第61話 兵は神速を貴ぶ
どうも、ヌマサンです!
今回も更新が遅れてしまい、申し訳ありません……!
今回はクライヴたちの死の一報が、ナターシャのもとに届けられます。
はたして、弟の死を受けてナターシャはどう動くのか……
それでは、第61話「兵は神速を貴ぶ」をお楽しみください!
――姉さん、姉さん!
「その声、クライヴですか?いつの間に聖都へ?」
「ついさっきさ。でも、もう行かなくちゃいけない」
「行く?どこへ――」
ナターシャがクライヴに行き先を問おうとした時。夢から醒めた。
その後の事だった。弟、クライヴの死が伝えられたのは。
――後日。ナターシャは聖都コーテソミルへと引き返してきたトラヴィスから大方の事情を聞いた。
そして、方々から集まってくる情報を集めつつ、いつでも出撃できるよう、支度を整えていっていく。
『一体、何の支度か』と問うまでもない。戦支度である。それも、王都テルクスへ向けるための。
「ナターシャ、実の弟君が亡くなられたことは……」
「ええ、知っています。今回の戦は仇討ちです」
「今、帝国と事を構えるのは避けた方がいいんじゃない?まだ統治して日も浅いこの地で兵を挙げるなんて……」
レティシアが渋い顔をするのを見ると、ナターシャはやはり反対するのかと分かっていたかのような顔つきで応じる。
「ですが、この戦は仇を討つだけではありません。一方的に従属を破棄し、我々の女王を王宮より追い出し、裏切り者を新たな王を据えるなど、不義の行ないです。不義は義をもって正さなくてはなりません。よって、兵を挙げるのです」
自身の戦は大義なきものではないとナターシャはレティシアに語る。すると、レティシアはフッと笑みをこぼした。
「ナターシャの言葉、ちゃんと聞かせてもらったよ。ね?みんな!」
「……やはり、その裏に隠れていましたか」
レティシアが部屋の外、扉の向こう側へと声を投げかけると、扉が勢いよく開かれる。ナターシャも気配で誰かがいることは分かっていた。殺意や敵意といったものは感じられなかったために、指摘することはなかっただけ。
そんな扉の向こうから姿を現したのは、フェルナンド、アーロン、レイラの3名であった。
「……ナターシャ、俺も遠征に同行するぞ」
「このアーロンも犬馬の労も惜しまず。喜んで協力させてもらおう」
「ふふん、内政官として、やれることはやらせてもらうからね。それに、話を聞いていたら、帝国完全に悪者じゃん!喜んで協力するから!なんでも言って!」
フェルナンド、アーロン、レイラ。3名とも文官であるが、ナターシャの話を聞き、協力を願い出てきた。
「もちろん、アタシも参謀として協力するからさ。だから、一緒にやろうよ」
「……ええ、そうですね。では、早速ですが、軍議を行なうとしましょうか。レイラはアマリアとユリアの2人を呼んできて――」
「オッケー!分かった!」
言葉を最後までいい終わるのを待たず、レイラは弾けるような笑顔と共に走り去っていった。ナターシャもレティシアたちと職務を行なっていくうちに、親睦が深まっていた。最初は名前の後ろに『殿』とか、『様』をつけていたのが、取れてしまうほどに。
「アーロンはトラヴィス殿に軍議のことを伝えたら、マルグリットのところへ。フェルナンドはすぐに南方のヴェルナー将軍のところに行って、この書状を渡してきてください」
「おう!」
「分かった」
明確な指示を受け、アーロンもフェルナンドも、それぞれやるべきことをすべく、ナターシャの執務室を次々と退出していく。
「レティシアは今ある武器や兵糧がどれくらいかを調べるよう、クレアに伝えておいてください。そうしている間に、軍議も始められるでしょうから」
「了解、ナターシャはどうするの?」
「これからプリスコット王とフォーセット王に宛てた書状を準備します」
「こんな短期間で書ける?」
「ええ、こういうことには慣れていますから」
ホントに短時間で書状が書けるのか、レティシアは疑うような表情をしていたが、ナターシャがやると言ったらやってしまうのは、仕事ぶりから分かっているため、それ以上は何も言わなかった。
そして、朝から騒がしく準備を進めていき、昼前には早くも軍議を始めることができていた。
軍議に参加したのは、総帥のナターシャと参謀のレティシアだけではない。アマリアとユリア、トラヴィス、ローラン、ノーマンといったロベルティ王国古参の将軍たちの姿もあった。
そんな軍議の場では、レティシアから明日には進軍を開始するという旨が話された。だが、物資の準備はレイラとクレアがサイモンとクラウスの手も借りて、今日中に終わらせる予定であることや、もう大半の準備が完了していることなどが明かされ、諸将もそれならば問題ないと追求しなかった。
その後は、進軍する行程の話となった。まずは、駈けに駈けてウルムクーナ川南岸まで一気に進む。敵が居なければ、一息に渡河してしまい、3国の王都や副都に繋がる分かれ道で軍勢を3手に分けることなど、詳細に決定された。
そこからは軍議らしく、諸将から様々な質問や意見が飛び交い、それをレティシアが詰まることなく返したり、少し悩みつつ返答したりした。その中で、当初の作戦が磨き上げられていき、最終的には申し分ない、完成度の高い作戦へと昇華された。
「レティシア、私が居ない間、聖都コーテソミルのことは復興共々任せます」
「うん、任された。大丈夫、後ろは私とヴェルナーがなんとかするから」
ナターシャからの指示を受けてフェルナンドが部屋を出ていった後、すぐにカルロッタ率いる帝国軍が南から侵攻してきたという知らせがヴェルナーから届けられた。
このすれ違いをナターシャは悔いていたが、レティシアが機転を利かせ、短く作戦内容をまとめたものをその場でしたため、追いかけてフェルナンドに渡すように素早く指示をとばして、埋め合わせを行なったという一件があった。
それはともかくとして、南の守りは基本的にヴェルナーに任せておけば問題ないとレティシアから言われ、旧クレメンツ教国領に残すのはレティシアとヴェルナーと、2万の兵のみ。
しかし、ナターシャからすれば頼もしい守護者が2人もいれば、後方に憂いはない。マルグリットの元に向かったアーロンには、問題がなければマルグリット率いるサランジェ族の戦士団と共にウルムクーナ川南で落ち合うこととなっている。
明日、ナターシャと共に北上する軍勢はナターシャ率いる5万5千。先鋒はアマリア・ルグラン率いる1万4千。副将にはユリアを付け、アマリアが先走ることのないよう、出発前に念を押してある。
それに続く形で、ナターシャは本隊2万2千を率いて北上し、その後をトラヴィスを大将とし、副将にはローラン、ノーマン親子を添えた1万9千が続くこととなっている。その中には物資の運搬を担当するクレアの姿もあった。
こうして、『約定を違えた帝国の不義を正す』という大義の下、5万5千の大軍は聖都コーテソミルを発った。その目的は行方知れずの女王を救出することと、王都テルクスの奪還である。
此度の遠征軍の兵士として徴収された旧クレメンツ教国の人々が元より帝国のことを激しく嫌っていたこと、ロベルティ王国を襲った悲劇を聞き、喜び勇んで軍に加わってくれた。
そんな士気の高い5万5千の大軍勢は、一日でも早く帝国軍と戦うべく、街道を猛然と北へ進んでいく。
クライヴたちが王宮で華々しい討ち死にを遂げてから、1ヶ月ほどが経った頃の話である。そして、この復讐に燃えるナターシャに率いられた大軍勢が通常ではあり得ない、疾風迅雷の速度をもって向かってきていることを、ジェフリーたちはまだ知らない――
第61話「兵は神速を貴ぶ」はいかがでしたでしょうか?
今回はナターシャがレティシアたちにも協力してもらい、北へ遠征を開始。
帝国の不義を正すことを大義名分に掲げ、かなりの数の兵士を集めることにも成功したわけですが、ここからのナターシャたちの反撃を楽しみにしていてもらえればと思います……!
――次回「背水の陣」
更新は3日後、1/19(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




