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ランドレス戦記〜漆黒の女騎士は亡き主の意思を継ぎ戦う〜  作者: ヌマサン
第2章 帝国への従属
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第28話 小国の立ち回り

どうも、ヌマサンです!

今回はクライヴが交渉のため、ある王国へと赴く話になります!

はたして、クライヴがどこの国に何を交渉するために向かうのか……!

それでは、第28話「小国の立ち回り」をお楽しみください!

「それじゃあ、姉さん。プリスコット王国に行ってくるよ」


「そういえば今日でしたか。気を付けて行くのですよ?」


「ああ、もちろん。吉報を待っていてほしい」


 クライヴはそう言いながら、ヒラリと愛馬にまたがる。クライヴの隣には家臣のモレーノとダレンが控えている。


 そのように護衛をつけてまでどこに行くのか。それはプリスコット王国。


 プリスコット王国はロベルティ王国の南に境を接する3国のうちの1つで、その中でも西端に位置する国である。


 西の境はフレーベル帝国と接しているものの、二国の境にはモギウス山脈が横たわり、往来することは不可能のため、境を接しているとは言い難い。それゆえに、帝国がプリスコット王国を攻めようと思えば、モギウス山脈を迂回し、ロベルティ王国を通過せねばならない。


 また、プリスコット王国一番の特徴は海がないこと。さらには、平地部分が少なく、国土の大半――主に西部が山地となっており、モギウス山脈からの水脈により水には困らない土地柄であった。


「クライヴ様、先日トラヴィス様と話をしておりましたが、今回の会見と何か関係が?」


「そうだね。トラヴィス殿は幾度となく3国と戦っておられる。それゆえに、3国の事情にも精通しておられるから情報を得ておきたかったんだ」


「……なるほど、それで事情を聞き、プリスコットであれば交渉するに足ると判断なさったわけですか」


 モレーノは察しが良かった。クライヴもそんなモレーノのことを気に入っており、重用していた。それに、モレーノはクライヴの父であるドミニクの頃より仕える猛将である。


「クライヴ様。なにゆえ、プリスコット王国と交渉しようと考えられたので?」


「それは、トラヴィス殿から聞いた話が大きい」


 クライヴがトラヴィスから聞いた話。それは3国と戦った中でも、プリスコット王国は戦意が薄いことを教えてもらったからである。反対に、戦意が最も高いのは3国の中央に位置するシドロフ王国だとも教わっていた。


「つまり、戦意の薄いプリスコット王国に何か仕掛けるつもりというわけでやすか」


「いかにも。プリスコット王国の動きを抑えるだけでも、3国平定を容易く行なえる」


 クライヴは岳父トラヴィスの話を聞き、3国の中でもまともに戦う気があるのはシドロフ王国のみだと悟った。後は、プリスコット王国とフォーセット王国さえ事前に調略しておけば、シドロフ王国のみを武力制圧するだけで済む。そう考えていたのだ。


「それで、プリスコット王国といえば、大きな都市が2つあるはず。今回はそのどちらへ赴くおつもりですか?」


「今回は国王に会うのだ。王城のあるクルメドに行くつもりだよ」


 モレーノの言う大きな2つの都市というのは、王都クルメドと副都ゼンドアを指す。王都クルメドは王国西部に位置し、山道を延々と進んだところにあり、王城は典型的な山城となっている。そこにプリスコット王ラッセルはいる。


 もう1つの副都ゼンドアは王国東部に位置し、平野部に広がる大都市である。近くには東と南北を結ぶ街道があるため、商業や文化の中心地となっている。そんな副都を治めるのは国王ラッセルの実妹であるマリナ。


 彼女の統治は隅々にまで行き届いており、民衆からの支持も高い。そんなマリナの夫であるアランは猛将として知られており、副都の守備を任されていた。


 すなわち、領主として統治をするのがマリナ、大将として軍をまとめるのがアランという形で、上手く夫婦で役割分担していたのだった。


 そういった情報も道中で収集しつつ、クライヴたちは南の副都ゼンドアの道ではなく、南西の王都クルメドを目指したのであった。


 そうして王都クルメドに到着したのは王都テルクスを出立してから一週間後のことであった。到着する前日、ダレンを使いに立てて謁見を申し込んでいた。


 ダレンはプリスコット王ラッセルより謁見の許可を貰い、クライヴの元へと戻ってきていた。


「して、プリスコット王ラッセルから何か言われたことはあったか?」


「へぇ、プリスコット王は『クライヴ様と会えるのを心待ちにしておる』と申しておりやした」


「ダレン。使者の任、ご苦労だった。恐らく、明日には到着できるだろう」


 クライヴはダレンからの報告を聞きながら、剣を磨いていた。その剣はモレーノからクライヴに献上された一振りであるが、元はドミニクからモレーノに与えられた名剣であった。


「モレーノ、この一振りはそなたが持っている方が良い。僕は剣よりも槍の方が得意分野だ。それに、モレーノは武将として前線に立ち剣を振るうのだから、あまり前線に出ない僕が持っているよりも良いだろう?」


 モレーノは再三受け取ることを拒んだが、何度も受け取るよう言われているうちに根負けし、モレーノが剣を拝領する形となった。


 そんな名剣の受け渡しでのやり取りの後、クライヴたちは眠りにつき、明日のラッセルとの面会に備えた。


 翌朝。朝一番に宿を出たクライヴ一行は昼前に王都クルメドに入った。その報せを受け取ったラッセルは会見の準備を整え、クライヴとモレーノ、ダレンの3名を玉座の間へと通した。


「クライヴ殿。このような辺境の地までお越しいただき、感謝申し上げる」


「いえいえ、突然の訪問となった無礼、こちらこそお詫びいたします」


 互いに社交辞令を述べながら、場を温めるかのように他愛もない雑談を始めた。そうして数分が経った後、本題へと入った。


「ラッセル陛下。我々ロベルティ王国がフレーベル帝国に従属したことをご存じでしょうか?」


「フッ、それくらいのことなら私の耳にも入っている。すなわち、今後我々3国がロベルティ王国を攻めようものなら帝国軍が出てくるということになる」


 ラッセルは聡い。決して暗愚な君主ではない。情報を集め、どう立ち回るかを常に考えていた。小国の君主として、立ち回りを考えるのは当然の事であった。


「クライヴ殿、貴国は雪解けあたりを狙って一戦仕掛けるつもりだろう?」


「さぁ、それはどうだろう?」


 クライヴは言葉を濁したが、濁したのを怪しいと見たラッセルは一つの決断を下すこととなる。


「フッ、ならば我々は貴国がシドロフ王国、フォーセット王国を攻めたとしても、加勢はしないこととする」


「なるほど、加勢はしない……と」


「ああ」


 クライヴはラッセルの言葉の意味を解するのに少々時間を要したが、意味が分かればラッセルからの返事は良いものであると理解した。


 加勢しない。すなわち、シドロフ王国とフォーセット王国からの援軍要請を受けて出陣したとしても、加勢することはないと国王自ら返答したのである。


 これは想像していたよりも良い返事が早くもらえたのである。それをクライヴは内心喜びつつ、何でもないように装って会見を終えた。


「クライヴ様。プリスコット王ラッセルとやら、時流を知らぬ若輩者だと思っていましたが……」


「逆だったな。むしろ、情報を集めて臨機応変に対応することに関しては長けていると言える」


 クライヴはラッセルのことを称賛しながら王都テルクスへの帰路についた。ラッセルもクライヴと直に話してみて、目の付け所が良いことをしきりに褒めていた。


 そして、クライヴとの会見を終えたその日のうちに、ラッセルは副都ゼンドアにいるマリナとアランに会見での内容を伝達し、上手く立ち回るべく準備を整えていくのであった。

第28話「小国の立ち回り」はいかがでしたでしょうか?

今回はクライヴがプリスコット王国の国王であるラッセルと話をしてました。

3国を平定する戦いでプリスコット王国と戦わずに済むだけでも、かなり大きな意味があるわけですが……

次回はこのクライヴの外交成果をもって、ロベルティ王国はどんな動きをするのか。

――次回「雪解けを待つ」

更新は3日後、10/12(水)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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