表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第2章 帝国への従属
43/187

第43話 席の暖まる暇も無い

どうも、ヌマサンです!

いつも読んでくださる読者の皆様、ありがとうございます!

今回はクレメンツ教国遠征の総仕上げ!

はたして、どのような形での幕引きとなるのか、楽しんで読んでもらえると嬉しいです!

それでは、第43話「席の暖まる暇も無い」をお楽しみください!

「頃は良し!今のうちに橋を渡るぞ!」


 トラヴィス隊、コリン隊の合計6千の兵は順番に橋を渡って撤退を始める。そのタイミングは両方の隊からの凄まじい反撃に押し寄せる聖堂騎士団が怯んだ一瞬。


 そのような一瞬の隙を逃がさなかったトラヴィスは、まさしく名将である。なにより、彼の長年戦場で培ってきた戦況を判断する目が優れているのはこの一事を見ても明らか。


 名将トラヴィスの指揮の下、ロベルティ王国軍が一足先に橋を渡り終え、若将軍コリンの指揮するフレーベル帝国軍が後から橋を続々と渡っていく。


 無事に橋を渡り終えた頃、聖堂騎士団長ダミアン・イヴェンス率いる聖堂騎士団も橋を渡ろうとする。しかし、橋が一本しかないため、大軍では一斉に渡ることができない。


 聖堂騎士団が橋を渡ることに苦戦するのには、別にもう1つ。丘の中腹まで迅速に撤退したトラヴィス隊が時間稼ぎを目的として、矢の雨を降らせてくるのである。


 おかげで橋を渡ろうとする聖堂騎士たちがバタバタと射倒され、追撃など出来る状況ではなかった。そうしている間にコリン隊も丘の中腹まで撤退が完了。


 2つの隊は足並みを揃えて丘の頂上へと急ぎ始める。矢の雨が止んだ今のうちに橋を渡ってしまえと聖堂騎士たちは駆け足で橋を渡ってくる。


 だが、それらも見越したうえでの撤退なのである。ダミアンが騎馬で橋の南側の入口で采配を振っていると、山手から茶色い波が見えた。


 無論、海とは反対であるし、色も水らしい色ではない。しばらく凝視していると、轟音と共に黄土色の濁流が自分たちの方へ突進してくるのが目でとらえることができた。


 刹那。ダミアンはすべてが敵の策略であることを理解した。そして、脳裏によぎったことが真であれば、敵の撤退が計画的だったことや、丘の上へと撤退する理由も、すべて説明することが可能だ。


「これはマズい!総勢、すぐに南へ撤退せよ!濁流に呑まれるぞ!急げ!」


 ダミアンは部下たちに撤退するように下知し、自らも馬を操って南へと逃れ始めた。その時の血の気が引いたダミアンの表情に配下の騎士たちも冗談抜きでマズい状況にあることを理解し、取る物も取り敢えず駆けだしたのであった。


 しかし、時すでに遅し。大軍ゆえに小回りが利かず、後方の騎士たちには撤退の命令も伝わらず、進むに進めず、退くに退けず。


「おお……!」


「こいつは壮観な景色だな……!」


 ナターシャとルイスは丘の上で盃をかわしながら、2万を超える聖堂騎士団が濁流に呑まれ、押し流されていく様を見届けていた。


 上流で堰を切ったモレーノ隊も続々本陣へ帰還し、トラヴィス隊も丘の方へ逃げてきた聖堂騎士団に散々矢を浴びせかけていた。


「トラヴィス殿に伝令を。『残党狩りはその辺りにし、直ちに撤退するように』と」


「ハッ!」


 伝令兵が本陣を発ち、トラヴィス隊へ。そこからはナターシャの指示で、順にロベルティ王国軍が撤退を開始。


 それを見たルイス率いる帝国軍もコリン隊を収容し、本領へと撤退を開始したのであった。


 こうして続々と兵を引き上げていく様を対岸からダミアンは見ていた。やっとの思いで水の死神の魔の手から逃れた頃であった。


「団長!」


「副団長か。一体、どれだけの数が流された……?」


「少なくとも1万は流されただろうな。細かい数は詳しく調べないことには何とも言えないが」


「……そうか。神の使徒を1万も殺してしまったのか……。私は何と罪深いことをしてしまったのだ……!」


 責任の重さに押しつぶされそうになるダミアンであったが、その場で首を刎ねて死のうとするのを副団長に止められる始末。


 どの道、この濁流では敵に追い討ちをかけることもできないため、被害状況の把握に努めるのみであった。


 結局、濁流に巻き込まれ、死亡したのは1万8百だと分かった。生き延びた者でも命からがら死地より逃れたこともあり、疲労が回復しないほどに蓄積していた。


 団長であるダミアン自身、濁流から逃れた直後に馬が足を折ってしまい、そこから数キロは徒歩で逃れてきたのだ。彼も落馬した際に、腰を打ってしまっており、しばらく静養する必要が出てきた。


 よって、帰還までの指揮は副団長が担当。聖堂騎士団の方も負傷兵を収容しながら、ゆっくりと南へ引き上げていくのだった。


「ナターシャ様、敵さんの方も引き上げていきやしたぜ」


「そうですか。ならば、安心して撤退することができますね。ダレン、見張りご苦労様でした」


「いいって事よ」


 ダレンは10騎ほどの兵と共に最後まで丘に残り、対岸の聖堂騎士団の動きを見張り続けていたのだ。そして、見届けてからナターシャに追いついたのが今ということになる。


 ナターシャたちは海沿いの来た道で適度に休息を取りながら、無理のない速度で撤退する最中であった。


 ルイス率いる帝国軍は敵地に留まるのは危険だというルイスの考えから、全力疾走、速やかにシドロフ王国まで兵を退いていた。


 ナターシャとルイスとで撤退の様子は大いに違うが、どちらも自分が良いと思った撤退方法を選択していることに変わりはない。


 こうしてロベルティ王国軍とフレーベル帝国軍が撤退した頃になり、ようやくアーネストからの知らせにもあった使者が到着。


 使者とルイスが会ったのはシドロフ王国の王都パレイルであった。それから一週間ほどが経った後、ナターシャたちロベルティ王国軍も到着。


 ナターシャと使者は王都パレイルの入口で一言二言かわして別れた。すなわち、使者は未だ戦闘を継続しているシドロフ王国、フォーセット王国、プリスコット王国の軍勢へ撤退命令を伝えに向かったのである。


 そうして3国の軍も10日後にはクレメンツ教国からの撤退を完了。これにてクレメンツ教国への遠征は終わりを迎えたのであった。


 北から5万、南から8万という数で行なわれたクレメンツ教国への侵攻作戦。これまでの3度の侵攻とは比べものにならないほど大規模な作戦であったが、結果だけを見れば間違いなく失敗である。


 南側は例の切り通しを突破することができずという相変わらずの結果であったが、北側は2,3千の死者のみで敵兵1万を葬り去ったのだから、局地的に見れば勝利と言えよう。


 その結果を帝都フランユレールの宮殿で受け取った皇帝ルドルフは、やはりクレメンツ教国に侵攻するなら北からか、と考えていた。そして、次に遠征する時にはどうするかなど、早くも次のクレメンツ教国遠征についての策を練り始めていた。


 ――対するクレメンツ教国はと言えば。


「そうかそうか。侵略者どもは逃げ去ったか」


「……ハッ、1万近い聖堂騎士を失いましたが、なんとか撃退することに成功しました」


「わははは、帝国の奴らもこれで懲りたであろう。何度攻めて来ようとも、無駄であるとな」


 教皇パトリックは神敵であるフレーベル帝国軍が撤退したという知らせに、体が震えるほどに喜びが湧き上がっていた。直後には、神への感謝の言葉を述べ、祈りを捧げていた。


 そして、帝国による侵攻の前に自分へ反抗的な態度を示した司教レティシアを罷免し、自らの娘にあたるナンシー・クレメンツを後釜に据えた。


 かくして司教の座を追われたレティシアは悲しみに暮れ、ウルムクーナ川からさらに南を流れるルーナム川沿いの村に引きこもってしまったのだった。


 ――この時の教皇パトリックは知る由もない。この事件により、クレメンツ教国は滅亡へと片足を踏み入れたのだということに。

第43話「席の暖まる暇も無い」はいかがでしたでしょうか?

ナターシャたちロベルティ王国軍も、ルイス率いるヴォードクラヌ領の兵たちもそれぞれ自分の国へと撤退という形に。

そして、帝国軍を撃退したクレメンツ教国では司教の座の入れ替えが行なわれていたわけですが、これが後々どんな結果を招くのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

――次回「在りし日の思い出と決意」

更新は3日後、11/26(土)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ