第45話 鼓腹撃壌
どうも、ヌマサンです!
今日は更新が遅れてしまい申し訳ない……!
今回の話はナターシャとシャノンの母娘回です!
一体、母と娘でどんな話になるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!
それでは、第45話「鼓腹撃壌」をお楽しみください!
「母上、ナターシャです」
「入りなさい」
ナターシャがノックと共に部屋に入ると、部屋の中で剣を磨く1人の女性の姿があった。朝一番の日に顔を横から照らされ、それはさながら彫刻のよう。
娘と同じく腰元にまで届く長い黒髪と長い手足。齢四十を超えているとは思えないほどの美貌に、娘であってもついつい見惚れてしまう。娘でも見惚れてしまうのだ、今は亡き父も見惚れぬはずがない。
そんな母娘の再会の部隊は母シャノンの部屋にて。ロベルティ王国の再興して以来、屋敷に引きこもったまま出てこない母を心配して顔を見に来た。それが本日のナターシャの用向きであった。
「母上、またイレーネ様のことをお考えになっていたのですか?」
「ええ」
「そのように過去ばかり顧みていても、前には進みません。母上には是非とも、再び王宮へ出仕していただけませんか?」
「お断りします」
シャノンは王国から再三仕官の誘いを受けていた。しかし、頑としてシャノンは王国に仕えようとしなかった。無論、ナターシャやクライヴもシャノンを引っ張り出そうとしたが、2年が経った今でも成果は上がっていない。
「私はイレーネ様にお仕えしていました。今後もそれは変わりません。あのお方が亡くなった以上、私は喪に服すのみです。誘いに来ただけなら悪いことは言いません。帰りなさい」
ここへ来てようやくシャノンはナターシャの顔を見た。シャノンの瞳に映るナターシャの表情はどこか悲しげで、さびしそうなのである。それには思わず剣を磨く手も止まる。
「ナターシャ、何かあったのですか?」
「……ありました」
「それはどのような?」
「夢を見ました。カルメロ様とセリーヌ様の」
カルメロとセリーヌ。その名はシャノンも知らぬわけではない。むしろ、イレーネの側に仕えていた頃、何度も顔を合わせ、会話をしたこともある。
「懐かしい名を聞きました。そういえば、ナターシャはカルメロ様の下で近衛兵長をしていたのでしたね」
「はい。それで、夢で昔カルメロ様がおっしゃっていたことを思い出しました」
「一体、なんと言っていたのか、聞いても構いませんか?」
ナターシャは夢の中での出来事を母に語った。シャノンも娘の言うことに何も言わず、静かに耳を傾けた。
「ですから、私はなんとしてもあの方の、カルメロ様のおっしゃっていた、平和な世を築き上げたいのです。そして、みんなが私たちのように愛する人を亡くすことのない世界を……!」
「あなた、もしやカルメロ様のことを……。いいえ、今は関係ないことでしたか」
シャノンはそう独り言ちるとすっくと立ちあがり、ナターシャと正面から向き合った。彼女を突き動かしたのは、ナターシャのカルメロへの恋慕と忠誠心が通じたからであろう。
「良いでしょう。あなたの想いは十分に伝わりました。ここは母親として、一肌脱ぐとしましょう」
「……ッ、母上!では……!?」
「ええ、再び王国に仕官するとします。ですが、1つ。1つだけ条件があります」
母の言葉に喜ぶ娘を制し、シャノンは条件を付けくわえると明言。一体、条件とはどのようなものなのか。そして、母の言葉を一言一句とて聞き漏らすまいと耳を澄ます。
「私と剣術で勝負なさい。それで勝つことができれば、この母も再び仕官することと致しましょう」
思いがけぬシャノンからの剣術での勝負。ナターシャに初めて剣術を教えたのは、かくいうシャノンなのである。すなわち、この勝負は師弟対決とも言える。
「分かりました。そうと決まれば、全力で勝たせてもらいます」
「それはこちらのセリフですよ?ナターシャ」
シャノンはナターシャが部屋にやってくるまで磨いていた剣を一度鞘に収め、中庭へとナターシャを誘った。ナターシャも鎧は来ていないものの、愛剣である魔剣ヴィントシュティレを片手にシャノンの後ろに続いた。
中庭に着くと、一度両者は間合いを取った。互いに5歩ほど前に出れば、剣を構えた時に刀身が触れるほどの距離。
シャノンは鞘から長剣を引き抜き、虚空を斬った。それでもって、シャノンの方の準備は完了した。ナターシャもその頃には準備を完了させており、後は開始を待つのみであった。
この試合において真剣を用いる以上、お互いが死なない程度に戦う。互いに急所に突き技、斬り技を滑り込ませた方の勝ちとなる。寸止めが前提の戦いとなれば、互いに剣術の技量が高くなければ不可能である。
すなわち、互いに真剣での勝負というだけでも、お互いに剣術の技量が高いことの証明ともなるのだ。ともあれ、小鳥が木の枝から飛び立ったのを合図に、シャノンとナターシャの師弟対決の幕は上がった。
先に動いたのはシャノンの方であった。こればかりは、ナターシャの意表を突くものであった。長剣と共に素早く間合いを詰め、シャノンは瞬きの間に3連撃を見舞った。
しかし、いくら意表を突かれようとも、ナターシャにとってはさしたることではない。ナターシャは微塵も動じることなく、シャノンの三連撃をやすやすと跳ね除けて見せる。
シャノンは前よりも腕前をあげたナターシャに感心しつつも、これならどうかと試すように次々と技を叩き込む。だが、ナターシャも母の技を簡単にいなしていく。
最初は互いの技量を推しはかるように剣術の応酬となったが、この序盤の駆け引きだけでも並みの剣士であれば、ズタズタに切り刻まれている頃合いであろう。
そうした女剣士同士の勝負は互いの実力を推し量った後、さらなる激しさを増した。ナターシャが先んじて大上段からの一撃を叩き込み、シャノンもその一撃に身が沈む。
お返しとばかりに放つ逆袈裟に斬撃を放つシャノン。これをナターシャは一歩後ろに下がり、これを回避。
回避するなりナターシャもあらゆる角度から斬撃を見舞う。さりとて、シャノンもひとかどの剣士である。この程度の斬撃ではかすり傷1つつかない。
その後も斬り合いは激しさを増し、接近して何十合と斬り結んでは離れ、離れては肉薄しての斬り合い。これの繰り返しであった。
勝負の最中、両者は幾度となく立ち位置を縦横無尽に入れ替え、あらゆる角度、あらゆる体勢から斬撃を放つ。基本的には両者の剣術は攻めであった。攻めに対して守るのではなく、攻めの一手には攻めの一手で酬い、相殺してしまうのである。
――だが、そんな激しい斬り合いは長くは続かなかった。
「母上、これにて仕舞いとしましょう」
シャノンの首筋にはナターシャ愛用の漆黒の魔剣が迫っていた。剣と首の間には紙一枚挟めるほどの隙間が空いている。逆にこれほどの隙間を開けての寸止めほど難しいことはない。
さらには、その状態をしばらく保っているのであるから、見事というほかない。
「……参りました。母の負けです。ナターシャ、腕を上げましたね」
「はい。剣の修行を怠ったことなど一日とて有りませんから」
「それなら良いのです。それはそうと、約束通り王国へ出仕するとしましょう」
シャノンの返答を聞き、ナターシャは静かに剣を鞘に収める。シャノンも速やかに剣を引いた後、母娘で馬を並べてロベルティ王国の王城へと向かったのであった。
シャノンが王城に入るのは実に1年半ぶりとなる。久々の王城の空気に触れながら、シャノンは玉座の間まで進み、マリアナに拝謁。
その際にはマリアナも大層喜び、シャノンの手を自ら取りに行くほどであった。かくして、シャノン・ランドレスはロベルティ王国軍の剣術指南役として、改めて王国に召し抱えられることとなったのであった。
第45話「鼓腹撃壌」はいかがでしたでしょうか?
ナターシャの想いを受けて、シャノンも再びロベルティ王国に仕えることに!
剣術指南役としてシャノンは登用されたわけですが、成果は上がるのか……!
ともあれ、次回の話で第2章は完結になります!
――次回「『母親』」
更新は3日後、12/2(金)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




