表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第3章 新たなる王国
54/187

第54話 獅子身中の虫

どうも、ヌマサンです!

今回はクレメンツ教国を平らげたことを、帝国へ報告するという話になります!

その使者を任されたのが誰なのかというところから注目していてもらえればと思います……!

それでは、第54話「獅子身中の虫」をお楽しみください!

 クレメンツ教国滅亡から1ヶ月。ロベルティ王国は様々な事後処理に追われていた。主に、旧クレメンツ教国の中でも激戦地となった聖都コーテソミルの復興。


 それだけでなく、国民たちにロベルティ王国を侵略者としてではなく、新たな支配者として、同じロベルティ王国の国民として認識してもらう必要もある。


 だが、この旧クレメンツ教国の支配権が新たな争いの火種となるなど、この時、一体誰に予想がついたであろうか。


 聖都コーテソミル制圧の一報を王宮にて受けたマリアナは帝国へとこの旨を伝えるべく使者を派遣した。その使者として選ばれたのは、外交を担当するクライヴ――ではなく、王宮の守備を担っていたジェフリーであった。


 これには、宰相セルジュの『息子にも大きな仕事を任せたい』という親心から来ている。クライヴもセルジュからそう言われてしまっては、突っぱねるわけにもいかなかった。


 こうしてジェフリーは帝国へ諸々の報告を行なうべく、帝都フランユレールへと発った。その間のジェフリーの職務である王宮の守備の任務は別の者が配置された。


「……ふん、王宮の守りを他の、それも下賤な輩に任せなければならないとはな」


 帝国への報告となれば大した職務ではなさそうだが、これもまた大仕事である。ジェフリーはそのことを理解していなかったが、それだけではない。


 この仕事は父セルジュなりの我が子へ大仕事を任せたいという気持ちがこめられているということにも、まるで気づいていなかった。


 ジェフリーは自宅に集めた芸術品をワイン片手に眺めることが趣味であるが、帝都フランユレールに赴いている間は芸術品を眺めることもできなければ、まったりと1人でくつろぎながらワインを飲むことも叶わない。


 ジェフリーが王都テルクスを出立した時には小さな不満でしかなかった《《それ》》は、日を追うごとに大きくなっていく。さらに、自分にこの仕事を押し付けたクライヴへの憎しみも同時に肥大化させていった。


 その憎しみの矛先は帝都に到着する頃には、クライヴだけに留まらず、自らの父親を始めとしたマリアナの近くにいる者たちすべてが対象となっていた。


「私はマリアナ陛下から王宮の守備を任せられているのはありがたい。が、マリアナ様と接する機会が血統の劣る佞臣どもより少ないのは我慢ならん……!」


 ジェフリー・ルグラン。彼こそ代々宰相を輩出してきたルグラン家という名門の直系であり、彼の身体を流れる血の半分は王家のもの。それゆえに、誰よりも己の血統に誇りを持っていた。


 その誇りも、今では他人を見下す道具に成り下がっていることにジェフリーは気づいていなかった。


 それに、彼の母親であるアリソンも王族であることを鼻にかける風があるので、そういう似なくても良い面が似てしまった事そのものが悲劇なのかもしれない。ともあれ、ジェフリーは憤懣やるかたない気持ちと共に1ヶ月かけて帝都フランユレールへ到着。


 皇帝ルドルフへの謁見は3日後ということもあり、ジェフリーは到着初日は従者に指定したワインを買いに行かせ、夜になるまで帝都の美術館で過ごした。


 それからの2日間は日中は美術館で絵画や芸術品を鑑賞して過ごし、夜はワインを飲み続けるという生活を送った。そうして訪れた皇帝との面会当日。


「ロベルティ王国よりの使者、ジェフリー・ルグランと申します」


「うむ、ジェフリー殿。遠いところ、よくぞ参られた」


 その日の皇帝ルドルフはたいそう機嫌が良かった。ロベルティ王国を中心とした4カ国連合軍が聖都コーテソミルを陥落させ、クレメンツ教国を滅亡させた一報を耳にしたからである。


 もちろん、その陥落の報告をジェフリーは最初に済ませた。だが、次の報告内容で謁見の間の空気は凍り付く。


「……何?旧クレメンツ教国の領土はロベルティ王国に加えるじゃと?」


「もちろん、他の3国にも褒賞として北部の地を一部割譲は致しますが、それ以外は主力として戦った我々への恩賞として……」


 ジェフリーの言葉は途中で止まった。なにせ、目の前にいる皇帝から怒りの感情が感じられたからである。表情だけでなく、皇帝の周囲の空気まで怒りの色に染め上げられていた。


「ジェフリーとやら。その報告内容はロベルティ王国の総意とみて構わぬか?」


「……はい、そう取っていただいて構いません。ですが、ここからは私の独断になりますが、よろしいでしょうか?」


「独断じゃと?まあ良い、聞くだけならば聞いてやろうぞ」


「では、人払いをお願いしたく……」


「人払いせよ」


 ルドルフは怒りを声に纏わせながらも、ジェフリーからの人払いしてほしいという要望を聞き、一人残らず謁見の間から退出させた。


「さて、人払いは済ませたぞ。じゃが、こうまでせねば話せないことかと思うと、思わず期待してしまうのぅ?」


「ええ、期待してくださって構いません」


 ジェフリーはニヤリと何かを企んでいる笑みを浮かべた。それはさながら、悪だくみを思いついた子供のよう。そして、ジェフリーは心中に秘した一計を皇帝ルドルフに献じた。


 さすがのルドルフもこれには迷うかに見えたが、即断即決。「面白い、やってみよ」――そう答えたのみであった。


 ジェフリーは勇躍して謁見の間を後にした。その後、謁見の間に戻って来た側近たちに、ジェフリーと何を話したのかを聞かれたルドルフはこう答えた。


 ――近いうちに北部はすべて我が物となるじゃろう……と。


 また、ジェフリーについては、野心に満ちた小賢しい無能だと酷評しつつも、使い勝手の良い駒を得た。ルドルフはそう思っていた。


 対するジェフリーは、これほど強力な後ろ盾があれば、我が事為れりと早くも成就したも同然だと喜んでいたのか。


 帝都でルドルフとジェフリーが面会し、水面下で何かが行なわれている。そんなこととは露知らず、本国のクライヴ、聖都コーテソミルにいるナターシャは日々の職務に忙殺されていくのであった。


 そして、後日。帝国からは此度のクレメンツ教国遠征の褒美として、ウルムクーナ川北部を東、中央、西に3等分し、それぞれプリスコット王国、シドロフ王国、フォーセット王国へと与えられた。これにより、領土が倍近くにまで拡大した3国は歓喜に震えた。


 さらに、4カ国連合の中で中核を成したロベルティ王国には、帝国の南境であるヘキラトゥス山地から、ウルムクーナ川より南の広大で、肥沃な土地がごっそり恩賞として与えられたのである。


 ただし、聖都コーテソミルの復興大使として、ナターシャ・ランドレスを留め置くことも帝国からの文書には記されていた。すなわち、クレメンツ教国側の統治は実質的にナターシャに委ねられたということになる。


 だが、ナターシャはマリアナからも自分の代わりによく治めるようにというお達しがあったこともあり、レティシアやフェルナンド、アーロンといった賢才と共に領地を治めることに精を出した。


 また、マルグリットが族長を務めるサランジェ族は教会により追いやられていた地を中心として、一国に匹敵するだけの広大な土地を領地として与えられ、その地はロベルティ王国サランジェ領という扱いを受けることとなった。領主はもちろん、族長のマルグリットである。


 さらに、南部のヘキラトゥス山地周辺の土地はクレメンツ教国の時より守りについていたヴェルナー・タンデルへ与えられ、ロベルティ王国タンデル領として正式に認可された。


 こうして、ナターシャは故郷より遠く離れた地で、まだ慣れない領主としての責務を果たすべく、奔走していくこととなる。

第54話「獅子身中の虫」はいかがでしたでしょうか?

今回はジェフリーが使者として帝都フランユレールへ行っていたわけですが、何やら企んでいる様子でした……

はたして、ジェフリーがルドルフに提案した内容が何だったのか。

それについては、次回以降も注目していてもらえればと思います……!

――次回「レティシアの盟友たち」

更新は3日後、12/29(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ