来ない理由は
「……お二人の談笑に、私などがお邪魔しても良いものなのでしょうかね」
「先生、そんなことは気にする必要はないさ」
「ええ、リオネクスさんが邪魔だなんて、そんなことはありません」
私とサガードは、リオネクスさんを迎え入れていた。
それは、私がお願いしたことである。せっかく王城に来たので、リオネクスさんの顔を見ておきたかったのだ。
そう、私は本当に会いたいと思っていた。リオネクスさんは母とも親しかった人で、私にとっては大切な人だ。
「リオネクスさん、実は私、少し怒っているんですよ?」
「怒っている? 私はルネリアに何かしてしまいましたかね?」
「何もしていないのが、問題なんです。サガードは何度もラーデイン公爵家を訪ねて来てくれますけど、それにリオネクスさんはちっとも同行して来ないんですから」
「おや……」
リオネクスさんは最初にラーデイン公爵家を訪ねて来てから、一度でけしか私に会いに来てくれなかった。
それは私としては、非常に寂しいものである。サガードの家庭教師ということもあって、それなりに同行することはできたというのに。
「すみませんね。私も忙しいものですから」
「暇はあったとサガードから聞いていますよ?」
「先生、嘘は良くないだろう。俺が訪問する時、予定がないこともあったはずだ」
「そうですね……あははっ」
リオネクスさんは、サガードの指摘に笑顔を浮かべた。
それはわかりやすく、はぐらかすような笑みであった。
そういった笑みを浮かべられると、私としても少し悲しい。それではまるで、私に会いたくないと思っているみたいだ。
「先生、どうしてルネリアに会いに行かないんだよ? 何か理由でもあるのか?」
「理由、ですか? そう言われると、少し難しいですね。というよりも、私からしてみれば、会いに行く理由がないとも言えます。今の私は、サガード殿下の家庭教師でしかありません。ラーデイン公爵家の令嬢に個人的に会いに行ける立場では、ないのです」
「そうでもないと思うけどな」
リオネクスさんは、何故だか私と距離を取ろうとしている。その言動からは、それが読み取れた。
それは私が、ラーデイン公爵家の令嬢だから、なのだろうか。リオネクスさんは貴族だったが、今は家が没落しており平民扱いだ。だから公爵家には余程のことがない限り、近寄らないと決めているのかもしれない。
「俺が強引にでも、連れて行くべきだったかな。その場合、リオネクスさんはどうするんだ?」
「サガード殿下の命令であるならば、もちろん同行しますよ」
「その線引きというのが、俺からしてみればよくわからないけど、まあ、先生は律儀な人だしな」
リオネクスさんは、とても不思議な人だった。村で暮らしていた頃から、そう思っていた。
ただそれでも、あの頃は私に対しても親身になってくれていたように思う。お母さんとリオネクスさんと三人で過ごす時間、それはまるで家族のようで。
「ルネリア? 大丈夫か?」
「え?」
「いや、なんだか落ち込んでいるみたいだからさ……先生のせいじゃないか?」
「おっと、そう言われると弱いですね……」
「あ、うん。えっと、大丈夫だよ。うん、先生にも色々とあるんだなって思っただけで……」
私が落ち込んでいることを察して、サガードが声をかけてくれた。
リオネクスさんも、苦笑いを浮かべている。私が困らせてしまったということだろうか。
ただそれでも、私はリオネクスさんに会いたいと思っている。それはもうどうすることもできない、渇望ということなのかもしれない。
「先生、こんなルネリアを見て、なんとも思わないのかよ?」
「そうですね……まあ、仕方ありませんか。少し事情を話しておきましょうか」
「事情?」
そこでリオネクスさんが、なんだか含みがあることを言い出した。
彼は私達から少し目をそらして、また苦笑いを浮かべている。その笑みは一体、どういうことなのだろうか。ともあれ、何か事情はあるみたいだ。
「こういったことはお二人には言いたくなかったのですがね。その、昔の話なのですが、実はラーデイン公爵家とは因縁がありましてね」
「因縁? リオネクスさんとラーデイン公爵家に?」
「大昔の話ですが、争ったことがあったのです。だからあの屋敷に行くということは、憚られるのですよ。ラーデイン公爵家にとって、私は仇のようなものですからね」
リオネクスさんの言葉に、私とサガードは顔を見合わせた。
つまり私に会いに来なかったのは、気まずかったから、ということだろうか。リオネクスさんにもそういった感情があったとは、驚きだ。
でも何だろう。少し違和感というか、変な気もする。大昔に争った。それはいつ、何故そうなったのだろうか。
「リオネクスさん? 争ったって、いつの話なんですか?」
「大昔、ですよ? あまり語りたいことではありませんね。ええ、お二人には聞かせたくありませんから」
「……そういえば先生って、何歳なんだ?」
「はて? いくつ、だったでしょうか? いつからか数えていませんね」
リオネクスさんに対しての謎が深まった。かつては貴族で、その家が没落してからは家庭教師をやっている。
私達は、彼のことをそれくらいしか知らない。でもどうやら、それ以上教えてくれるつもりは、リオネクスさんにはないようだ。




