第80話:想定外
この場に居合わせた光の運び手である七人全員に神格化の兆しが現れた。
本来ならば、今世のあたしの死によって神格化されるのはお兄ちゃん一人だけのはずだった。予定が大幅に狂ってしまい、八十神くんは困惑した様子で黙り込んでいる。
その横顔を間近で眺める。
取り乱してはないけれど、いつもの余裕が感じられない。というか、さっきから八十神くんらしくない。
その時、みんなの動きを封じていた何かがパッと解除された。身体が自由になった途端、こっちに向かって駆け寄ってきた。
でも、見えない壁に阻まれて一定以上近付くことが出来ない。
「夕月!」
「お、お兄ちゃん……」
どうしよう。八十神くんの手を振り解けば、多分あたしだけなら向こうに行ける気がする。
もう一度八十神くんを見る。やはり、どこか様子がおかしい。顔色が良くない。
それは予定外のことが起きたから?
それとも──
顔を覗き込もうとしたら、八十神くんがバッと顔を上げた。もう少し近寄ってたらぶつかるとこだった!
顔を上げた彼は、さっきの困惑顔ではなく、いつもの笑顔を浮かべていた。
「……時間切れだ。残念だけど今日はここまで」
「時間切れ?」
「行方不明の彼女を探している大人たちがすぐそこまで来ている。もうすぐここを見つけるはずだ」
耳を澄ませば、確かに神社の方角から声が聞こえる。歩香ちゃんの捜索をしている町内会や消防の人たちだ。さっき爆発音がしたから気付いたみたい。
「ここで彼女を見つけたことにして、今夜はお開きにしよう」
「そ、それでいいの?」
「うん。また日を改めて説明するよ」
予想外の提案に、あたしたちは唖然となった。
「じゃあ明後日の土曜にウチに集まって。キッチリ納得いく説明をしてもらうよ。あと、みんなも」
千景ちゃんの家はこの辺りの地主さんだから大きい。これだけの人数が集まれる部屋がある。
その提案に八十神くんはすぐ了承した。あたしたちもその勢いに飲まれて思わず頷いてしまった。
「あ、そうそう。これ」
パッと取り出されたのは三足の靴。
これは八十神くんの家の玄関で脱いだあたしと歩香ちゃんと八十神くんの靴だ。
「靴下で森の中にいたなんて流石に誤魔化しようがないからね」
それもそうだ。
貰った靴を履き、歩香ちゃんのぶんの靴を受け取り、お兄ちゃんたちの方に向かう。お兄ちゃんたちからは近付けないけど、あたしからは移動できた。これは八十神くんが自分の身を守るためだろうか。
叶恵ちゃんがぐったりしたままの歩香ちゃんの靴下の土を払い、靴を履かせ終えた頃に捜索隊の人たちが到着した。
こんな時間に足場の悪い森の中で、明かりのない場所に何人も集まってることに驚かれた。しかも全員擦り傷だらけ。鞍多先生や玲司さん、お兄ちゃんの三人は服までボロボロの状態だ。
歩香ちゃんの足取りを追っていたらここに行き着いた、岩壁が崩れて巻き込まれたなどと苦しい言い訳をした。時間も遅かったので、その場では詳しい聞き取りもなく終了した。
八十神くんの家の前で倒れていたお母さんは近所の人が見つけて救急車を呼んでくれて、病院に運ばれていた。仕事中に連絡を受けたお父さんは病院に直行。お母さんは単に気を失っていただけでどこも異常はなかったので、あたしたちが帰宅した後に帰ってきた。
「変ね、私なんで外で倒れてたのかしら」
お母さんに倒れる直前の記憶はなかった。




