揮下で戦った者たちなのである。アルベルトの人品、大将としての態度がいかなるものか、戦場での勇敢さなど、身に染みて理解している。


 なにより、アルベルトが遠征中、常に自分たち末端の兵士たちを気遣ってくれたことや、共に食事をしながら酒を飲んだこと、鮮明に思い出せる。その人と、自分たちは戦うのかと思うと、逃げ出したくなるほどであった。


 兵たちがそんなことを考えているなど、ラウル以外は想像すらせず、アルベルトの居城へと殺到した。鼠一匹逃れられぬような、包囲鉄環を形成する。


 それを見てもアルベルトと、麾下の将兵はひるまなかった。ここが死に場所と心得たものたちの覚悟など、今さら微塵も揺らぎはしない。


「シュテフィ、君には辛い思いをさせたまま死ぬことになる。すまない」


「いいえ、私も共に戦うと決めたのですから、悔やまないでください。それに、私にとっての家族は、あなたとクロエです。それに、家族の愛は2人が教えてくれました」


 普段の農作業用の服装ではなく、鎧兜を身に纏ったシュテフィは、同じく女性でありながら武将らしく甲冑を身に纏ったクロエと共にアルベルトの側にあった。


「さて、クロエ。お前も城から出ずに残ったか。まったく、こんな兄と共に死のうとは、最後まで手のかかる妹だ」


「ちょっと、兄さん。その言い方はないんじゃない?愛する妹と妻も居てくれるんだから、感謝してほしいくらいなんだけど!」


「ああ、いつも感謝してるさ。2人とも、こんな自分には過ぎた妻と妹だ」


 アルベルトは傍らに置いた兜を被ると、最後に賊将に物申すべく、城門の櫓へと歩み始めるのであった。

第62話「背水の陣」はいかがでしたでしょうか?

今回はアルベルトがカイルと決別し、妹のクロエと妻のシュテフィが志を同じくして城に残ってました。

そして、良くしてくれた姉と戦わなければならなくなったラウルの心中も複雑なものがありました……

はたして、カイル率いる軍勢に包囲され、アルベルトがどのような言葉を発するのか――

――次回「枯木竜吟」

更新は3日後、1/22(日)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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