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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第3章 新たなる王国
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第52話 佚を以て労を待つ

どうも、ヌマサンです!

今回は聖都コーテソミルを包囲したロベルティ王国軍がどう動くのか、注目していてもらえればと思います……!

はたして、レティシアから提案された策とは一体どのようなものなのか。

それでは、第52話「佚を以て労を待つ」をお楽しみください!

 翌朝よりレティシアの献策が用いられた。その内容とはすなわち、夜討ち朝駆けのフリをする。それにより、立て籠もっている敵を眠らせないという策であった。


 籠城しているクレメンツ教国側は夜になるたびに聖都コーテソミルの外から鬨の声が上がり、夜が明けるとなればどこからともなく矢の雨が降る。


 そのような城方を眠らせまいとする攻め方に聖堂騎士団は10日の間に一睡もできず、昼間の合戦でも眠い目をこすって戦っているような状況になりつつあった。


「ナターシャ殿、ここは聖都コーテソミルを囲むように砦を築こう。そうすれば、こちらが長期戦の備えがあることを知らしめることにもなるはずだよ」


「……そうしましょう。あと4日もすれば夜討ち朝駆けのフリをする作戦も、毎日ではなく、あえて不定期にするとしましょうか」


「うん、それはいいかもね。敵も眠ることがさらに難しくなるだろうし」


 ナターシャはレティシアと楽し気に城攻めの作戦を練っていた。しかし、新参者のレティシアが何かと策を講じていることをロベルティ王国譜代の者たちはあまり快く思っていなかった。


「クレア、お姉さまはあのレティシアとかいう女ばかり重用している。ボクたちはまるでいない者のように扱われるのは我慢できない」


「まあ……ね。アタシもよくは思っていないけど、あのレティシアの作戦は大成功していて、敵も眠そうにしているから……」


 アマリアは敬愛するナターシャがレティシアにばかりかまけているのが気に入らなった。それをクレアもなだめこそするが、複雑な心境であることに変わりはない。


「申し上げます!ノーマン将軍が無断で夜襲を決行!兵6百を率いて、聖都コーテソミルへ攻撃を開始なされました!」


 伝令が本陣に駆け込んできたかと思えば、この一報。ナターシャはノーマンが手柄に焦っているのは分かっていたため、いずれこうなる予感はしていた。しかし、思っていたよりも早く起こってしまった。


「アマリア、クレア。お願いできますか」


「……ノーマンとともに西門を奪取してきます!」


 アマリアは苛立ちを満面に描きながら、本陣を飛び出していく。ナターシャはクレアにアマリアが無茶をしないよう止めることを申しつけ、急ぎ後を追わせた。


「ナターシャ殿。アタシ、嫌われてるみたいだね」


「そのようです」


「そ、そこは否定してほしかったんだけど……」


「否定してもどうにもなりませんから。それに、アマリアの性分は駄々っ子のようなものです。駄々をこねる妹だと思って、見守ってやってください」


 ナターシャは優しくレティシアに微笑みかけ、レティシアもそれ以上は何も言わなかった。


 その後、ノーマンの抜け駆けは結果としては大勝利に終わり、聖都コーテソミルの西門を陥落させ、奪取することに成功した。とはいえ、これについては後から突入したアマリアとクレアの両名の部隊の加勢があったことも大きかった。


 ともあれ、4カ国連合軍によって西門を破られ、聖都コーテソミルへ侵入されたことを教皇パトリックも驚き、嘆いていた。


 だが、嘆くだけであり、具体的な対処を施すことはなかった。さらには、大聖堂に籠り、神に助けを乞うのみで、何もしようとしない。


 これには同じ神に仕える聖堂騎士たちからも呆れて見限る者が出始めた。この状況を利用し、レティシアはかつての知り合いたちに書状を送り、投降を呼びかけた。


 結果として、かつてレティシアの父である先代教皇に仕えていた者たちが東門と北門を開き、連合軍を招き入れるに至った。


「アーロン!フェルナンド!」


「レティシア様!ずっとお会いしたかった……!」


 内側から開かれた北門では主従の感動的な再会が行なわれていた。北門の守備を受け持っていたのはレティシアの父が教皇だった頃、外交を担当して大いに才を発揮していたアーロン・カーシュナー。


 そして、その傍らには鎧姿で長槍を提げた若者が突っ立っていた。その青年はフェルナンド・カーシュナーと言い、アーロンの嫡男である。


 また、フェルナンドは軍法戦術についての才があり、かつてはレティシアに師事していた者である。すなわち、レティシアとフェルナンドの再会は師弟の再会とも言える。


「アーロン、再会早々で悪いんだけど、頼みたいことがあるんだ……?」


「……レティシア様の無茶には慣れている。気にせず、何でも言ってくれ……」


 『再会早々これか……』とでも言いたげな表情をするアーロンであったが、レティシアからの頼みとやらを聞くと、馬を借りて南へと向かっていった。


「レティシア殿、アーロン殿には何を依頼したのですか?」


「うん?まあ、友達に伝言だよ。たぶん、今後の動きについて迷ってるだろうから、アタシから助言を……ね」


 明らかに何かを企んでいるレティシアの表情に、ナターシャはクスリと笑みをこぼした。


「そうだ、ナターシャ殿。こっちの槍を持っているのが……」


「フェルナンド・カーシュナーだ。初めまして」


「こちらこそ初めましてですね。私がロベルティ王国軍の総帥を務めている、ナターシャ・ランドレスです」


 ナターシャとフェルナンドは水が高いところから低いところに流れるのと同じくらい、自然な流れで自己紹介を済ませ、握手した。


 そんなレティシアがいないかのような扱いに、レティシアは頬を膨らませていた。それをフェルナンドが無表情のままで謝る。


 そこからの師弟のやり取りをしばらく見守った後、ナターシャはフェルナンドを伴って本陣へと帰還した。


「ナターシャ様。このたびは我々の降伏を受け入れていただき、ありがとうございます。そのお礼と言ってはなんですが……」


 フェルナンドは懐から何やら巻物を取り出し、本陣の真ん中に置かれた木製の長机の上に広げる。そこには聖都コーテソミルの地図が描かれている。


「フェルナンド殿といったか。この地図は?」


「これは見ての通り、聖都コーテソミルの絵図だ。見てほしいのはここだ。この通路を抜けていけば、大聖堂の真横に出ることができる」


 フェルナンドの指差す方を見つめるのはトラヴィス。トラヴィスは新参者のフェルナンドを疑っている様子だが、当のフェルナンドは気にする様子もなく、淡々と説明を続ける。


「つまり、ここから少数の手練れが侵入し、大聖堂に進める門を開ける……という感じだ」


 今現在、ナターシャたちのいる場所から教皇パトリックのいる大聖堂へ向かうには、分厚い金属製の扉でふさがれた大門を抜けていかなければならない。


 だが、フェルナンドの言う通路を通れば、内側から門を開けて犠牲を最小限にとどめることができる。


 そんなフェルナンドの策を採用することに決まったが、問題は次である。一体、誰が通路を通って、敵の只中に入るのかということだ。


「拙者が参ろう」


 そう言って口を開いたのは、先に抜け駆けを働いたノーマンその人であった。だが、彼の父親ローランが彼の脳天に鉄拳を叩き込む。


「親父殿、な、何をする!?」


「この阿呆が!抜け駆けを働いておきながら、なんのつもりだ!ちょっとこっちに来やがれ!」


 ノーマンは怒れるローランに引きずられながら、本陣の外へと姿を消していった。本陣ではそんなノーマンが連行されていく様を見て、しばしの間笑いに包まれていた。


 ともあれ、通路を抜けていく役回りはアマリアとなり、案内役としてフェルナンド自身も同行するということで決定。連れていく兵士はアマリアと同じく志願した精鋭80名。


 アマリア率いる80名の勇士とフェルナンドによる、通路を抜けて内側から門を開ける作戦は翌朝に早々と決行することとなったのであった。

第52話「佚を以て労を待つ」はいかがでしたでしょうか?

今回はあちこちの門が開かれ、聖都コーテソミルへと入ることができてました。

はたして、次なるフェルナンドの策が成功するのか、引き続き見守ってもらえればと思います……!

――次回「一挙両得」

更新は3日後、12/23(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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