第81話:事件の翌日
「昨日のこと、夢じゃないよね」
「ンなワケないじゃん。見てよこの傷」
「朝陽さんたちが庇ってくれなかったらもっと怪我してたかもしれないわ」
翌日。
いつものように三人で学校に向かいながら、互いの腕や足に出来た擦り傷を見せ合う。絆創膏で隠れる程度の小さなもの。この傷が痛む度に昨夜の出来事が夢ではないのだと思い知らされる。
歩香ちゃんは学校を休んでいる。
捜索隊の人たちに保護されてすぐ意識を取り戻したが、何故夜の山の中にいたのか全く覚えていなかったため、念のため検査入院することになった。
叶恵ちゃんと八十神くんは普通に登校している。
ちなみに、お兄ちゃんは帰宅途中から瑪珞さんに憑いてもらい、身体を動かしてもらっていた。そのまま今日も寝込んでいる。かなり無茶をしていたから、また二、三日安静にしなければならないかも。
「やあ、昨夜は大変だったね」
授業の合間の休憩時間に、にこやかな笑顔で八十神くんが話し掛けてきた。歩香ちゃんがいないからか堂々と教室内で。
千景ちゃんはあからさまに顔をしかめ、夢路ちゃんがあたしの前にスッと出た。
「やだなあ、もう何もしないよ」
「どーだか。それより明日、ちゃんと来いよ」
「分かってるよ。初めて女の子の家にお呼ばれしたから緊張しちゃうな」
「その言い方やめろ!」
あんなことがあったにも関わらず、八十神くんは飄々としている。下手をすれば全員に大怪我をさせるところだったのに気にしていないみたい。
またね、と言ってすぐに自分の席に戻っていった。
「アイツ、ほんと意味わかんない」
「やっぱり笑顔が嘘っぽいのよね」
「……」
二人の八十神くんに対する警戒はMAXだ。
でも、あたしはどうしても彼を憎めない。みんなを傷付けようとしたことだけは許せないけど、それでもやっぱり、そうせざるを得ない理由があったんじゃないかと思う。
こんなこと、千景ちゃんたちに言ったらまた怒られちゃうかもしれないけど。
「鞍多先生、大丈夫?」
「大丈夫なわけねーだろ」
昼休みに三人で保健室に行くと、鞍多先生は机に顎を乗せてグッタリとしていた。昨夜みんなを庇ったことで七人の中では一番傷が多い。白衣はボロボロになっちゃったから今は着ていない。
「湯船に浸かると全身滲みて痛えのなんの……手当てするにも数が多くてめんどくせえし」
確かに、顔にも腕にも擦り傷がある。見えないところにもたくさんあるんだろう。
「身を呈して里巳を助けたっつー話になってるから周りからは褒められたけどよ、夜に女子生徒連れ出して怪我させちまったから校長から小言もらっちまったぜ。ったく」
ああ、やっぱり怒られてた。
「ご、ごめんね先生。巻き込んじゃって」
「おまえは悪かねーだろ。後悔はしてねえよ。……助かって良かったな」
「うん」
頭を下げて謝ると、鞍多先生は歩み寄って頭を撫でてくれた。その手が大きくてあたたかくて、あたしは何だか泣けてしまった。
「な、泣くな! 俺が泣かせたみたいじゃねーか」
「だって」
「あー、先生が夕月泣かしたー!」
「校長先生に言っちゃおうかしら」
「やめろ!!」




