第11話:増える疑問
何故かはわからないけど、七つの光のうち、青色と紫色の二つと喋れるようになった。
青色の光の御水振さんは、低めの声で少し改まった話し方をする。紫色の光の小凍羅さんは、やや若い声で、結構砕けた感じ。
他の五つの光とは意思の疎通は出来ないけど、どうやらそれぞれ意思を持ってるみたい。
『それより、一階で其方の兄が倒れているようだが』
「えっ!?」
そういえば、今日はお兄ちゃんの部屋に寄らずに直接二階に来ちゃったんだった!
慌てて部屋を飛び出し、転がり落ちるように階段を降りる。
「お兄ちゃんっ!」
ふすまを開けると、御水振さんの言う通り、お兄ちゃんがベッドに凭れ掛かるようにして俯せに倒れ込んでいた。肩が大きく上下に動いてて、苦しそうに呼吸をしているのが聞こえる。
「ゆ、夕月……」
「大丈夫? また苦しくなったの?」
「ん……少し胸が痛いだけ」
手を貸してベッドに寝かせると、お兄ちゃんは目を閉じて大きく息を吐いた。
「ごめん、気付くの遅れて」
「夕月は悪くないだろ。ぼくの身体が弱いのが悪いんだから」
「そんなこと言わないでよ。……あたし、お水持ってくる。待ってて」
すぐに台所に行き、コップに冷えたミネラルウォーターを注ぐ。
お母さんはまだ買い物から帰ってきてない。家には今あたししかいないのに、お兄ちゃんにもしものことがあったら……
『お嬢ちゃん、泣いてるの~?』
「な、泣いてない」
おどけるような声で小凍羅さんが話し掛けてきた。あたしを元気付けようとしているんだろう。
一人だったら心細いけど、こうして気に掛けてくれる存在が側にいてくれるから少しだけ前向きになれた。
「お兄ちゃ──……ん?」
水を持って部屋に戻ると、六つの光に囲まれたお兄ちゃんがベッドの端に腰掛けていた。さっきまで横になってたのに、もう身体を起こしてる。
「お、起きて平気なの?」
「うん。心配かけてごめん」
コップを手渡しながら、隣に座ってお兄ちゃんの顔を覗き込む。
さっきは真っ青だった顔色が良くなってるし、呼吸も安定してる。あたしの前だから無理して元気を装ってるってワケじゃなさそう。
良かった、すぐ治って。
「夕月、泣いてるの?」
「なっ泣いてない」
あれ?
こんなやり取りさっきもしたような。
「心配かけてごめんな」
そう言って頭を撫でてくれる手が優しくて、あたしはぎゅっと目を閉じて堪能した。
『しかし、こう何度も倒れるようでは肉体の負担が大きいだろう』
「こればかりは仕方ないですね。僕の身体が弱いのは生まれつきなもので」
……ん?
今、お兄ちゃん御水振さんと会話した?
目を開けると、お兄ちゃんの視線は部屋の中に浮かぶ青い光をしっかりと捉えていた。
気のせいじゃない、やっぱり見えてる!
「お、お兄ちゃん。この光と喋れるの?」
「喋れるよ」
「なんで!?」
「……生まれつき?」
小首を傾げ、顎に指先で触れながらお兄ちゃんはそう言った。答えになってない。