第58話 釜中の豆
どうも、ヌマサンです!
今回は本格的に帝国軍と王宮に籠もるクライヴたちの戦いが勃発します!
はたして、どのような戦いになるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第58話「釜中の豆」をお楽しみください!
「ジェフリーさんよ、今回は大儀であったな」
「そう言っていただけるとありがたい限り。ルドルフ陛下の手土産にするためにも、反逆者どもを一掃してしまいましょう」
ジェフリーは王都の西通りを騎乗して進みながら、隣で駒を並べている若い将軍と話をしていた。
ジェフリーの隣にいる青髪を七三分けにした青年。名をデニス・フレッチャーという。青髪で、家名が『フレッチャー』と聞けば、ある人物が思い浮かぶことだろう。
3年前、ロベルティ王国がフレーベル帝国に従属する前にまで遡る。8千の帝国軍を率いて王都テルクスまで進軍してきた将軍。その将軍の名はポール・フレッチャーであった。すなわち、このデニスという男はポールの実弟なのである。
兄がナターシャに殺されたという一報を聞き、ナターシャへの復讐の機を待ち望んでいた。そうして復讐の炎を燃やし続けて3年。ようやく仇を討つ機会に恵まれた。
デニスも兄と同じくスティーブ・エリオットの配下の将軍であったが、上司のスティーブの推挙により、今回のロベルティ王国侵攻の総大将に抜擢されたのだ。
そうして帝国が誇る2万7千の精鋭騎馬隊を率いて北上。途中で、ヴォードクラヌ領の中心部であるレシテラを経由し、ロベルティ王国へと到着したのであった。
さらに、デニスがわざわざヴォードクラヌ領を経由したのは、ヴォードクラヌ領主であるルイスにも出陣の命令を伝えに立ち寄ったのだ。もちろん、皇帝ルドルフからの勅命であるから、ルイスに拒否権はない。
よって、デニスがレシテラを発った3日後には、大軍を招集し、今は王都テルクスへ向かう際中である。その数、およそ1万8千。
こうして帝国軍の数はデニス率いる軍勢とルイス率いる軍勢を併せれば、4万5千という数となる。
クライヴたちもデニス率いる帝国軍の後には、さらにヴォードクラヌ領からも大軍が進発していることを知らない。だが、知ったとしてもクライヴやセルジュの覚悟は微塵も揺らぐことはないだろう。
「ジェフリー、先ほど残る2門から敵勢が撤収していくのを確認したと報告があった。現在、それぞれ各門から3千ずつ討ち入らせ、追撃に当たっているんだけどよ……」
「なるほど、モレーノとダレンめの部隊ですか。あの2人の部隊は併せても1千5百。王宮の部隊と合流されれば2千近い敵が王城に籠ることになるわけか……」
ジェフリーはデニスの言わんとしていることを薄々察した。追撃するだけでは、王城には半数近くは無事に到着してしまう。
「デニス将軍、この先の通りは王城の周囲をグルリと囲む形となっています。そこを騎兵3千ほどを全速力で進ませ、東通りを迅速に封鎖するのが良いのでは」
「なるほど、王城の門の前で食い止めるということか。王城から敵が打って出ると挟み撃ちになるが、たかだか5百が溢れたところで知れたもの。よし、ジェフリー。貴様の言う通りにしよう」
デニスは部下に命じて、騎兵3千を東へ進ませた。通りの道幅も舗装されているだけでなく、広く造られているため騎兵の進軍は迅速この上なかった。
裏切り者ジェフリーのいらぬ助言により、王城への道を封鎖されたモレーノ隊とダレン隊の1千5百は強行突破を開始し、後方から応援に駆け付けた6千の大軍に攻撃されながらも獅子奮迅、6倍近い敵に前後を挟まれながらも奮戦していた。
そのモレーノの采配ぶりには長年の戦で培った技量が遺憾なく発揮されていた。ダレンもモレーノの指揮下に入り、自らも父に初陣前に購入してもらった武骨なサーベルを振るって南東の門の攻め手を務めていた大将を乱戦の中で討ち取っていた。
無論、片眼の猛将モレーノも采配を振るうだけでなく、剣を片手に四角八面に暴れ回った。
「総勢!ここを突破し、なんとしても女王マリアナ様をお救いするのだ!」
モレーノの魂の籠もった言葉に、兵士たちも奮い立ち、死も恐れず敵に突っ込んでいく。
その頃、クライヴとセルジュたち4百が立て籠もる王宮でも、デニス率いる1万8千の大軍と交戦中。デニスは瞬きのうちにかたがつくと思っていたが、意外や意外、わずか4百ながら日が暮れるまで持ちこたえた。
攻撃開始が昼すぎであるから、5時間以上粘ったことになる。残り少ない矢もすべて撃ち尽くし、王宮内に備蓄されていた剣や槍も使い物にならなくなる頃には玉座の間を残すのみであり、生き残りはクライヴとセルジュの両名と片手で数えられる人数のみとなっていた。
デニスとジェフリーはこの頃になってようやく、王宮内の玉座の間に踏み入ることができていた。
「親父、それとクライヴ。よくここまで持ちこたえたな。それだけは褒めてやる」
「ジェフリー……」
「おのれ、ジェフリー。貴様の不出来は生まれた頃からであったが、まさかここまで頭も忠義の心も未熟であったとは私も知らなかったぞ」
クライヴは体中に受けた矢傷に苦しみながら、裏切り者の名を呼び、宰相セルジュは嘲笑いながら出来の悪い息子を睨みつけた。そのセルジュの視線に怒りを覚え、裏切り者は腰にある直剣に手をかけた。
金粉が散りばめられた鞘、黄金を散りばめた兜。こういった装備にもジェフリーの見栄っ張りな性格が表れていた。
ともあれ、ジェフリーが剣の柄に手をかけたのを見たデニスがそれを制する。
「ジェフリー、貴様の父の処分は任せたぜ。オレが用のあるのはそこの死にぞこないだ」
父の処分を任せると言われたジェフリーは残虐な笑みを浮かべ、足早にセルジュへと近づき、一刀のもとに斬り伏せた。
「フン、バカなヤツだ。命乞いでもすれば、助けてやったのに」
セルジュが物言わぬ死体となった後、ジェフリーが実の父親に対してかけた言葉はそれであった。
「ジェフリー!貴様、裏切っただけでなく、実の父親まで手にかけるとは……!」
「フン、クライヴ。マリアナ様は私が守ってやる。だから、安心して死ぬと良い」
そうジェフリーが言葉をかけ終えるなり、雷を纏った一撃がクライヴへと振り下ろされる。クライヴもとっさに横へ飛び退き、回避に成功した。しかし、鎧の胸部には一文字の傷が刻まれる。
「おうおう、オレのことを忘れてもらっては困るぜ。貴様は我が兄の仇、ナターシャ・ランドレスの弟だろう?あいつにも、血を分けた家族を奪われる悲しみ、あの戦姫にも思い知らせてやる……!」
デニスの持つ直長剣には、雷魔紋の発動によって纏っている雷だけでなく、復讐の執念が纏わりついているかのよう。
クライヴもデニスが兄をナターシャに殺された仇に燃えている事だけは分かったが、それ以上の事は分からずじまいであった。そして、ここでクライヴが最優先すべきは最後の抵抗をすることのみ。
クライヴもまた、腰に佩いている剣を抜き払い、デニスとの戦いに臨む。クライヴの剣には冷気が纏われるが、その冷気はキラキラと生命の輝きを放っていた。
「オレはデニス。デニス・フレッチャー!3年前に討たれたポール・フレッチャーの弟だ!」
「そうか、あの時の帝国軍の将軍の弟か。今、思い出したよ。でも、僕だって『漆黒の戦姫』の弟だ。そうやすやすとやられるわけには……いかない!」
「けっ、安心しろよ。テメェの姉貴もすぐに後を追わせてやっからよ!」
――ロベルティ王城の玉座の間にて、兄の仇討ちに燃えるデニスと、ナターシャの弟であるクライヴの最後の一騎打ちが始まった。
第58話「釜中の豆」はいかがでしたでしょうか?
今回はついにセルジュがジェフリーに討ち取られるという結果に……
王城の外ではモレーノとダレンも奮戦していますが、はたして突破できるのか……!
そして、クライヴとデニスの一騎打ちがどのような結末を迎えるのか――
――次回「有終の美を飾る」
更新は3日後、1/10(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




