第40話 蝸牛角上の争い
どうも、ヌマサンです!
今回は山間の道を進む3国の軍に焦点を当てた話になります!
はたして、3国の進軍がどうなっているのか、楽しく読み進めてもらえればと思います……!
それでは、第40話「蝸牛角上の争い」をお楽しみください!
3本の街道のうち、西側の山間の道を進むのは先頭からプリスコット王国軍、フォーセット王国軍、シドロフ王国軍の3カ国の軍勢併せて9千7百。
3カ国の大軍は山間部に位置する村々を手当たり次第に落としながら進軍しつつあった。
「アラン様!村方が降伏を願い出てきました!」
「よし、これ以上村に狼藉を働いてはならないと布令を出そう。兵たちにもこのことを伝えておくんだ」
アランたちプリスコット王国軍は狼藉を働くことはしなかった。それは命令があったことはもちろんだが、狼藉を働く暇もなく次の村へと進発したからであった。
こうしてアランたちプリスコット王国のように一つ一つの村を攻め落としながら進んでいることで、3カ国軍の進軍速度は極めて遅かった。さらには、各国の軍がそれぞれ好き放題に動くため、3カ国の軍としてはまとまりに欠いていた。
さらには、プリスコット王国軍の指揮官であるアラン・プリスコットと、フォーセット王国軍の大将ルービンの間で攻略した村の数で競うような事態となっていた。
最後尾に位置するシドロフ王国軍は指揮官であるアルベルト共々、兵たちの指揮は低いため、進んで後ろに回ったものである。
そんなシドロフ王国軍は残る2カ国の軍隊が攻略した村々の村長に頭を下げて回ったり、村々の間の道を舗装したりなどして村人からの感謝を集めていた。
すなわち、山間の村々の間ではシドロフ王国軍は感謝の念を持たれ、次々と貢物が届けられる事態に。反対に、プリスコット王国軍とフォーセット王国軍はむき出しの敵意を向けられていた。
そうしたこともあって、2カ国の軍隊に対して、村々は頑強な抵抗を示していたものである。帝国とロベルティ王国の軍と別れた地点と合流地点のちょうど半ばに位置する村にシドロフ王国軍が入った時、すでに10日が過ぎていた。
「ルービン将軍、この調子では期日通りに到着するのは難しいかと思われます!」
「ああ、それは分かっている。だが、敵意を持った村々を無視して通過すれば、背後を突かれる恐れも出てくる。ここは一つ一つ叩き潰しながら進むしかないだろう。ともかく、一休みしたら次の村へ向かうぞ!」
集合予定の期日は残り4日。それまでに10近い村を通過せねばならないが、この進軍速度では確実に間に合わない。
副官からそう言われても、ルービンには力攻め以外の方策は思いつかなかったのだ。仕方ないといえば、仕方ない。
ここは山間の村々での心象の良いシドロフ王国軍を先頭に立てて進めば、村々との無益な争いを避けることも可能だろう。
されど、先鋒や戦功を争ったアランとルービンから見れば、今さら先鋒を譲るなど、それぞれの王国軍をまとめる立場にあるものとしての誇りが許さない。
他にも、アランにはプリスコット王国の王族に連なる者としての誇りがあり、ルービンにも親愛なる女王陛下から大任を賜ったことについての誇りを抱いていた。
まさしく誇りなどという目の前の小さなことにとらわれ、大局を見誤っていることに他ならない。
それに気づいていても、己の持つ誇りが邪魔をして事態をややこしくしてしまう。誇りというのも、一概に良いモノとは言えないのかもしれない。
そうしてまとまりの欠ける3カ国の軍勢の進軍は遅々として進まず、結局村々を力攻めで1つ1つ攻略して進むしかなかった。
唯一の僥倖としては、1つの村を攻略するのはすべて1日以内に完了していることだろう。これで村を攻めるのに時間を要していては、目も当てられない。
しかし、舗装されていない山間の道ということもあり、そこを迅速に進むこともまた困難を極めており、行軍途中で戦いと行軍を繰り返した疲労がたまった兵士たちから倒れる者も続出していた。
陽が経つにつれただでさえ戦意の薄い兵士たちから、ますます戦意が失われ、疲労がたまったことで村の攻略も1日で済んでいたものが次第に2日、3日とかかるようになっていた。
これには後続のアルベルトからも催促の旨を伝える書状が届いていた。それこそ、前がつっかえていては後ろは進むことも出来ない。道が狭く、追い抜くことも出来ないため、『早く進め』と催促するしかない。
「アルベルト兄さん、もう予定日時を1週間も過ぎてるけど……」
「ああ、もう今さら急いだところで遅れている事には変わらないのだが、この進軍の遅さはどうにかならないのか……」
後方に控えるシドロフ王国軍の大将アルベルトと副将のクロエは先を行く2カ国の軍勢に対して、愚痴を言っていた。
シドロフ王国の兵士たちも遠征が始まって以来、一戦もしていないことで弛んでいた。なにせ、行軍は進まないのだから、前が進むまで途中の村で食事を取って寝るくらいしかやることがない。
「遠征中に飲む酒も普段とは違う景色の中で飲むからか、同じ酒でも味が違っているように感じる」
「またお酒の話?私、お酒飲まないからよく分かんないんだけど」
「だったら、お前も飲んでみないか?この酒なら飲みやすいと思うぞ?」
「ううん、いらない」
アルベルトとクロエは兄妹であり、2人とも元はと言えば農民の出だ。兄のアルベルトは紋章の力があることで、軍に入るなり将軍となった。そこで他の将軍たちと付き合いで酒を酌み交わしているうちに酒が好きになったというわけだ。
しかし、妹のクロエは紋章の力も持たないため、遠征が始まるまで伝令兵くらいの役職でしかなかった。それが、今回の遠征の前に突然将軍に任じられ、副将を任された。
これはどういうわけか。理由は簡単だった。本来指揮を執るはずのアルセン・ロメロが遠征に行きたがらないからである。
シドロフ王国軍の中で最も家格の高いロメロ家の当主であるアルセン。彼は国元を離れたくなかったのは、宮仕えをしている愛人と離れたくなかったからに他ならない。
よって、アルセンは考えた。自分以外なら誰が遠征に向かうかと。そこでまだ名も知られておらず、戦功も少ないアルベルトを推薦。さらには、妹のクロエも《《ついでに》》副官とするよう国王カイルにかけあったのだ。
そんなわけで、クロエはいきなり将軍の位に任じられ、今回の遠征軍の副将という立身出世を果たしたのだ。
また、アルベルト自身の戦意が低いのは、ひとえにナターシャの弟であるクライヴがいないため。
彼は昨年のロベルティ王国との一戦において、クライヴに一騎打ちを挑み、紙一重の差で敗れた。さらには、そこで命を取られなかったばかりか、カイルにもっと優秀な将軍であるアルベルトを用いるようにかけあったのだ。
こうしたこともあって、クライヴに対して並々ならぬ恩義を感じていた。よって、ここでクライヴに良いところを見せたいと思い、喜んで遠征軍の大将の役目を引き受けた。
にもかかわらずの現状だ。まさしく酒でも飲まねばやっていられないといったところ。
そんなアルベルトとクロエが退屈しながら話をしていた日の翌朝、驚くべき事態が起こった。
「アルベルト兄さん!帝国から使者が!」
「て、帝国から使者だと!?」
アルベルトはクロエに使者を通させ、何事かと話を聞いた。使者が言うには、フレーベル帝国軍とロベルティ王国軍はすでにクレメンツ教国から撤退したというではないか。
すなわち、使者が次に口にしたのは3カ国の軍勢も速やかにクレメンツ教国から陣を払うようにとのお達し。
アルベルトは丁重に使者を見送った後、クロエを使いとして前にいるプリスコット・フォーセット両軍へ、このことを伝えに赴かせるのであった。
第40話「蝸牛角上の争い」はいかがでしたでしょうか?
今回は誇りが邪魔したことで3国が合流地点に到着できず、撤退という形に。
次回は中央の街道を進むルイスたちヴォードクラヌの話になります!
はたして、ルイスたちはどのように進軍するのか……!
――次回「帰心矢の如し」
更新は3日後、11/17(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




