A:冷たい心の裏側
十三、
まぁ、ちょっと前の話だ。俺はたまたまネリュ姉さんと話していた。
「そういや、零時は何か物を作ったりするのが好きなんだろ?」
「ええ、まぁ………ネリュ姉さんほどじゃありませんよ。俺には一発でフレアのような人工物を作りきる自信はミジンコほども持ち合わせてませんよ」
そういうと彼女は笑った。
「おいおい、誰も一発でフレアを作ったとはいってないぞ?」
「え?そうだったんですか?」
「ああ、そうだとも…………あたしの娘たちは片手で数えられるしかいないが………フレアは四番目だ。ちなみに教えておくがフェイルの奴もお前はもう知っているようだがあたしが作った二番目の人工物だぞ」
フェイル生徒会長が人工物ということは知っていたのだが………フレアが四番目だとは知らなかった。
「じゃ、一番目と三番目はどうなったんですか?」
そういうとちょっと悲しそうな顔になってネリュ姉さんは俺に告げた。
「一番目の奴とはけんかしたんだ」
「けんか?」
「ああ、そいつはめちゃくちゃわがままな奴でな………どうにも、作る過程で人の心をあたしが入れ忘れたらしい。いずれそんなものは勝手に出来るんだが………些細なことでけんかしちまってそれっきりさ。きっと今頃はあの世で暮らしてるだろうよ」
「と、止めなかったんですか?」
「ああ、あたしのおやつを盗むような奴は反省するまで家に入れないさ」
ちらりと垣間見たネリュ姉さんの鋭い眼光………この人はあれだ、肩をわざと当ててけんかを売るようなあたりやよりもたちが悪い。
「ま、本当のところはあたしを倒すために修行に行ったきりさ。あたしに対して反感をもったってことは心が出来た証拠だからね。人の心が出来ていることは確認できたからいいんだけど」
「………」
色々なことがあるのだなぁ………俺はそんなことを考えながらそのときはそのままで会話が終わると思った。俺がこっちにいる期間が後どのくらいになるか知らないがその相手とは会うことはないだろうと思っていたのである。
そして今、俺は磔の刑にあっている。ああ、ちなみにこれをちょっと変えると今、俺は貼り付けの圭に会っているとなる。どういう意味になったのか知らないが、めちゃくちゃな状況なのはどちらも一緒だ。しいて言うなら俺のほうがちょっとつらい目にあっていると思って欲しい。
「さて………零時君、異世界人のその体をわしに献上してくれたまえ…………この世界の発展のためになぁ………」
そして、目の前にいるのは私はマッドサイエンティストですと語っているような爺さんだった。紫の髪の毛にリーゼント。そしてまぁ、白衣を着ている。その目に輝いているふちなし眼鏡がきらりと光って落ち窪んで生気を失っている目を隠している。
俺が何故、こんなところにいるのかちょっとばかり説明しよう。
今日も学校に行こうとして、校門を過ぎるとそこに一つのねじが落ちていた。
「珍しいな………」
この世界にも機械を造ったりする習慣があったのだろうか………そんな感じでそれに近づいて拾おうとすると、見事に俺は設置されていた落とし穴に撃墜。いや、今頃こんな古典的な方法をしてくるような人がいるのか?そして、そんな古典的な捕獲方法に引っかかってしまった俺が古い人間なのは間違いないだろうな………
『これよりあと二秒で睡眠爆弾が破裂します』
「無駄に近代的だ!」
俺の目の前に一つの丸い弾が現れてそんなことをしゃべっている。液晶ぶぶんには次のような数字が表示された。
『弐、壱…………』
「そしてどことなく文字が堅苦しくて古い!」
睡眠爆弾は見事に破裂…………空気より重いそれは見事に穴の中にたまり………睡眠ガスに対抗するすべなど持たない俺はそのまま眠りこけてしまったのだった。
そんなんでまぁ、気がつけば自分が十字架に磔にされており、近くには怪しい液体やら謎の骨やらなんやらかんやら…………まさしく悪の科学者の砦だった。
「異世界人の体を隅々までじっくりと調べるのがわしのゆめじゃった」
「まぁ、俺もあなたの立場だったら喜んでやりそうですけどて………こんな若造の体を調べても面白くないと思いますよ」
まぁ、さらに付け加えて置くなら相手が機械だったら俺も問答無用でばらばらにしていたかもしれないがな………
「そうじゃのう、もうちょっとぴちぴちの娘じゃったら色々といじってからしらべるところじゃったんじゃがのう…………ひひひ・・・・」
無駄にぎらぎらと光る眼鏡をずらして俺のほうを見る。目がいやらしいところを見ると心底嫌な爺さんだと思ってしまう………
「なぁ、解放してくれよ」
「嫌じゃ…………おい、フリーズ!」
「はい………マスター」
「!?」
爺さんがそう呼ぶと後ろのほうから青い髪に青い目、青白い肌の女の子が姿を現した………しかし、見た目はフレアそのものである。
「おや、こいつを知っているのか?坊主?」
「いや、よく似てるのは知ってるが………」
考えればフレアは人造人間のようなものである。ネリュ姉さんは腕がいいといっていたのだが………ああ、つまり………この人がフレアとフェイル生徒会長の姉………一番目に作られた人工物………
その子………フリーズといったか………は白い服を着て爺さんに付き従っている。白い服とはいってもかなりぼろぼろの布を纏っているだけだ。そして、その頭にはなにやら怪しげな装置がつけられている。
「なぁ、爺さん………」
「なんじゃ、坊主?」
「その子、あんたの孫か?」
「いいや、違うぞい?行き倒れていたところを装置を使ってわしの助手にしたんじゃ。ふふ、わしの言うことだったら何でも言うことを聞くぞい?」
「何かこの子にしたか?」
「したって………何をじゃ?」
少々にやけながら爺さんは俺に尋ねてくる。
「それをいったらこの小説、年齢制限もうけないといけねぇからな………いわねぇよ」
「ああ、そうじゃったら………まぁ、いいわい。さすがにこの歳になるとわしの伝家の宝刀もさび付いてしまったからのう………もう無理じゃ」
「ふぅん、そうか………まぁ、実際のところはどうでもいいんだが……その子をさ、俺にくれないか?」
俺は相手に対してそんなことを口走っていた。爺さんはなにやら不思議そうな顔をする。
「なぜじゃ?そもそも、お前は今………囚われの身じゃが?そんな自分の身分をわきまえてからそんな口をきくんじゃな」
「う〜ん、じゃあ………交換条件、俺が今から出すものを爺さんが気に入ったらそれとその娘、交換してくれるだろ?」
「…………」
爺さんは黙って考え事をしているようだった。ううむ、このままいっても埒が明けねぇか?
「爺さん、異国のものが欲しいんだろ?」
「ああ、そうじゃ……………じゃが、わしが興味を抱くようなものじゃないと駄目じゃぞ?」
その答えを俺は待っていた。だから先ほどわかる人にはわかり、わからない人にはわからない質問をしたのである。
「ああ、勿論だ………後悔はさせないぜ?」
――――
そして、今、俺の隣にはすべての事情を話した。俺がこの世界にやったこともきちんと教えたのである。ああ、それと………信じてもらうためにネリュ姉さんから聞いた話も彼女に伝えておいたのだが………
「………嘘だわ………」
死んでしまったような目をしていたフリーズの目には冷たい光があった。どうやら、俺の話を信じてくれていないようである。
「何がだ?」
「………私はネリュには負けてないもん…………」
「は?」
そこか?そこを信じないのか?
「ええと、一体全体どういうことだ?」
「引き分けだもん!あれは私があと一歩先に踏み込んでネリュを吹き飛ばせていたら勝ててたの!勝負じゃ負けちゃったけど………戦術的には私のほうが勝ちだったわ!見物人がバナナの皮なんて投げちゃったから私が滑っちゃったのよ!」
ヒステリックにそんなことを叫んで俺の胸倉を両手で掴んだ。
「ねぇ、あなたネリュの家にすんでるんでしょ?」
「え、ああ………あんたの妹さんたちも一緒に住んでるぞ?」
「フェイルとフレアのことね………そんなことはどうでもいいの!私に協力して!私と一緒にあの悪魔を倒して!」
前に後ろにゆっさゆっさ………力は強いのか、俺を難なく振り回している。そ、そろそろ限界かも知れんな………それに、服がきわどい。見えちゃいそうだ………
「待て待て、お前のお母さんだろ?お母さんを悪魔呼ばわりするのは良くないぞ」
「何いってるのよ!自分のおやつを取られたから仕返しに一週間分のおやつを食べるのって悪魔がやることじゃないの!さらにこれ見よがしに私の目の前で食べたのよ!悪魔を通り越して魔王の所業だわ!」
「ああ、確かにそりゃそうだな…………」
子どもが一日のうちに至福のときを過ごすのは静かな時間を過ごすことができるおやつの時間だ………その時間をとられ、まるで何かの刑罰だな。
「だけどなぁ、修行してきたんだろ?それなら別にいいじゃないか」
「嫌よ!もう負けたくないの!」
「でもなぁ………」
ネリュ姉さんは俺のこの世界での保護者的存在であり、今では血のつながらない兄妹のような存在となっている。まだ一年も経っていないのに見ず知らずの男を弟扱いしてくれる人はそうそういないはずだ。そんな恩人に対してそんなことはできないんだが………。
「どうしても駄目?」
「駄目………だなぁ」
「私をあげるって言っても?」
目の前のフリーズはセクシーなポーズをとっているが………
「いや、要らないから………とりあえず、ネリュ姉さんのところに行こう」
「い〜や〜だ〜」
嫌がるそんなフリーズを引きずるようにして俺はネリュ姉さんのもとへと向かって歩き出したのだった。
「途中何か食わしてやるからよ」
「本当!?」
そんなことを冗談で言ったつもりだったのだが、フリーズは現金にも歩き出した。
「ほら!遅いよ!なにしてんの!」
「ったく、なんて野郎だ………フレアは素直ないい子なのにな」
ちょっとおばかだが………
「零時はいい人だね〜」
遅れてきている俺の手を掴んでそんなことを言う。
「はぁ?お前初対面じゃねぇか?そんなお前が何で俺のことをいい人だと認識できるんだよ?」
「だって、あのネリュが信じる相手なんでしょ?それなら私が心底信じることなんてたやすいわ」
「お前の基準がよくわからん………」
腕にすがり付いてくるフリーズに離れるように言ったのだが当然聞き入れてくれることはなくて………
「すぅ………」
「ま、これまでずっとあの爺さんにこき使われて疲れてたんだろうなぁ………」
「母さん………ごめんなさい」
「………」
やれやれ、素直じゃない子も夢の中じゃ素直になれるんだねぇ………俺は背中に背負った女の子を起こさないように静かに彼女の母親が待つ家に向かって再び歩き出したのだった。
―――
「ううむ、実にすばらしいものを手に入れたものじゃ♪」
余談だが、俺がフリーズと交換したものは………ちょっと俺には刺激が強すぎる大人の本だった。
「これがあと数年分………実に興味をそそられる……………」
まぁ、詳しいことは聞かないでくれると嬉しい。
誤解しないで欲しいが、この本は俺のものではないと最後に付け加えておこう。
久しぶりの更新となり、読んでいる方にはご迷惑をおかけしました。次の更新もどのくらいあとになるかわかりませんが、これからもよろしくお願いします。




