ルートS その一、その鉢巻は二人の絆?
このルートではおもにソルが中心となっていく予定です。
ルートS
俺たちの学校では三年生最後のイベント・・・・体育祭。まぁ、俺にはほとんど関係のないのだが・・・俺、今回はなんか知らないけど保険係の一番上・・・生徒会長に頼まれて今回はブロックの歴史の争いに巻き込まれないでよかったと内心思っている。
『え〜次は徒競走・・・』
そんなアナウンスを俺は一人で聞いている。ほかの連中は包帯やらなにやらがきれたそうなのだ。この学校、毎年百人以上が怪我をしている。その瞳には何かが乗り移ったとしか思えないほどの熱狂ぶりを見せて、使用禁止の魔法をばんばん使っていたりもするからだ。また、魔獣の生徒さんたちもマジヤル気・・・・人間さんはぼろぼろですね。
俺はそういう争いをとても安全なところで見ている。一応、赤ブロックに籍を入れているのだが、このまま何も種目には出ないでよくなりそうだ。暇そうに思いながら俺は先ほどと競争なのに上空から落ちてきて運ばれてきた女の子の手当てへと重い腰を浮かせて向かったのであった。
「・・・人間、ベッドの上が一番おとなしいものだな、ソル。」
「ふん!あれはあっちが魔法なんて使ってくるから!私がちょっと本気を出せばあんなやつら、蹴散らせる!」
巻いていた鉢巻はすでに使用不可である。よくもまぁ、体のほうは元気だったと俺は思いたいね。救護班は念のために保険の先生を探しに行った。でも、確か・・・さっき救急車に同伴してしまったから近くの医者でも連れてきたほうがよさそうだな。
「それで、どこか体の調子が悪いところはないか?」
「・・・別に・・・でも、鉢巻が・・・」
鉢巻・・・ふむ。この学校では鉢巻を失った場合はほとんどの競技に参加することができなくなる。つまり、参加条件が鉢巻で・・・予備を自分で準備するのが妥当なのだが、それをどうやらソルは知らなかったようだな。
「・・・・このままじゃ、残りの競技に出れない。」
「・・・そうか、まぁ・・・俺が同じブロックでよかったと思ってくれ。」
俺は自分の鉢巻をはずして簡易ベッドの上に体を起こしているソルの頭に鉢巻を巻いてやる。きょとんとしているそのおでこに擦り傷を発見した。どうやら髪で見えなかったらしい。
「・・・ほれ、治療も完了。さ、本当に以上がないのならがんばって来い・・・応援してるからな。」
「あ、ああ・・・任せておけ!」
その目に舞い戻ったいつもの輝きを俺に見せてソルは元気よく立ち上がって去っていった。その後、ソルはどの競技でも一着をとり脅威の二年生として来年の赤ブロックの団長候補までなったのである。俺のほうは仕事が忙しかったので見ることができなかったのがとても残念だ。
次の日の朝、振り替え休日ということで俺はいつもより早く起きていた。休日ならもうちょっと寝ているのだが、普段は学校にいっているのだ。
「・・・散歩でもしてくるかな?」
玄関を開けると、そこにはソルが立っていた。
「あ、ちょうどよかった・・・これ、返す。」
差し出された紅の鉢巻に俺は首をかしげる。
「・・・・?」
「借りたものは返すべきだとルナに言われてるからな。」
「いや、俺は貸したんじゃなくて、お前にやったの。」
「?」
「つまり、それはお前のものだ。俺からのプレゼントだ。」
「そうなのか?」
首をいまだに傾げているソルの顔を俺は眺めながらその横を通り過ぎた。しかし、いつの間に俺の家を知ったのだろうか?教えたことはないのだが・・・。
「ソル、お前はそういえば誰に俺の家の場所を聞いたんだ?」
「・・・ルナに決まってる。それより、これからどこかに行くのか?」
「散歩だ。」
「そうか、それなら私も行く。」
俺は新品同然だった鉢巻がいつの間にかぼろぼろになっており、いつ千切れてもおかしくない状態だったのでちょっと失敬した。
「あ・・・」
「・・・・」
口の中だけで呪文を唱えてみたのだが・・・・どうも、失敗してしまったらしい。鉢巻自体はものすごく頑丈にできたのだが見た目がぼろぼろのままだ。
「すまん、新しくしようとしたんだが見た目はぼろぼろのままだ。頑丈にはなったと思うんだがな。」
思い切り引っ張っても千切れないから大丈夫だろう。俺はソルにそれを渡す。
「・・・ありがとう。」
「なに、いいってことよ。」
二人して早朝に散歩をしていたのだが・・・・ソルがいきなり俺を突き飛ばしたのだった。俺はそのままいまだにせみがなっている木に直撃・・・
「・・・・乱心か、ソル?」
ソルのほうを見れば元俺がいた場所には穴が開いていた。
「・・・空から何か降ってきたぞ。危ないと思って助けただけだ。」
「・・・・それはありがたい・・・って、何が降ってきたんだ?」
ともに道がへこんでいるところを見てあわてて飛びすさむ。
「・・・・こいつは・・・」
立ち上がった少女は赤い目をしていたのであった。格好は真っ黒の竜であるのだが・・・少女だ。ええと、簡単に言うなら少女が黒竜のぬいぐるみを着ている感じだな。
「・・・あいたたた・・・ターゲットをしとめ損ねてしまいましたね。やはり、マスターのコピーだけの実力はあります。」
そういって立ち上がるなぞの襲撃者。
「・・・あんた、誰だ?」
ソルは警戒心むき出しでいつの間にか夢で見た剣を相手に向けている。周りにおまわりさんがいなくてよかったぜ。
「・・・・私ですか?私の名前はローザとまぁ、覚えておいてください。名乗りましたから、あなたの名前も教えてもらいたいものですね。」
そういってローザと名乗った少女はソルのほうを見ている。
「・・・私はソル。」
「ソルですか・・・性格はセレネさんに似ているみたいですね。」
「セレネ?」
「いえ、こっちの話です・・・まぁ、零時さん、ここで・・・」
そういって俺の方にいつの間に取り出していたのか知らないが銃口を向けている。
「・・・消えてもらいますよ。」
しかし、いち早くソルが動いて助けてくれる。銃口はあっさりとソルが持っていた剣で切断されてしまった。ローザはその隙に飛びすさむ。唐突だな、おい。
「・・・あ〜失敗しちゃいましたか・・・まぁ、今日はこの程度であきらめますかね。ソルさんは零時さんの魔獣ですか?」
そうだと答えれば・・・・・間違いなく、ソルも狙われてしまうことになるだろうから俺は違うといおうとしたのだが・・・
「そうだ!この鉢巻がその証拠だ。」
そういって赤い鉢巻を頭に巻くソル。それをみてローザの表情はうれしそうなものになっていた。
「ふふ、それはいいですねぇ。私もマスターに頼んで何かそういうものをもらおうかな・・・まぁ、それはいいとして零時さん、いずれ私はあなたをとある人の前につれていかなきゃならないんで、気をつけておいてくださいね。」
そういってなにやら爆弾らしきものを俺に投げつける。
「させるか!」
その爆弾をソルはその場で迎撃・・・どうやらただの煙幕だったらしく、俺たちの視界は真っ暗になってしまったのであった。そして、ローザがいたところには何もおらず、気がつけば俺たちの体は真っ黒になっていた。
「・・・ちっ、逃げられたか・・。」
悔しそうにそういうソルと、俺は命を狙われているのか知らないのだが・・首を傾げていた。
「・・・しかしまぁ、なんだか大変なことに巻き込まれたな。」
「のんきなことを・・巻き込まれたのは零時だぞ?」
「いや、ソルのことだ。別に違うといってりゃよかったのに・・。」
「・・・鉢巻のお礼が済んでいないからな。それに私は『小説部』の部員だ。部員が部長を助けるのは当然のことだ。私に任せておけ。」
そういって俺の近くに寄ってくる。
「・・・それと、今日の出来事は黙っておいたほうがいい。他人を巻き込むからな。」
「ああ、そうだな・・・二人だけの秘密ってやつだな・・・。」
「・・・・二人だけの秘密か・・・・」
その後はとりあえず家に帰って俺は体をきれいにしていた。寡黙な兄貴がシャワーを浴びてきた俺を不思議そうに見てきたのだが・・・・その目はなにやら知っていそうな感じもしている。
「・・・これからが楽しみだな。」
俺の隣を通っていき、兄貴はそんなことを口走ったのであった。
「・・・ソルを常に自分の近くにおいておくんだな。危ないぞ?」
「え・・・」
「ま、そうなるだろうがな。」
そういうと外から消防車のサイレンの音が聞こえてきた。どこか、焼けているようで・・・妹は真っ先に玄関を飛び出し、遅れて俺が妹の背中を追いかける。兄貴は面倒くさいのか裏を知っているのか知らないが、出てこなかった。
「あ、あれってルナちゃんとソルちゃんじゃない?」
燃えているアパートの前で座っているルナと、唇をかんでいるソル・・・
「どうかしたのか?」
「私の部屋が・・私のへやがぁ・・・」
「大丈夫よ、ソルちゃん、ルナちゃん、私の家に来なさい。」
そこには母さんもいて二人に話しかけている。
「・・・・まさか、厳重に保管していた弾薬庫がやられるなんて・・・・」
そんなことをいっているソル。よく、この程度の火災でことが済んだと思う俺である。しかし、彼女たちは家を焼かれてしまったのでそれどころではなさそうだ。
「お帰り。」
帰ってきた俺たちを眺めている兄貴の表情はいつものように冷徹だった。だが、続いて入ってくるソルとルナにを見てようやくその顔には興味というものが出てきているようだった。さて、これからどうなることかね?




