第42話 意外な一面
どうも、ヌマサンです!
今回は決戦前夜の何気ない日常の話になります!
はたして、どんなことが起こるのか……!
それでは、第42話「意外な一面」をお楽しみください!
「何っ、ナターシャ様がお持ち帰りされた!?」
「ああ、ボクも兵士たちが話しているのを聞いただけなのだが……」
夜。アマリアは陣中を見回っている間に耳にした噂。それは、『ナターシャがお持ち帰りされた』という情報なのだが、何に持ち帰られたのか、誰に持ち帰られたのか、色々とハッキリしないことが多かった。
だが、そんな噂の話をアマリアから聞くなり、クレアは人はこれほどまでに早く走ることができるのかと思うほどの速度でナターシャのいる天幕へと向かっていった。その手には戦場で愛用している漆黒の槍が握られている。
夜ということもあり、クレアは性的な方向へと誤解を加速させていた。それはアマリアにも見れば分かるほどである。
そんなクレアの暴走を止めるべく、後を追うことに。アマリアとしても、中途半端な噂をアマリアに伝えてしまった責任があるからだ。
「お姉さま!」
アマリアが追いついた時には、クレアは天幕へ片足を突っ込んでいる頃であった。そして、クレアの肩越しに天幕の中をのぞくと、そこには確かにナターシャの姿があった。
それも、戦場での凛々しい姿からは程遠い、ネグリジェを着た乙女らしい姿で。髪も後ろ髪を束ねて結び、肩の前に垂らすルーズサイドテールにされている。
そんないかにも寝る前といった様子のナターシャはしゃがんだ状態で白ネコを撫でていた。
「クレア、それにアマリアまで……こんな夜更けに何事ですか?もしかせずとも、夜襲ですか!?」
ここは戦場であるため、敵の夜襲かと思ったナターシャは突然立ち上がり、天幕の隅に立てかけられた愛剣へと手を伸ばした。
「ナターシャ様!夜襲ではありません!」
ナターシャが慌てて剣を取りに動いたことで、クレアも慌てて夜襲ではないことを伝え、そのまま天幕へ来た事情なども合わせて伝えた。
「……そうですか。兵士たちがそんなことを噂していたのですか」
「はい、それでクレアも近くにいたので、そのことを話したことが引き金になったのです。これに関しては、ボクの不注意が招いたことです」
「まあまあ、アマリアも顔をあげなさい。別に、この程度の早とちりなど、誰でもやらかすものです。気にしてはなりませんよ?」
頭を下げるアマリアをナターシャがなだめた後、クレアにも次からは気を付けるように伝えただけで、特に怒ったりすることはなかった。
「にゃぁ~」
「あら、先ほどは驚かせてしまいましたね」
「にゃ~ん?」
そう、しゃがんでいたナターシャが剣を取りに行く時。突然動いたこともあって、ネコはビックリしてしまっていたのだ。それが10分ほどなでなでして落ち着いたというのが、現在の状況である。
また、ネコに話しかけているナターシャを見て、アマリアもクレアもあまりの可愛さに胸を撃ち抜かれていた。
クレアもアマリアもナターシャと過ごして長いが、ネコが好きだとは知らなかった。といっても、ナターシャもこういったネコと戯れて表情を緩めるなど、人前では絶対に見せたりしない。
ゆえに、2人とも知らなくて当然なのだ。とまあ、それはともかくとして。ナターシャの膝の上でゴロゴロと可愛らしく喉を鳴らしている白ネコはどこで拾われたのか。
それこそが、この天幕の前であった。そんなネコを天幕へと連れ帰るナターシャを見た兵士たちがネコを持ち帰ったことを話しているうちに、ネコという箇所が抜け落ちて広まってしまったのが、噂の真相であった。
分かってみれば実にしょうもないことではあるが、兵士たちの誤解は後で必ず解いておく必要がある。それを察したクレアはお手洗いと偽って外へ出て、近くの兵士に『ナターシャ様が連れ帰ったのは白ネコである』ということを陣の中央に札を立てておくように命じた。
ナターシャがネコと戯れているところを邪魔した罪悪感はこうでもしないと晴れることはない。
クレアが外でそのようなことをしているとは露知らず、ナターシャはアマリアと共に猫と戯れていた。
「お姉さま、そのネコはどうするつもりですか?」
「明日にも聖堂騎士団と一戦交えねばなりませんし、国元に連れ帰るのは難しいでしょう」
ネコを連れて帰るのか。これについては、目下ナターシャを最も悩ませている重大な問題である。
「ですが、ハンナを置いていくのも気が引けるのです……!」
「も、もう名前まで決まっているとは……」
『ハンナ』という名前まで付けているほど、ナターシャはこの白ネコを溺愛していた。そんなハンナを置いていけと心を鬼にして言うことがアマリアにはできなかった。
それすなわち、アマリアもハンナをいとおしく思っているがためである。瞬く間にナターシャだけでなく、アマリアまでも魅了してしまった。武人2人の心をこうも簡単に捕えてしまうとは、ネコとはなんと恐ろしい生き物であることか。
そんなわけで、戻って来たクレアをナターシャとアマリアが2人がかりで説得したことで、本国へ白ネコの『ハンナ』を連れて帰ることに決定した。
そんなハンナを連れ帰る具体的な手段については、物資の運搬を担当しているクレアが担当することとなり、クレアとしても責任を感じていたため、断るわけにはいかなかった。
こうして猫のハンナはナターシャたち3人に満足いくまで相手をしてもらい、日付が変わってしばらくたった頃に眠りについたのであった。
ナターシャたちもそれからしばらくして、ようやく眠りにつくことができたわけだが、この際だとクレアとアマリアもナターシャの天幕で眠ることとなり、2人ともナターシャと一緒に眠れるということでソワソワしてしまい、一睡もできない夜をすごしてしまうのである。
「……アマリア。それにクレアも、目の下にクマができていますが……」
「はい……結局、あの後もあまり眠ることができず……」
眠れなかった理由を聞かれた二人だったが、『ナターシャと一緒に眠れたことが嬉しくて眠れなかった』などとは口が裂けても言えず、返答を濁す。
結局、眠れなかった理由を無理に聞きだすこともないとナターシャが判断したことで、それ以降は追及されることはなかった。
そんな眠れぬ夜を過ごした者が若干二名ほどいた夜も明け、陽が登り始めた頃。伝令兵が駆け込んできた。
「何事ですか!?」
「ハッ、ウルムクーナ川南部に聖堂騎士団が押し寄せ、トラヴィス将軍の部隊と交戦し始めました!これに、コリン・ヒメネス殿の部隊も加勢し、混戦模様となっております!」
伝令兵から事情を聞いたナターシャたちは天幕の外へ。天幕があるのは高台のため、戦場が一望できる。ただ、戦場から距離があるため、音が余り聞こえないのが難点である。
「お姉さま、あれを!」
アマリアが指さす方向には橋がある。ウルムクーナ川下流にかかる石橋であり、予定通りトラヴィス隊とコリン隊がじりじりと後退を開始したのである。
ナターシャはクレアに伝え、狼煙をあげさせた。それは、すでに上流にて川の水をせき止めて待機しているモレーノ隊に向けての合図。
トラヴィス隊とコリン隊が橋を渡り終え、丘を半ばまで登った頃にもう一度狼煙をあげる手はずとなっているのだ。
ナターシャも、今はただトラヴィス隊とコリン隊が上手く敵を引きつけてくれることを願うのみであった。
第42話「意外な一面」はいかがでしたでしょうか?
今回はナターシャがネコを天幕に連れて帰ってましたが、結局本国まで連れて帰ることまで決めてしまうという。
まぁ、ネコは可愛いですからね……!メロメロになるのも仕方ない!
ともあれ、次回からは聖堂騎士団との戦が始まります!
――次回「席の暖まる暇も無い」
更新は3日後、11/23(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




