暗い人と明るい夢?
六、
今日のバイトは俺とパトリシアだけだったのだが、明日からは他の二人も来るらしい。やれやれ、面倒なことはこれ以上増やしてもらいたくないのだが・・・・それもまた、一興かもしれない。まぁ、冗談はそのくらいにして・・・・。
家に帰り着くと、兄貴が俺の分のとんかつを食しているところだった。
「・・・おかえり。」
「ただいまって・・・また俺の夕食食べてるの!?」
「・・・今日は自信作だったのにな。残念だったな。」
どうやら今日の料理の当番は兄貴だったようで・・・・レストランで働いているだけの腕は持っている。前にも言ったのだが、寡黙な人物で何か用事があるときのみしか、口を開かないような性格なのだ。正直、小さいころからこの人は苦手である。
「・・・雅が何か言ってたぞ。」
そういって俺の目の前にキャベツと白いご飯をおいて自室にこもったのであった。隣の部屋では母さんがテレビを見ながら笑っている。雅はどうやら自室にいるようだと思いながらキャベツを食べることにしたのであった。くすん、おかずがキャベツだなんて・・・
「雅、はいるぞ?」
「うん、どうぞ。」
雅の部屋は俺の部屋の隣にあり・・・というより、仕切りが一つあるだけだ。
その仕切りは俺がおいたものであり、それはなぜかというと雅の奴は俺の部屋を寝床にするときもあり、散らかしていったり、ものを破壊してしまうことがあるからである。仕切りがあれば変わるものか?とお悩みの人もいるのだろうが・・・そういう場合は実際にやってみればよい。たいした効果は期待できないというのが俺の答えだ。
「ごめん、今日もまたプラモの角、折っちゃった。」
おいおい、あの赤い奴の角を折るとは・・三倍ほどかっこよさが下がってしまったぞ。
「ところで、そのことをわざわざ俺に言うためにお前はそこにいるのか?」
「ううん、違うよ。ほら、気がつかない?」
部屋をぐるりと雅は一瞥したので俺も真似してみると・・・・
「うわっ!!」
暗い部分に一人の女の子がひざを抱えて座っていたのであった。ゆ、幽霊だろうか?それとも、魔獣?かけているビン底眼鏡からその表情は読み取ることは出来ない。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・こんにちは。」
「あ、こんにちは・・。」
あちらが唐突に頭を下げてきたので俺も下げたのだが・・・誰だろうか?
壊れた赤い奴をいじっている義妹に近づき、耳打ちする。
「あれ、誰?」
「・・・・わからない?」
どこかで見たような感じなんだけどなぁ・・・暗い・・・眼鏡・・・
「・・・ああ、瑞樹の姉か・・・。」
「うん、正解。」
思い出した・・・そういえば瑞樹は双子だったのだ。だが、姉のほうは病弱でこれまでめったに会ったことが無かった。なんでも、死の瀬戸際になったことも何度かあるらしい。俺は病院の一室に一人でぽつりと座っていたことを思い出す。そのときからぐるぐる眼鏡にめちゃくちゃ長い髪の毛である。学校に来ても俺たち意外とはしゃべっていなかった。
「・・・ええと・・名前は確か・・・瑞実さんだったかな?」
「・・・うん。」
まるでお墓から出てきた未練たらたらのお化けみたいに俺を見ている。いや、よくよくその視線をたどれば俺の後ろのほうを見ているような感じがしないでもないのだが・・・・そのぐるぐる眼鏡には何が映っているのでしょうか?とても気になるのですが・・・
「それで・・・・なんで瑞実さんが・・・」
「・・・瑞実でいい。」
「・・・何故、瑞実がいるんですか?」
「・・・敬語、使わなくていい。」
「・・・なんで瑞実がいるんだ?」
不思議に思う俺に対して雅は部屋をこっそり出て行こうとしていた。向かう先はどうせ俺の部屋だろう。俺はこんな夜にお化けじみた人と一緒にいたくはない。
「・・・兄さん、掴まないでよ。」
「・・・にがさんぞ?」
「でも、瑞実さんは兄さんに会いに来たんだよ。」
「・・・そうなのか?」
振り返るとそこにいたはずの根暗少女はいなかった・・・・と仕切りがいきなり外れて、そこから恨めしそうに・・・いや、ほっぺたが朱に染まっているということは恥ずかしがっているに違いない。何を恥ずかしがっているのだろうか?
「さすが、零時だね。姉さんの違いを的確に理解するなんてね。」
「・・・・瑞樹、お前はいつ、俺の隣に沸いて出てきたんだ?しかも、何で腰にタオルなんて巻いてるんだ?パンツぐらいはけ。」
俺の親友は頭から湯気を出しながらコップに入った牛乳を握っていたのであった。
「今日からお世話になることになったんだ。ほら、いつもの奴だよ。」
「・・・そうか・・・・」
親御さんの事情により、瑞樹はたまに俺の家に泊まりにやってくる。まぁ、それなら瑞樹の姉の瑞実がいても問題ではないな・・・・?本当に大丈夫なのだろうか?
「だけどまぁ・・こまったことに僕の寝床である零時の部屋が姉さんに占領されてしまった。いやぁ、彼女も恥ずかしがっているだろうね。」
「む、どういう意味だ?」
「・・・おやすみ。」
そういって仕切りから見えていた顔は引っ込み、俺は瑞樹のほうを見たのであった。
「つまり、彼女はどうやら零時と共に夜を明かしたいと思っているんだよ。」
「・・・いや、俺はここで寝るから、雅、俺の部屋で寝て良いぞ。」
「そう?兄さんがそういうのなら・・・・。」
「瑞樹、さっさと服を着ろ。」
「やれやれ、しょうがないな。」
こうして、俺と瑞実の今年のファーストコンタクト?はすれ違い気味に終わったのであった。そして、俺は雅の部屋で寝ていたのだが・・・
「・・・これは夢で良いんだよな?」
そんな俺の目の前には昨日と打って変わって・・・・お昼のビル街が広がっていたのであった。夜空にお月様ではなく、お天気はバッチグーで雲が存在している。唐突すぎ・・・。
「・・・で、機械はいないのか?普段ならそろそろ動き出すころあいじゃないのか?」
これまでの戦友たちの姿を探してみるのだが、そこには誰もいなかった。オフィス街の内部にも誰もおらず、この世界にいるのは俺だけのようだった。
「この世界、壊したっていったじゃないかよぉ!!ルナ!!」
俺の夢の世界を壊したといっていたルナだったのだが、どうやら・・・うそつきさんだったみたいだね♪困ったものだな。今度から可愛い娘と機械には気をつけなくては・・・。
「お〜なんか騒いでるねぇ、人の世界で・・・」
どこかで聞いたような声を聞き、俺は後ろを振り返った。そこにはルナのような機械の体を持っているソルが姿を現していたのであった。なんだかポーズを決めている気がする。
「ああん?ここはソルの世界かよ・・・てか、何で俺がここにいるんだ?」
「・・・プライベートの侵害だな。零時、覚悟は出来ているな?」
そういってとても未来的な武器であるレーザーブレードを俺に向ける。それに対して俺は丸腰・・・武器は敵に立ち向かうだけの心です。じょ、冗談じゃない!
「・・・・ちょっとまて、お前は丸腰の相手にそのような武器を使用するのか?」
「問答無用。」
そういって車も通らない道路の上を俺に向かって走ってくるのだった。それに対して俺は当然の行動を取る。強い奴に会ったときは・・・・
「あ、逃げるなぁ!」
「・・・ぐっばい!俺は不良とまともに戦うなんて考えたことはありませ〜ん。」
すたこらさっさと目指すはゴール。どうせお空に輝くお日様が眠ってしまえば俺は時間切れで夢の世界からさめますから、俺の勝ち逃げ♪所詮、機械は人間に勝てんのだよ。
「それに、ここは俺の夢の中でもあるのだから足は俺のほうが速いもんねぇ。機械は最高だけど・・・近づいてみるといけないんだぜ?怪我しちまう。」
ルナは近づいても大丈夫だとは思うのだが、ソルは第一印象が最悪だったのだから近づくなんて馬鹿な真似は馬鹿でもしません。つーか、近づいちまったら一刀両断の元、僕の体はすぱっといっちゃいます。いや、意外と手先が器用そうだから微塵切り?
「おらおらまてぇ!!逃げないで制裁を受けろぉ!!」
この人が熱血主義者の上におばかで助かった。飛び道具なんて使用されたら間違いなく俺の命日はその日に確定されてしまいますがな。
「いや、熱血主義者は・・・卑怯なことはしないはずだと思ったんだが・・・それなら、対等の条件として俺は魔法が使用できるのではないか?」
ふとした疑問が勝手に口の中から出る。振り返りながら余裕をかまして走っているふりをしてソルの足元に・・・・
「食らえ!!」
「うわっ!!」
ねばねばした物体(適当に作ったもの)を召喚させる。狙ったとおり、そして推測どおりにソルはその場にこける。これまで逃げてばかりの俺が反撃をしてこないと思ったのだろうか?
「あいててて・・・」
しりもちをついて痛がっている隙を俺は反撃の機会だと感じて一気に相手を動けないようにする。う〜ん、ルナに比べたら弱いような・・・
「そりゃ、そりゃ、そりゃぁあぁ!!」
「ぐ・・・」
相手の四肢を氷で固め、おまけとしてイチゴシロップをかけて・・・・『ソルのカキ氷イチゴ味』は完成したのであった。なんだか、ネーミングセンスが悪い気がする・・・。
既に動けなくなっているソルに俺は通告する。手には手製のメガホン。
「・・・おとなしく、負けを認めなさい。これ以上抵抗すると攻撃を開始しますよ?」
「誰が・・・負けを認めるわけないだろ!」
どうやら俺には交渉などという頭を使用する行動は向かないようである。やれやれ、こうなったら攻撃を開始するしかないな・・・。
「最後通告です。今すぐに攻撃をあきらめ、両手をあげて『助けて、ママ!!』といって降参しなさい。悪いようにはしません。お母さんが悲しみますよぉ。」
「・・・・な、なに言ってんだ、お前?」
俺はソルに近づいていき、床に落ちているレーザーブレードを拾い上げる。スイッチでもあるのか、今は電源が切れている。そして、それをソルの手に渡す。
「・・え〜では、捕虜を研究したいと思います。ていっ!!」
「うわっ!!」
そういって俺はソルを拘束していた右の氷を壊してソルの手を触る。
「ううん?普通の人間みたいな手をしてるな・・・・普通にやわらかいわ。」
「あ、ちょ・・・こら、さわんな!」
「ちぇ、固いのを想像してたのにな・・・じゃ、次は背中のバーニアを・・・」
そういって俺は背中に回る。
「お、おい・・・誤作動するかもしれないんだぞ?私、まだきちんと動けてないんだからな?操作わからないんだぞ!本当に怪我じゃ済まされないって!」
「構わない構わない・・・と、ここを触ったらどうだろうか?」
「うひゃぁ!どこを・・・」
「すまん、じゃ、こっちを・・・」
「あわわわ・・・ちょっと!」
一生懸命いじくっていると・・・気がつけば夕方になっていた。そろそろ夕日も沈んで俺にはようやく朝がやってくる・・・だろう。
「おーい、ソルって・・・」
ソルは目の前で悶えながら変な顔をして床に転がっていた。
「・・・何してるんだ、こいつは?」
なにやら幸せそうな顔をしているようだったので無視しておくことにしよう。俺はもと来た道を戻らずにそのままソルに追いかけられて進んでいた方向に歩き出す。すでに空には月が出てきているのだった。おや?おかしいな・・・
そして、完璧に夕日が沈み、月も夜空に映える。俺の体もなにやら妙な浮遊感が訪れる。どうやら、この世界ともおさらばのようだったので最後にこのビル街を眺めておく。
「・・・もう二度と、きたくないんだけどな・・・」
ソルの世界なのか知らないが、人が誰もいないこんなところには来たくないものだ。やることは走ることだけ・・・それだけでは・・・退屈してしまう。
「・・・・やれやれ、夕日なんてこの世界で見るのは初めてだな・・・朝日だって見たこと無かった気がするんだけどな。」
気がつけば朝になっており、夢の中での出来事は当然のように現実世界に影響を及ぼすことなく、俺の体は絶好調だった。
「・・・すぅ〜・・・」
いつの間にか隣の布団には瑞実が寝てるし、瑞樹が天井に貼り付けられている。
「・・・クモが・・・クモが・・・」
なにやら叫んでいるし、平和な朝だな・・・そう思って俺はいつもより早く起きて一階に降りていったのであった。




