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第100話 背に腹は代えられぬ

どうも、ヌマサンです!

今回はついにロベルティ王国と帝国軍の主力がぶつかります……!

一体、ライオギ平野ではどんな決戦が繰り広げられるのか、楽しみにしていてもらえればと思います!

それでは、第100話「背に腹は代えられぬ」をお楽しみください!

 迎えたその日は雲一つない晴天。しかし、馬や人の立てる土煙が雲に代わって太陽を隠さんばかり。


 ライオギ平野が両軍の人馬で埋め尽くされ、春の野は草木の色ではなく鎧兜の色に染め上げられたかのよう。両軍がにらみ合いを続ける中。あと3時間で真昼になるという時――午前9時に決戦の火ぶたが切って落とされた。


 最初に弓矢を射かけたのはロベルティ王国軍のローラン隊である。すなわち、ローラン隊からの攻撃に応じる形でジュリア隊が矢を射返し、ライオギ平野での合戦は幕を開けた。


「みんな!風向きはこちらに有利です!今のうちに近づいてくる敵に射れるだけ矢を射かけて!」


 風向きが自分たちから敵へと吹いている状況を有利と判断したジュリアの指示により、空を埋め尽くさんばかりに矢がローラン隊へ降り注ぐ。


「よし、まずは手にした盾で矢を防ぎつつ、少しずつ間合いを詰めていくぞ!みな、落ち着いて作戦通りに動け!」


 降り注ぐ矢を馬上で斬り払いながらローランが命令を飛ばす。大将自ら最前線で剣を振るう以上、兵士たちも抵抗なく命令に服した。


 そうしてローラン隊とジュリア隊の間で戦が行なわれていく中、遅れを取るまいと帝国軍のガレス・フレーベルも目の前のマルグリット隊に攻撃を開始。


「全軍、目の前にいるのは野蛮な騎馬民族どもだ!一人残らず斬り殺し、奴らの野蛮人の血で平野を紅に染めてやれ!」


 常日頃から弓などといった飛び道具の類を『卑怯者の武器』と小ばかにしているガレスの部隊は騎馬隊と槍隊のみで構成され、帝国最強を自負する己の部隊をただぶつけるのみであった。


 ――だが、そんな力攻めが通用するほどマルグリットは甘くなかった。


「マルグリット様、まだなのですか!?」


「まださ。ムダな矢は討つんじゃないよ。もっと、もっと引き寄せてからさ」


 マルグリットはガレス率いる帝国軍が突撃してくるのを、矢の一本も放たずに陣地に閉じこもったまま動かなかった。


「敵は我らを恐れ、すでに逃亡したのかもしれないぞ!このまま突っ込んで皆殺しにしてやれ!」


「我ら帝国軍の恐ろしさ、思い知らせてやろうぞ!」


 指揮官たちは手柄を挙げようと兵士たちを鼓舞する。そして、マルグリット隊はすでに逃げたと思い込み、マルグリット隊の陣地へ馬鹿正直に突っ込んでくる。まさしく匹夫の勇としか言いようがなかった。


 そんな良い的があと30歩ほどで陣地に踏み込めるという距離まで迫った時。マルグリットの号令が下される。


「今だ、放ちな!」


「……放て!」


 予め狙いを定めていたサランジェ族の戦士たちが一斉に矢を放った。その数、およそ3千。全員が馬に乗りながら弓で得物を仕留めるという離れ業を仕える民族なのだ。次々に敵兵を的確に射抜いていく。


 突然放たれる矢を受けた騎兵は落馬し、後続の兵士や馬に踏みつぶされる。機動力のある騎兵はバタバタと射倒され、敵が逃げていないことに一瞬でも怯んでしまう。


 そこへ、帝国の精鋭騎馬隊などものともしない、生まれながらの精鋭騎馬兵たちが陣地から打って出る。


 初手から3千弱の騎兵を死傷させられた帝国兵は乱れる中、自分たち以上に馬の扱いになれたマルグリットたちサランジェ族の相手をしなければならなくなった。


 空から見れば、マルグリット隊が今にも陣地に攻め込まれそうになっているように見えてしまう。が、実際は上手く引き寄せられた獲物が仕留められていく光景なのであった。


「ええい!先頭の部隊は何をしている!」


「ガレス様、どうやら敵が一斉に打って出て来たらしく、我が軍はすでに敵の放った弓矢により2千を超える騎兵を失い、指揮が乱れております!」


「弓矢だと……!小賢しい飛び道具なんぞ使いおって……!もうよい、俺自ら野蛮人どもに引導を渡してくれる!」


 武勇に秀で、帝国三将のカルロッタとも互角以上に戦える武人ガレスは、ついに最前線へと駒を進めた。そこでは次々に最強を自負する己の部隊の兵たちが倒されていくのだ。


 普通、そんな光景を目の前にすれば真っ先に逃げ出すが、むしろガレスは逆であった。『あの程度、俺の敵ではない――』と。


 事実、ガレスが最前線で瞬く間にサランジェ族の戦士5人を斬り伏せると、帝国軍の士気は蘇り、勢いという落とし物を拾い上げたかのように怒涛の反撃を見せた。これにより、完全に戦況は拮抗する形となる。


 そうして西側で血で血を洗う戦闘になっている中、東のローラン隊とジュリア隊も白兵戦を展開。両軍ともに一歩も引かぬ接戦となった。


 こうして東と西とで混戦模様となる中で中央でも先端は開かれる。仕掛けたのは数で優る帝国軍であり、カルロッタからの指示で矢を放ち続け、敵に近づかれる前に数を減らせるだけ減らそうとしているかのようであった。


「ナターシャ様、ルービン隊とアルベルト隊から敵の矢が止まず、敵との距離が詰められないがどうすれば良いのか、と伝令が……!」


「ここは陣地を堅く守って出ないことです。矢も逆風の中射返すのは無駄ですから。せめて、敵が近づいてくるのを待つしかないでしょう」


 諸隊に敵の攻撃に耐えるように命じ、ひたすら受け身の姿勢をとった。これにより、ロベルティ王国兵たちの士気は上がるどころか、下がり始めていた。


 そんな折であった。敵から飛んでくる矢の数が減り始めたのは。一体何が起こったのかといえば、カルロッタ本隊の背後へ奇襲が敢行されたのである。奇襲の大将は、言うまでもなくリカルド・セミュラであった。


「敵将カルロッタ・ダルトワ、このリカルド・セミュラが討ち取ったり!」


「敵将カルロッタ・ダルトワ、討ち取ったり!」


「敵将カルロッタを討ち取ったぞ!帝国兵はただちに投降せよ!」


 そんな声が正面のナターシャ隊、アルベルト隊、ルービン隊と交戦中のカルロッタ本隊に響き渡る。


 これこそリカルドがレティシアに提案した策。とにかく敵兵を斬った者は「敵将カルロッタを討ち取った!」と叫ばせているのである。奇策ではあるが、レティシアが面白がって実行を許可するように言ったのも頷ける。


 なぜなら、敵兵は動揺し、矢を射かけている帝国兵たちも弓を下ろし、「一体どういうことだ」「後方で何が起こっている!?」と口々に騒ぎ出したのだ。


 さすがのカルロッタも自分が生きていると伝えるが、それよりもカルロッタを討ち取ったという声の方が大きく、叫ぶ声も多いのだから動揺は収まるどころか、広がるばかりであった。


 僅か3千の騎兵で行われた後方への奇襲であったが、予想以上の戦果を挙げ、リカルドは高笑いしながら悠々と引き上げていく。


 この動揺が収まらぬうちに退けば、自軍を追撃されることも、後ろから攻撃されることもないからだ。人の心を煽るような戦法だが、敵将カルロッタはすでに討ち取られたというニセ情報はロベルティ王国軍にも大いに活力を与えた。


 そんな時。真昼を迎えた頃、戦況にさらなる変化がもたらされる。そう、風向きが南から北へと移ったのだ。


「ナターシャ、今だよ!」


「ええ、分かっています!全軍、ありったけの矢を浴びせてやりなさい!先ほどまでのお返しです!」


 ナターシャが振るう采配に、ちょうど回復しつつあった士気の追い風となった。そして、物理的にも追い風の中で恨みの込められた矢が帝国軍の頭上に雨粒の如く降り注ぐ。


「ロベルティ王国全軍!今より反撃を開始します!ここからは一歩たりとも退いてはなりません!目に見える敵、すべてを斬り伏せなさい!」


 ――ついに、ロベルティ王国軍の猛攻が始まった。

第100話「背に腹は代えられぬ」はいかがでしたでしょうか?

今回は序盤は帝国軍優勢、途中からロベルティ王国軍が巻き返していくような合戦模様となっていました。

リカルドの奇襲策も上手くいき、さらには風向きも変わったわけですが、ここからどう戦局が動いていくのか、楽しみにしていてもらえれば嬉しいです!

――次回「雌雄を決す」

更新は3日後、5/16(火)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!

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