先生の事情と家庭の事情
今回・・・シリアス傾向になってしまったような気がしますが・・・たまにはこういうのもいいかもしれません。
三、
あくる日の朝、気だるい雰囲気を所持したまま俺は学校へと向かったのであった。夢のことは毎日のごとく覚えており、終止符が打たれたことに少しだけ喜んだものだった。この夢の所為で俺は学校では絶対に居眠りをしない。まぁ、それも今日から可能になるのだ。昨日の夢に出てきていたルナのことも気になるし・・・さて、これからどうなるのかね?
「零時、今日は疲れているようだね?」
共に隣を歩いている瑞樹が俺に尋ねてくる。こいつには夢のことを話したことなどない・・・いや、誰にも話したことなど無い。だって、バカにされるだろうからな。まぁ、こいつには信じてもらえるとは思うのだが、対処方法など無いような気がしたからだ。
「・・・・まぁな、だけど心象的にいいとは思ってる。悪夢は終わったからな。」
「ふぅん?悪夢って言うのはそうそうなくなるものじゃないと思うけどね?」
嫌なことをいう親友だ。もうちょっと優しいことを言ってくれてもいいのだと思うぞ。
「まぁ、そんな傷ついた顔をしないでくれたまえ。今日のうちに五人見つけないとそろそろ、生徒会長に呼び出されるんじゃないのかい?転校生をどうしても二人はゲットしないと・・・。」
俺の予想の中では転校生はルナであろう・・・・まぁ、瑞樹が持っている本を読んでみるとこういうことが起きるのだと書かれていた。それが本当かどうか信じられないがな。
「じゃ、健闘を祈るよ。まぁ、任せておいてくれよ。」
「・・・・そうだろうな。噂じゃ、お前のクラスらしいし・・がんばってくれ。」
そういってお互い別れてそれぞれのクラスへと向かったのであった。
はじめに説明しておくとするが・・・俺のクラスには悲しいことに事情があって今は俺しか生徒がいない。これも二年の頃に色々といざこざを起こしてしまい、その所為なのだが・・・・しょうがないのだ。人間にはできることと出来ないことがあり・・・(以下略)とりあえず、俺のクラスにはこの前ようやく先生になることが出来た若手の女性教師と俺しかいない。
「・・・・やれやれ、一ヶ月・・・経ってもついてないな。」
教室へと入った俺の目の前に机で突っ伏して眠っている若手の先生が映る。しかし、俺は敢えて無視して席に着いたのであった。勿論、席の数は他の教室と変わらないのだが・・・生徒の数は今のところ俺一人だけしかいない。
キーンコーンカーンコーン!
学校が運営を開始する授業が鳴り響く。
「くか〜・・・」
先生は起きない。
あれだけ大きな目覚まし時計がなれば誰でも起きると思ったのだが、先生はどうやらお疲れのようだ。他のクラスから歓声が上がる。どうやら転校生がやってきたようである。俺は見に行くべきかやめるべきか考えて・・・とりあえず先生を起こすことにした。ここは先生を起こすべきだ・・・いや、ちょっとだけいたずらしちゃおうかな?
「せ・ん・せ・い?」
そういって背中のてっぺんから人差し指をそのままツーとしたまで下ろしていく。
「ん〜・・・・」
おや?これでも起きないとは・・・変わった先生である。面倒くさくなった俺は揺さぶって起こしたのであった。
「・・・先生?棚木 八重先生?」
ゆさゆさ・・・
全く動かないのでここはもう無視することにした。どうせ、よからぬ夢でも見ているのだろう。しまりのない顔はにやにやしている。幸せそうな顔だな。
「・・・・や〜ね〜ゼロ君、こんなところで襲い掛からないでよ。」
「・・・・。」
俺は右腕に魔力を集めて思い切り先生にぶつけた。怪我はしてはいないと思う。だって水をぶっ掛けてやったからな。
「・・・つ、つめたぁ!!誰?」
そういって目を覚ます先生。ああ、もうちょっとだけでいいから先生らしくしてくれたら俺だって皆からバカにされずにすんだのに・・・。
ため息をついて先生の前に立つ。
「先生、そろそろ授業開始のチャイムが鳴りますよ?」
「・・・あ、ゼロ君・・・来てるのなら起こしてくれてもいいんじゃない?」
「・・・今、水をぶっ掛けておこしましたよ?」
そういうと悲しそうな顔をする。
「え〜ひどいな・・・もうちょっと優しく起こしてくれたらよかったのに・・・。」
「起こしました。だけど、先生がどうやら教育上よろしくなさそうな夢を見ていそうだったので実力行使で起こさせてもらいました。俺としてはこれでも譲歩したほうですが?」
先生はほっぺたをぷくりと膨らまさせて俺を見る。先生なんだからもうちょっとだけ大人げがあって欲しいものだな・・・
「・・・八重、先生なんだもん!生徒が先生に魔法をぶつけちゃ、ダメなんだよぉ?」
「・・・・八重先生が悪いんですよ。起きないから・・・とりあえず、一時間目がもう始まります。早く授業をしてださい。」
「ちぇ、わかったよ。」
そういって先生はよだれの跡をぬぐうことも無く、既に準備されていた古典の教科書を取り出す。そして、休み時間を失っていた俺はため息をつきながら自分の席に座るのであった・・・・。
ちょっと、この先生のことを詳しく紹介しておこうと思う。
この先生はなんたることか・・・とても魔力がすごい人物なのだ。
校内でも三本の指の中に必ず存在しているというほど強い。
そして、俺のことを『ゼロ君』と呼び、先生はこんな適当な性格だったり、新米教師だったりする。
先生事態、何かやらかしたらしく、問題児が多かったこのクラスに派遣されたらしいのだが、彼女についていこうとする生徒は今のところおらず、俺以外の生徒は全てサボり。いや、既に退学届けを何人かは出したと言っていた。俺?俺は引き取ってくれた母さんが『留年してもいかなきゃダメよ?』といったのでこの先生でもついていかなくてはいけないのだ。まぁ、それだけではないのだが・・・・。
「・・・じゃ、この問題は?」
「・・・・。」
まぁ、生徒の間では完璧になめられているところが俺としては悲しいところがある。頼りなさそうに見えても先生は先生だ。俺以外の人物でこの人のことを先生と呼ぶ人はこれまで見たことが無い。新入生が一ヶ月ほど先生と呼んでいたが既に八重さんとなっている。
「ゼロ君?」
「・・・・。」
まぁ、何度かお世話になっているわけだし、俺としてもこの先生が実はとても優しいことは知っているのだし、からかわれてもいいだろう。弟的扱いをされているからなぁ。
「お〜い?」
「あ・・・。」
目の前に先生の顔があり、俺は先生に尋ねる。
「何か?」
「今、授業中で、八重は君にこの問題を当てたんだけどなぁ?」
そういって黒板に書かれている『枕草子の作家は誰でしょう?』という問題を指差している。いや、こんな問題は誰でもわかると思うのだが・・・・。
「答えは?」
「紫式部。」
「正解。よしよし。」
俺は頭をがきみたいに撫でられていたのであった。
そんなこんなで一時間目も終わり、休み時間がやってくる。
先生は職員室へと退散し、クラスメートもいない俺だけのために開放されている教室に静寂が訪れる。
しかしまぁ、転校生はこのクラスに来るべきじゃないのか?一人だぞ?一人の所為で俺は一番前の席に陣取っているのだ。授業だって、先生が一人で全教科がんばっているし、正直言って、これは高校生活ではないのではないだろうか?大体、高校生活とは男子生徒と女子生徒というものがいるべきでは?いや、男子校ならば男子生徒しかいないが、近頃は魔獣も学校に通っているそうなのだ・・・。
そんなことを考えていると二時間目を開始する鐘が俺の耳に入ってきたのであった。
「あ、やっべ!黒板消すの忘れてた!!」
その後、俺は黒板を消していなかったので先生に愛の鞭をもらったのであった。やれやれ、俺としたことが・・・・。
放課後、一人で教室の掃除をしていた俺は(本当は帰りのHRの前にあるはずなんだが、教室を一人で掃除するなど無謀なことだったのだ。終わらなかった。)ため息をついていた。
「やれやれ、いつまでこんな生活が続くんだろうな・・・。」
そこまで言って適当に掃除を終わらせ、かばんを引っつかむ。帰るために教室の扉を開けようとして・・・
「掃除、お疲れ様。」
先生がいつの間にか俺の席に座ってこちらを見ている。
「何か用事でもあったんですか?」
先生はそんじゃそこらの魔法使いではないのでいきなり後ろに現れても別に不思議ではない。
「・・・・まぁ、私事だけど・・・。」
そういって立ち上がる先生。しかし、立ち上がっても俺のほうが今では身長が高い。はじめてあったときは俺のほうが小さかったんだがな。
「今日が何の日かわかるかな?」
「・・・・今日ですか?何かの記念日でしたっけ?」
もしかして、初めて魔法使いが発掘された日だろうか?
「あ〜わすれたんだなぁ。先生、悲しい。」
「冗談です。覚えてます。」
俺が五歳だった頃の今日、俺は始めて先生と会った。場所は河川敷での俺たちが野球をしていたところである。まだ、その頃は俺にも“家族”がおり、今の家族のことをまったく知らなかったころの話である。
野球をしていた俺は始めてみる女の子が俺たちを楽しそうに眺めていたのを覚えている。俺たちより五歳年上の彼女、棚木 八重だった。
「ねぇ、私も仲間に入れてよぉ。」
そういって彼女は俺たちのところにやってきた。だが、俺たちをまとめていたリーダーはそれを足蹴にしたのであった。
「やだね。女なんかと遊べるかってんだ。」
そういって彼女を突き飛ばしたのであった。
「ちょっと、それはどうかと思うけど?」
俺は意見したのであった。その結果、俺も彼女と同じように突き飛ばされて今後、二度と彼らと遊ぶようなことはなくなった。先生のせいではなく、俺の家の事情だ。
突き飛ばされて
「あっちいけよ、お前。」といわれてしまった俺は溜息をついて泣き出しそうになっていた少女に話しかけた。それ以外、するべきことがなかったからな。
「・・・追い出されちゃったから、あっちで遊ぼう?」
「・・・・。」
そのまま俺は彼女の手を引いて河川敷を後にしたのであった。勿論、遊びにいけるような場所は限られており、やってきたのは家の近くの公園。そこには特に遊戯など無く、ブランコが二つだけあったのだった。
「・・・・はぁ、まぁ・・・しょうがないかな。」
「ごめんね?私の所為でしょ?」
「確かに。」
「・・・・。」
正直に答えた結果、その女の子は涙をためる。
「・・・じょ、冗談だよ。冗談。それに、あんな連中なんてどうでもいいや。遊ぼうと思えば一人でも遊べるから・・。」
母さんは
「絶対に女の子を泣かせてはダメよ?」と俺に言っていた。だから、俺は約束を守るためになかせないようにしたのであった。いや、既に泣いてるな・・・。
「ほら、まだお日様が沈んでないから遊ぼうよ?ええと、僕、来年から小学生なんだ。ええと、お姉ちゃんはもう小学生なんだよね?」
そういうと、彼女は頷いた。
「じゃ、学校ごっこ、しよう?僕、生徒でおねえちゃんは先生役ね?」
「・・・・うん!!」
そんなことがあったのだ。これで、昔話は終わり。
「しかし、今年は本当に驚きましたよ。先生がその年で先生になれるなんて・・・。」
しみじみと俺は先生に答える。
「まぁね、私は勉強したからねぇ。でも、覚えていてくれてありがとうといいたいよ。」
「・・・わすれませんよ。」
忘れられない、理由。それは確かに、先生との思い出もあるのだが・・・その日は俺の母さんの命日だ。つまり、今日。
「・・・今日、命日でしょう?」
「・・・はい。だけど・・・約束ですから・・・俺は母さんの墓には行けませんよ。」
あの日、俺の母さんは血を吐いた。そして、俺の目の前で息絶えたのであった。理由はわかっていない。だが、母さんは完全に死ぬまで俺に話をしてくれていたのであった。勿論、救急車が来る前までであるのだが・・・
「・・・零時、私が死んでも絶対にお墓参りはしないで・・・?約束破ったらおやつ作ってあげないわよ?」
「・・・う、うん!約束するから、死なないで!!」
そんなことを言っていた。俺としてはまことにバカらしいと今でも思っている。矛盾したその言葉に俺はこの日になると溜息がよく出るような体質になっていたのであった。
「・・・ゼロ君、ちょっと話したいことがあるからもうちょっと残ってくれないかな?」
その問いに俺は頷いたのであった。




