14
フラッシュバックは短かったが、現実世界で三日の時が流れていたらしい。
大分時間を無駄にしてしまった。
「ところでこの三日、どんな事がありましたか?」
起きた当日は安静にということでそのままベッドで過ごした為、翌日の朝礼での事。カイトは療養中である。
大して進展はないはずだが、その言葉を聞いた面々の顔が暗くなった。
この三日で一体何が……。
「そうですね、何から話せばいいやら。一番大きい事は新魔王を討伐する事になったようです」
「ほぇ!?」
変な声が出た。
三日前まで魔王生まれたかもねーぐらいの情報だったはずだが、驚きのスピードで事が運んでいるようだ。
「それで急な徴集が始まって財政難です。もちろん食糧も少なくなります」
「ふぁ!?」
「リコリスさんも倒れてしまっていましたし、役所は大変でしたのよ」
私の驚き様に苦笑しながらミランダが言った。
三日で状況が激変しすぎていて、処理能力が追いつかないが、とりあえずーー。
「寝込んでしまってごめんなさいーーー!!」
今日のDOGEZAは今まで生きてきた中で一番の全力だったと思う。
「とりあえず、現状を教えていただけますか?」
なんとか落ち着きを取り戻し、現状の確認を行う。役所はアグーラからの使者が来てから臨時休業しているらしい。
「そうですね、まず人員で言うと役所のメンバーは徴集から免れました。まだ出来たての町ですし、攻めるにも攻められるにも機能として弱いので、準備の指揮を執ります」
ルークが地図を広げて続ける。
「この町の南側に高い塀を作る事になりました。いずれは町の周りを全て塀で囲いたいんですけどね。職人たちは一部アグーラに召集されてしまっているので、少ない人数でなるべく早く作らねばなりません」
山と川と海に囲まれたルメスが唯一他の土地と繋がっている南側である。
「なるほど、魔法ギルドへは依頼しましたか?」
「はい、快く引き受けてくれたようですよ」
相変わらず魔法ギルドの事になると無表情になるラウロに代わって、横にいたジーニャが答えた。
ラウロが何をしたのかとても気になるが、一番の問題である食糧の確認が先だ。
「とりあえず、塀は大丈夫そうですね。食糧はどうですか?」
「それが、王国から備蓄の八割を要求されまして」
「そんなに!?」
ルメスは現在、五千程度の人口を抱えている。ここ数ヶ月で大きく膨れ上がったのだ。アグーラは十二万程度なので比較すると小さいが、中都市の規模はある。
その人数が二ヶ月食べていける備蓄をやっと作れたのだが、八割は多すぎる。
「なんとか交渉して半分にしてもらったんだけどね。これからも徴集があるだろうし、食糧問題は深刻なんだ」
「畑を作っておいて正解でしたわ。あれがなければもっと逼迫していたでしょうし」
「幸い、海が近いので何とかなると思いますが、もう少し余裕が欲しいところですね。全く、こっちはまだ立ち上げ途中だというのに迷惑な話です」
ルークとミランダに続き、棘を含んだジーニャの本音。その言葉にみんなが頷いた。
顎に手を当てて考えていて、ふと気づく。
「そ、そういえば私のもやしは!?」
そう、倒れる前までこの会議室はもやしで埋め尽くされていたはずだった。
「あれなら変な匂いがしてきたから捨てたよ。リコっち、一体何作ってたんだよ」
「なんとーーーーー!」
もやしは毎日水洗いしてあげないといけないのだ。私が倒れたばかりに、可愛いもやしたちが処分されてしまったなんて。片膝をついて地面に拳をつく。無念なり。
私の落ち込み様を見たラウロが慌てて言った。
「わ、悪い、そんな大切な物だとは思わなくて」
「いいんです……私が倒れたのがいけないのです……。次こそは、しっかり育てて見せます!」
ルークの顔にまだやるの? と書いてあったが、見なかった事にする。
気持ちを切り替えて頭の中を整理する。
「うぅ~ん、となると、塀は魔法ギルドと残った職人に任せて、その他の住人は食糧確保、役所職員は金策ですかね」
「そうなるね。でも、カイト君は現場、ラウロ君は魔法ギルドを見ていてもらいたいし、ジーニャさんは戦争もあるけどやっぱり防災対策は必要不可欠だし。役所もいつまでも閉めてるわけにいかないから、ミランダさんにはお客さんの対応してもらって、僕はやっぱり役所にいないといけないし――」
すべての視線が私に集まる。
この流れはよろしくない。
「つ、つまり……私一人金策に走れ、と……?」
「お願いしますね。頼りにしてますよ」
ルークが満面の笑みで私の肩に手を置いた。黒い。笑みが黒い。
私に拒否権はないようです。
「さて、備蓄なんだけど数日中にはここを出発してアグーラに届けないといけないんだ。アグーラの様子も見てみないといけないし、私とリコリスさんで行ってこようと思います。数日留守にしますが、その間みなさんが頼りです。お願いしますね」
ルークの言葉に、全員が力強く頷く。
「そういえば、結構な備蓄を運ぶわけだし警備が必要なんじゃないか?」
警備ギルドとの交渉が必要か確認したいのだろう、ラウロが言うと、ルークが顔を顰めた。
「それなんですが、騎士団が迎えに来てくれるそうです。おかしい話ですが」
「騎士団が備蓄品の護送? うぅ~ん、変な話ですね」
騎士団は王と王宮を守っていると思っていたが、戦争になるわけだし事情が変わったのかもしれない。
難しい事は偉い人たちが考えるから気にしない事にしよう。
「人手不足な僕たちとしてもありがたい事だから断る必要もないしね。では、まず備蓄の準備を進めよう」
ルークがパンっと手を叩き、その場を閉めた。
「私もアグーラへ行くからね、みんなよろしく頼むよ」
空気を読まない上司が一人いたが、もはや誰も気にしなかった。




