男:ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
十四、
人生、何が起こるかさっぱりわからないものだ。
隣には誰も寝ておらず、隣の部屋で寝ているはずのソーラの姿も無い。
俺が一人で朝起きるのは俺が魔法使いになった次の日にあって欲しかった。そうすれば、今までの出来事が夢であったと思ったに違いない。まぁ、部屋にはセレネとソーラの衣服が散らばっていたり、いつの間にか俺のたんすのほかにも俺の所有している以外の物が増えており、意外とすっきりしている俺の部屋は散らかっていた。俺、いつか追い出される?
「・・・・あの二人、どこに行ったんだろ?珍しく部屋を汚くしていって・・・。」
1階に降りてみると、我が母親が食器を洗っていた。起きた時間はいつもどおりなのだが?どうかしたのだろうか?嬉しそうなのだ。
「母さん、もう食器を洗ったの?いつもより早くない?」
「ええ、セレネちゃんとソーラちゃんの食器よ。あの子達、ちょっと用事が出来たから朝早くに出て行ったわよ。うふふ、面白いわね。」
「ふぅん?ま、いずれ戻ってくるかな?」
「朝は帰ってこないわよ。それより、さっさと朝食を食べ終えなさい。ほら、いつまでもぼさっとしていると遅刻するわよ。」
そんな会話が続き、俺は朝食を食べ終えて・・・瑞樹がやってきたことを告げる声で外に出たのであった。なにやら、もめている声が聞こえてくる。
「あれ?双三も瑞樹と一緒に登校か?」
瑞樹の隣には学年主席がいたのであった。そして俺を睨みつけてくる。怖いな。
「うるさいわね!私だって願い下げよ。だけど、家を出たらこの男がニコニコしながら待ってたの!で、予習の話をしながら貴方の家に来たまでよ!」
そしてそっぽを向いて先に歩き始めたのであった。ふぅむ、どうやら俺はお邪魔虫のようだ。なかなかいい雰囲気と見える。なら、エスケープするか・・・・。
「瑞樹、ちょっと忘れ物したから・・・先に双三と一緒に行っててくれ。」
「そうかい?珍しいね・・・置き勉派の君が忘れ物なんて・・・・・・」
「・・・・ハンカチと、燃える情熱を机の中に忘れてきたんだよ。とりあえず、先に行っててくれ。後、途中で止まらなくて結構だ。気合も忘れたからな。」
そういって俺は瑞樹を双三の元に走らせたのであった。うん、朝から我ながらいいことをしたものだ。きっと神様は俺を高く評価してくれるに違いない。
だが、現実には神様というものは気まぐれということを俺はこの後知ったのであった・・・・。つまり、神様なんて信じられないものだ。
「零ちゃん、おはよぉ!」
「あ、ノワルか・・・・おはよう。いつにも増して元気だな。」
「そだよぉ!毎日零ちゃんに会えるんだもん。元気になれるよ。」
「はは、それは嬉しいな。」
そんな会話をしていると先生がやってきた。そして、そのときになって気がついたのだが俺たちの近くの机には誰も座っていない新しい机が二つあった。
「なぁ、ノワル・・・あの場所は誰が座ってたっけ?」
「うぅん、まだ・・・私もまだ覚えてないからなぁ?」
ノワルと話していると先生が黒板にチョークで何かを書き始めた。
「ええ・・・今日、この学校に二人の仲間が増えました。皆さん、お願いしますね。彼女たちは遠い場所からお父さんの転勤で引っ越してきました。」
ほぉ、転校生か?珍しいな、この時期に・・・二人も転校生が来るなんて?・・何々、明美 月子と耀 陽というのか?まぁ、珍しいこともあるんだな。名前も取ってつけたような感じだな。
「では、二人とも・・・入ってきてください。」
「はい。」
「・・・・はい。」
俺の目の前に、お約束なのか知らないが・・・・黒髪になって顔見知りである二人が姿を現した。どちらも、何かの冗談だといいたいぐらい似合っているこの学校の制服を着ている。なぁ・・・・誰かなんでこんなことになったのか教えて。
「・・・零ちゃん、あの子達・・・ここに転校してきたの?」
「・・・・いや、正直・・・知らなかったな。」
困惑気味に俺に尋ねてくるノワルであったが、一番困惑していたのは俺だ。頭の中のパソコンが煙をふきあげ始めている。意外と悪い夢という奴かもしれん。
「自己紹介などは時間が無いので省くから、友達になりたい人たちは積極的に彼女たちに話しかけなさい。では、これで朝のHRを終わります。」
先生はそのまま去っていった。そして、徐々にあの二人の元に人だかりが出来始める。ううむ、この前このクラスが出来たとは思えないぐらいの人だかりだ。
「・・・・ノワル、話したいことがあるんだが、ちょっといいか?」
「?いいよ。でも、零ちゃんはあの二人のところに行かなくていいの?」
「ああ、それより重要な話があるんだ。」
「何々?金塊の在り処とか知ってるかって?残念ながら私は知らないなぁ。」
「いや、実は・・・・ノワルにセレネたちのチームに入ってもらいたいんだ。ちょうど、セレネたちのチームが一人沸くがあまっているんだよ。・・・・駄目か?」
俺がノワルに尋ねると彼女は唸った。肩眉を微妙に上げている。
「うぅん、どうしようかなぁ?あの子が私に対してシチューをかけたのもまだどうにもしてくれてないからな。それにあの子、危険だし・・・・。」
「なぁ、『古代魔法振興会』と魔法使いって争っている状態なのか?」
「・・・・いや、争っては無いよ。小康状態ってところかな?裏では不意打ちをしたり、されたり・・・ま、喧嘩するほど仲がいいってね♪」
「じゃ、そういうところに問題はないんだな?別に今すぐ答えてくれって言っているわけじゃないから、返事が出来るときに答えをくれないか?」
「うん、いいよ。考えとくね♪」
思ったよりうまくいってよかったな。まぁ、やはりそこはセレネよりも人が出来ているんだろうな。よかった、ノワルがセレネみたいな頑固者じゃなくて・・・・。
「なぁ、零時・・・あの子達はお前んちにいるセレネちゃんとソーラちゃんじゃないか?これは僕が疲れているからかな?」
「いや、気のせいだろ?はは、瑞樹は疲れているんだ。うん、まちがいない。」
奴が更に何かを言う前に俺は瑞樹の口を塞ぎ、黙らせた。はは、クラスの連中に聞かれてあらぬ誤解を受けて集団リンチを受けたくないぞ。
「へぇ、セレネたちって零ちゃんの家に住んでいるの?それ、本当?」
ほら見ろ、ノワルにばれちまったじゃないか。いいか、こういうのは後で誤解を解くのが大変なんだぞ?面白おかしく笑っていられる連中はいいが、俺の家に遊びに来て俺の大切なコレクションを破壊されたらたまらんのだよ、君。
「はは、ノワルも何を言ってるんだ?ここでそんな話をするわけにもいかないだろ?だからさ・・・詳しくは・・・昼休みに屋上で話そう、な?」
クラスの連中(男子のみ)がこちらを見ている。どうやら、この二人はクラスの連中(男子)の心を鷲摑みしてしまったらしい。なんとも、面倒なことを引き起こしてくれる二人組みだ。極力、学校ではあの二人と話さないでおこう。闇討ちを食らう可能性がある。まぁ、見てくれはいいからな。ソーラは中身もいいが。
そして、ノワルとともに逃げるようにして屋上にやってきた。
屋上にはなかなか人が来ない。とても日当たりが良く、風も気持ちいいと思うのだが、なにやら事情があると誰かに教えられた気がする。まぁ、後ろめたい連中がたまっていたりすることもあるんだが、その連中が血相を変えてこの屋上から降りてくる姿を見たことがあるんだが・・・・何があったんだろうな?先生でもいたのか?
「さて、言い訳は聞かせてもらうよ、零ちゃん?」
「い、言い訳って・・・言い訳する話も持ってないぞ?」
「・・・・じゃ、セレネとあの子は零ちゃん家に住んでいるの?住んでないの?これだけははっきりさせてよ。」
睨みをきかせ、俺に飛び掛らんばかりの同級生。もうやだ、こんな連中が俺の近くにいすぎだ。友達は考えて作らないといけないな。機械の人はいませんか?
「いや、二人とも下宿しているだけだ。」
「・・・本当にそれだけ?」
「・・・・あ、ああ・・・・」
「・・・まさかと思うけど、部屋は違うよね?」
「え?部屋は・・・一緒だが?」
俺のその答えにセレネを泣かせる実力を持つノワルは固まった。そして、その場の空気も固まったように思える。だが、固まること数十秒、保健室に連れて行ったほうがいいかと思った俺であったが、その甲斐無く、背後に黒い炎を纏って復活した。ノワル、その眼差しは怖い・・・・。
「零ちゃん!!そういうことしちゃ駄目なんだよ!」
「え、そうなのか?」
「まさかとは思うけど、寝る場所も一緒とか?」
ほぼ、何かに縋る様に俺に悲しそうな視線を向けてくる若手NO1の実力を持っている魔法使い。そこには俺がはじめてあったときの自信満々で元気満々の夏の太陽を浴びまくった向日葵の姿は全く無かった。しおれていて暗い。
「ああ、寝てるが?」
「・・・零ちゃんのばかぁ!!」
ばきっ!!
俺の頬が鈍い音を立てて叩かれた。その右腕にはなにやら・・・・エフェクト効果か知らないが、黒く燃える炎が移っていた気がする。普通、頬っぺた叩いたぐらいでこんな音するだろうか?普通は『ぺち』とかだろ?え、違う?
だが、これくらいですむのなら・・・それでよかったのだろう。
俺に後姿を見せて逃げ出し始めたノワルだったが・・・屋上から校内に続いているはずの扉が開かず、勢いあまった彼女は扉にぶつかって後ろに倒れた。そして、その直後・・・・空は先程まで澄み切っていたのに急に雨が降り出したのであった。俺は慌ててノワルを起こしたまではよかったのだが・・・・有り得ない者を見てしまった。
いやまぁ、近頃平和なものですな。まぁ、そんなことを言っている場合なのではないのですが・・・・。さて、零時が見たものとは?ここから本命となっていきます。




