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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第2章 帝国への従属
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第44話 在りし日の思い出と決意

どうも、ヌマサンです!

今回はナターシャの回想になります!

また、久々にカルメロも登場するので、楽しんでもらえればと思います!

それでは、第44話「在りし日の思い出と決意」をお楽しみください!

「カルメロ様!」


「やあ、ナターシャか」


 剣術の稽古が一段落し、紫色の髪からも滴る汗を清潔な布で拭き取っている頃。近衛兵長のナターシャが鎧を身に纏い、漆黒の剣を引っ提げて現れた。


「近衛兵たちの腕前の方はいかがですか?」


「ああ、さすがナターシャが稽古をつけているだけあって、なかなか腕が立つな」


 カルメロはナターシャ率いる近衛兵5名と剣術の試合を行なった。どの者も近衛兵たちの中でも選りすぐりの精鋭であった。そんなものたちの試合を他の者たちも見て、学ぶという稽古が先ほどまで行われていた。


 そんな者たちと5連戦したこともあり、剣の腕に覚えのあるカルメロでも大粒の汗を流すほどに疲れていた。


 カルメロはナターシャと話す中で、誰が一番手強かったか、誰々はこの時に隙ができているなど、剣術の話をした。ナターシャもそれを本人たちにも伝えるべく、一言たりとも聞き逃すまいと耳を傾ける。


「そうだ、ナターシャ。また非番の時にでも、マリアナの相手をしてやってくれ」


「マリアナ様のですか?遊びの相手なら、お付きの者がいるのでは……」


「最近は私のマネでもしているのか、木刀で素振りをしたりしているらしい。さすがに侍女たちでは相手できんだろう?」


「た、確かに……」


 侍女たちは剣を振ったりすることなどないため、マリアナが剣を手にしているのを見かけても、教えたりすることも一緒に剣を振ったりすることもできないのだ。そう聞けば、ナターシャも納得するよりほかなかった。


「そうだ、ナターシャ。この後、時間はあるか?」


「はい、特に今日は仕事もありませんから」


「よし、ならば付いてきて欲しいところがある」


 カルメロは一通り汗をふき終えると、馬小屋へと向かい、騎乗した。ナターシャも愛馬である黒馬を引き出し、跨る。


 そのままカルメロは行き先も告げず、さらには供回りも連れずに馬を走らせ始める。ナターシャは一体どこに行くつもりなのかと頭に疑問符を浮かべながらも後に続いた。


「あの!カルメロ様、一体どこへ向かわれているのですか!?」


「すまない、行き先をまだ行ってなかったか!だが、じきに分かるさ!ほら!」


 駒を並べてかけていく2人。馬上での会話ということもあり、いつもよりも声を少し張り上げている。だが、カルメロが言う通り、目的地はすぐに分かった。すなわち、カルメロが鞭で指し示す方を見やれば、王都テルクス郊外にある墓地が見えたのである。


「ここは……」


「そうだ。セリーヌの墓だ。今日は彼女の命日だ」


 セリーヌ。その名前を聞き、ナターシャは懐かしさを覚えた。同時に、最後に会ったのは8年前の今日であったことも思い出した。


「今日はセリーヌ様の命日でしたね」


「フフッ、日々の仕事に忙殺されて命日のことを忘れるとはな」


「申し訳ありません、カルメロ様」


「いや、気にするな。別に、命日を忘れたからと言って、セリーヌのことを忘れてしまったわけではないからな」


 カルメロとナターシャは平板上におかれた墓石の前で一礼し、片膝をつく。ありし日を思い返しながら。


 セリーヌはカルメロの妻であり、マリアナの母親である。セリーヌは娘であるマリアナを生んだ直後に亡くなった。元々病弱だったこともあり、出産で体にかかった負荷が大きく、耐えられなかったのだ。


 つまり、マリアナの生まれた日はセリーヌの命日でもあるのだ。そのような重い話はマリアナには今でも伝えられていない。カルメロは母親は遠くで病気と闘っているということにして、ごまかし続けている。


「さすがに、娘に嘘をつき続けるのは辛くなってきた。時折、マリアナから言われることがある『母上はいつ帰ってくるの?』……とな」


「カルメロ様はいつもなんとお答えに?」


「ああ、イイ子にしていれば早く帰ってくるよ……とな。だからか、あの子は年不相応に大人びた子になってしまったのかもしれないな」


 そう、マリアナはイイ子にしていることで母が早く帰ってくると信じている。だからこそ、大人びた言語態度を身につけたのだろう。事実はどうあれ、カルメロにはそう思えてならなかった。


 はたして、そんなカルメロが嘘をついたことが善か悪か。ナターシャには到底判断できることではない。ただ、カルメロが良かれと思ってついた嘘なのは間違いないのだ。


 そう思いながらカルメロのセリーヌとの思い出話に付き合った。ナターシャはその話を聞くたびに、自分の知らないカルメロの一面を知るセリーヌが羨ましいと思ってしまう。


 そして、ナターシャはそんな自分が大嫌いだ。セリーヌがいなくなったことで、自分にもチャンスが生まれた。どこかでそう思ってしまっていることに他ならないからだ。


 ナターシャも13年前にセリーヌがセミュラ王国から嫁いできた時のことは今でも鮮明に覚えている。その時、カルメロは14歳、セリーヌは15歳。かくいうナターシャは9歳であった。


 両国の関係を強化するための政略結婚であったが、カルメロとセリーヌは本心からお互いのことを好いていた。だからこそ、カルメロもセリーヌの死から立ち直ることにかなりの時間を要した。


「まあ、今でもセリーヌの死を吹っ切れたわけではない。いつか、またどこかで巡り会いたいと毎日のように思ってしまう。フッ、私のことを愚かだと思うか?」


「いいえ、愛する人を思う気持ちは美しく尊いものです。それを愚かだといって、ないがしろにすることはなりません。決して」


 ナターシャは熱のこもった言葉をカルメロへと投げかける。その言葉を聞き、カルメロはどこかホッとするような気持ちになり、胸の辺りが何やら温かく満たされるのを感じた。


「カルメロ様、いつかマリアナ様とここに来られる日が来るといいですね」


「ああ、この手で大陸を統一し、平和な世の中となった暁には、必ず。その時には、セミュラ王国の跡地も巡ってみたい。ヴォードクラヌ王国に滅ぼされてしまい、もう城も残っていないそうだがな」


 空を見上げながら発した言葉は、雲一つない晴天に吸い込まれるように消えていった。


 まさか、3か月後にはセリーヌの祖国を滅ぼしたヴォードクラヌ王国にロベルティ王国も滅ぼされ、自身も王都の広場で処刑されることになるとは、この時は夢にも思わなかった。


 カルメロは嘘を墓場まで持っていく形となったが、結局マリアナと共にセリーヌと墓参りをすることも叶わなかったのである。


 ――そんな在りし日の夢を見、ナターシャは目が覚めた。


「カルメロ様……」


 ベッドからゆっくりと起き上がり、今も愛してやまない人の名を口にする。その愛したひとも、愛した人が最も愛した女性ひともこの世にはいない。


 そんな世界を今日も生きねばならない。そう思えば、辛いだけかもしれない。しかし、今は亡き2人が遺していった少女がまだ健在である。


 彼女を守るために自分は一体何ができるのか。そして、カルメロの願った平和な世を築くためにはどうすればよいのか。


 目覚めるなり、様々なことが脳内を駆け巡る。それらを一度横に置き、ナターシャは寝間着から軍服へと着替え、朝の用意を済ませる。


「カルメロ様、セリーヌ様。おふたりの愛するマリアナ様は、このナターシャが身命を賭して御守りいたします。カルメロ様がおしゃっておられた平和な世を築くという夢。私が引き継ぎ、必ずや成し遂げてごらんにいれます。ですからどうか、安らかに」


 朝日を正面から受けながらの言葉は、誰もいない室内に虚しく消えていく。だが、ナターシャには不思議と2人が今の覚悟の聞き届けてくれたような気がしたのだった。

第44話「在りし日の思い出と決意」はいかがでしたでしょうか?

今回はナターシャがカルメロとの日々を思い出していました。

カルメロの妻、セリーヌも初登場だったわけですが、マリアナを産むと同時に亡くなっているのも印象に残っている方もいるかもしれませんね!

そして、ナターシャも決意を新たにしていましたが、決意を新たにナターシャのこれからを楽しみにしていてもらえれば嬉しいです!

――次回「鼓腹撃壌」

更新は3日後、11/29(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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