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『魔物娘と築く異世界文明 ~チートなし青年の、火種から始まる終末抗争記~』  作者: Doros


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第一章 新世界

  陽は、雑草と大量の木の葉を積み重ねただけの簡素な寝床に横たわっていた。


  腰の下は、中央だけが高く、縁が低くなった寝床に押し上げられ、身体は逆V字のように反っている。


  普段なら、身体を横に向けて転がれば、もう少し楽な姿勢に直せただろう。


  だが今の陽は、ようやく意識を取り戻して片目を開けたばかりだった。


  唇を動かしてみるが、乾ききって熱を持っている。


  そして、全身を一気に襲う激痛。


  冷や汗が、身体に巻き付けられた何枚ものボロボロの麻布を再び濡らしていく。


  まるで酒を飲んで記憶を飛ばしたように、陽にはなぜ自分が木乃伊のように縛られ、拷問器具のような寝床に放り込まれているのか、まだ思い出せなかった。


  土壁からくり抜かれた窓を片目で見るだけでも、外の景色が蒸気のように揺らめいているのが分かる。


  おそらく外は三十度から四十度近い。


  この気温と環境では、傷の治りにもよくない。


 「傷口……誰の?」


  そう考えた瞬間、陽の額から再び大量の汗が噴き出した。


  無視できない激痛が、左肩の下から突然襲いかかる。


  神経を一つ一つ跳ねさせるような痛みが脳を突き抜け、陽は突然、大口を開けて叫んだ。


 「いてぇぇぇっ! くそっ! 神様、俺の腕を返してくれぇぇぇ!」


  長年の鬼畜なネット文化に晒されてきたせいか、片腕を失った激痛の中でも、陽は自分自身をネタにせずにはいられなかった。


  蠢くようにして、陽は苦労しながら左側の断ち切られた腕を持ち上げる。


  血まみれの粗末な黒布が、「俺はこうすれば止血できると思う」という謎理論そのままに、幾重にも重なって断端を締め付けていた。


  陽は現状と、その包帯を巻いた人物の両方に衝撃を受け、そのまま気絶した。


  青白い顔にはほとんど血の気がなく、それでも腰だけは相変わらず寝床に押し上げられている。


  部屋の外では、誰かが先ほどの叫び声を聞いたらしい。


  細かな擦れる音が、少しずつ近づいてくる。


  やがて、いくつもの小さな頭が窓や扉の向こうから顔を覗かせた。


  彼女たちは恐る恐る部屋の中を見つめている。


  助けられたばかりの若い人間。


  その視線には、好奇心と疑問、そして感謝が入り混じり、陽へと注がれていた。


 「何を見ている。みんな戻りなさい」


  扉の外から、厳しい年長の女性の声が響いた。


  覗き込んでいた小さな頭たちは、一斉に引っ込んでいく。


  扉の外が暗くなる。


  鱗が地面を擦る微かな音とともに、一人の人身蛇尾の女性が身体をくねらせながら部屋へ入ってきた。


  その後ろから、もう一人、少し若い人身蛇尾の女性が続いて入ってくる。


  年長の紫色のラミアは、気絶している陽を見た。


  それから振り返り、後ろにいた深い青色のラミアへ疑問を投げかける。


 「シキア。確か、人間の脊椎は我々のようには曲がらないはずですね?」


 「はい、長老」


 「では、なぜこの者の腰はこんなにも曲がっているのです?」


 「私はただ、自分の寝床に寝かせて包帯を巻いただけです。それだけですよ」


  長老のラミアは陽の身体に施された包帯を見た。


  そして、満足そうに頷く。


 「どうやら血は止まっていますね。シキア、あなたは技の継承が実に上手くできていますわ。これほど珍しい患者を前にしても、落ち着いて治療できるとは」


 「えへへ。私はただ、まだ使えそうな布を全部あてて、縛っただけですけどね」


  シキアは照れくさそうに頭を掻き、深い青色の髪を指先で弄びながら、陽ならもう一度気絶しかねない事実を口にした。


  なんとも哀れなことに、その「まだ使えそうな布」とは、数百年の歳月を経て、彼女たちラミアの身体から切り取られた、紛れもない「文化財」だった。


  汚れ?


  瘴気?


  そんなものは知ったことではない。


  とにかく血は止まった。


  彼女たちにとっては、それだけで十分に手厚い治療だった。


  長老は簡単に様子を確認すると、目の前の男がしばらく目を覚まさないだろうと判断した。


  シキアにいくつか言いつけると、そのまま部屋を出ていく。


 「彼が目を覚ましたら、祖巫様の部屋へ連れてきなさい。祖巫様がお会いになるそうです」


  シキアは明らかに驚いた。


  次の瞬間、その顔に興奮した表情が浮かび、大きく頷いた。


  この人間が目を開けたら、すぐに祖巫様のところへ連れていく。


  その意思を全身で示していた。


  長老が去ると、年長者の目がなくなったことで、先ほどの小さな野次馬たちがまた戻ってきた。


  中には好奇心に負けた大胆な者までいて、部屋の中へぞろぞろと入り込んでくる。


  その中の一人、シキアと同じ深い青色の蛇尾と、細く柔らかな長い髪を持つラミアが、身体をくねらせながらシキアのもとへやってきた。


  そして彼女の腕にぎゅっと抱きつき、シキアの顎に頬を擦りつけながら片目だけを覗かせ、心配そうに寝床の上を見つめた。


 「お姉ちゃん……この人、大丈夫かな?」


 「長老様が助けてくれるよね。祖巫様が守ってくれるよね?」


  シキアは妹の頭に生えた二本のアホ毛を、優しく撫でる。


 「大丈夫だよ。この人は助かる」


 「私が、絶対に死なせないから」


  朦朧とする意識の中。


  全身を覆う汗のべたつき。


  左腕の激痛。


  身体中の不快感。


  そして、周囲から聞こえてくる騒がしい声。


  それらに引き戻されるように、陽はゆっくりと目を覚ました。


  今度は、左腕が存在しないことをはっきりと感じる。


  さらに、胸と両脚には四、五か所ほど骨折している場所があり、そこから走る激痛に、陽は思わず呻き声を漏らした。


  その声を聞いたシキアの妹は、素早く陽のそばまで這うように移動した。


  細い手を陽の胸元に置き、幼い顔で目の前の「手負いの木乃伊」を心配そうに見つめる。


 「命の恩人さん、具合はどうですか? 少しは楽になりましたか?」


  少女はもう少し顔を近づけた。


  血の気を失った陽の顔を見つめ、本能的に、この人間の男は今夜を越せないのではないかと思った。


  悲しそうに、その瞳が薄く潤む。


 「ううぅお……!」


  陽は舌で、後頭部を固定している布の塊を押し退けようとした。


  布はべたべたしていて、しょっぱかった。


 (助けてくれ。俺に罪があるなら、せめて一思いにやってくれ。頼む)


  陽が少し身じろぎすると、再び頭がくらりと揺れた。


  どうやら失血がひどいらしい。


  そんなことを考えていると、陽の身体にずしりとした重みがかかった。


  シキアが負傷者である陽を抱き上げ、そのまま身体をくねらせて部屋の外へ出る。


  妹のラミアもその後ろについていき、姉とともに祖巫の住む場所へ向かった。


  そこは、近くで最も高い大樹を利用して造られた巨大な樹洞だった。


  荒々しかった樹洞の縁や壁は、長年にわたってラミアたちの尾の鱗が擦れ続けたことで、滑らかに磨き上げられている。


  樹洞の内部へ入ると、その大樹の内部がほとんど空洞になっていることが分かった。


  簡単に切り出された数枚の大きな木板によって、内部は三つの部屋に分けられている。


  扉の外には、先ほどの長老が待っていた。


  細い蛇尾が落ち着かなげに地面を叩き、尾の先が小刻みに震えながら、シュッシュッと音を立てている。


 「祖巫様……本当に、これをなさるおつもりですか?」


  長老は扉の前に立ち尽くしていた。


  その顔には、隠しきれない不安が浮かんでいる。


  しばらくして。


  部屋の中から、低く、気怠く、それでいて優しく悠久の時を感じさせる声が響いた。


 「そなたらは、我によりこの地へ三百五十年もの間、縛りつけられている」


 「周囲の魔力は枯れ、食料は乏しく、同胞は減り続けた」


 「我はあらゆる可能性を読み解いた。だが、答えは得られなかった」


 「今、新たなる血がここへ来た」


 「ならば、彼の命を絶やすわけにはいかぬ」


 「これは、我ら一族に残された最後の機会なのだ」


 「我らには、彼がもたらす変化が必要なのだ」


 「そして我も、決断を下そう」


 「転生の繭となり、もはや一族をこの地に縛りつけることはせぬ」


  長老は焦ったように扉の前まで駆け寄った。


  だが、祖巫を前にすることを恐れるように、中へ入ることはできない。


  その場で身を伏せ、声を張り上げる。


 「どうか、祖巫様のお導きを!」


 「どうか……もう一度、お考え直しください!」


 「我は天の時に従い、万変の理を携え、未来の繭と化す……」


 「我には、契機が見えておる」


 「彼をここへ。治さねば、もう長くはあるまい」


  祖巫の前半の言葉は、空間そのものに溶け込むように、どこまでも悠然と響いた。


  だが後半の声には、疲労と、それでも揺るがぬ決意が滲んでいた。


  祖巫はそれ以上、何も語らなかった。


  長老もそれ以上は口にせず、身体をくねらせて道を空ける。


  シキアは陽を抱えたまま、祖巫の間へと入っていった。


  そこは実際には、ひんやりとした薄暗い、広々とした部屋だった。


  片目しか開けられない陽は、床にある水池から反射するきらめく水面の光を頼りに、祖巫の姿を目にした。


  そこにいたのは、極めて豊満で華麗なラミアの女性だった。


  虹色の光を帯びた白玉のような鱗が蛇身から胸元まで伸び、その豊かな胸をきつく包み込んでいる。


  背中からは純白の鱗状の翼が一対生えており、肩の両側へ折り畳まれていた。


  雪のように白い長髪には何の装飾もなく、身体の上へ無造作に流れている。


  深い瞳には波一つなく、古井戸のように静かでありながら、その奥には無数の星が宿っているようだった。


  どう見ても、この世の生き物とは思えない。


  一目見ただけで分かる、絶世の美貌を持つ成熟した女性。


  祖巫が朱い唇をわずかに開く。


  そこから鋭い牙が覗いた。


  巨大な身体を柔らかく動かし、床の水池のそばまで移動する。


  そして、わずかに目を細めた。


  まるで力を振り絞るように。


  一本の鋭い牙から、翠色をした粘り気のある液体が一滴、水池の中央へ落ちた。


  次の瞬間、それは水の中へ溶けて消え、残ったのは波紋だけだった。


  見た目には、水池に何の変化もない。


 「彼の衣を脱がせ、水池の中央へ沈めよ」


  それだけを言うと、祖巫はすべての力を使い果たしたかのように、ゆっくりと身体を縮めた。


  そして簡素な木の寝台へ横たわる。


  その身体はまるで柔らかな泥のように崩れ落ちた。


  全身の鱗が一斉に剥がれ始める。


  皮膚からは細い血の流れが滲み出し、背中の翼と純白の鱗を赤く染めていく。


  シキアは祖巫の様子を見て、身体を数メートル先まで伸ばした。


  陽の手を掴み、無意識に力を込める。


  だが、口を開きかけた瞬間。


  祖巫の巨大な蛇尾が、シキアの頭を上から優しく押さえた。


  まるで手のひらのように器用な蛇尾が、ゆっくりと撫で下ろされる。


  シキアには、祖巫の今の姿を見るに堪えなかった。


  だが、一族全体が祖巫の決断に従う。


  それこそが、何百年、何千年と受け継がれてきた彼女たち一族の規則であり、使命だった。


  シキアはそれ以上何も言わなかった。


  奥へと戻っていく祖巫の尾を見つめ、それから俯く。


  まず陽を床へ寝かせる。


  そして、身体に何重にも巻き付けられた血まみれの包帯を、一枚ずつ解いていった。


  やがて、何も身に着けていない陽を抱き上げ、そのまま部屋の水池へ沈める。


  陽の身体が水へ沈む。


  ドボン、と水音が響いた。


  その音が、シキアの耳いっぱいに広がった。


  最も重傷だった断腕は、包帯を外した時点ではまだ大量の血を流していた。


  ところが、水の中へ入った瞬間。


  傷口からの出血がぴたりと止まった。


  水に溶け込んだ血液は、水池の中にある何かと反応したように、柔らかな緑色の光を放つ。


  そして光が消えると、池の水は再び元の清らかな状態へ戻った。


  極めて穏やかな温かい流れが、陽の身体の周囲を巡っていく。


  全身を襲っていた痛みは、まるで嘘のように抑え込まれた。


  痛みが消える。


  出血が止まる。


  体力が少しずつ戻っていく。


  そして、失われた腕の断端までもが再生を始めた。


  肉の組織の先端で、小さな肉芽が蠢き始める。


  その時、陽は意識を取り戻した。


  目を開ける。


  自分が暗い深潭へ落ちていくような感覚があった。


  口を開いてみる。


  だが、呼吸する必要はない。


  息苦しさも感じない。


  歪んだ水面越しに視線を向ける。


  見えるのは、歪んだ人影だけだった。


  シキアは上半身を水池の上へ乗り出し、焦りと好奇心の入り混じった目で、水中の様子を見つめていた。


  祖巫も状況が好転したことを感じ取ったらしい。


  手のひらを刀のように立てる。


  そして表情一つ変えず、自分の背後にある羽鱗の翼、その半分を切り落とした。


  瞬間。


  湯気を立てる大量の血が、辺りへ飛び散った。


 「祖巫様!?」


  シキアが悲鳴を上げ、手を伸ばす。


  だが祖巫は、血に濡れた大きな手を軽く振った。


  翼の半分を切り落とすことなど、牙からあの粘ついた液体を分泌することと比べれば、大した苦痛ではないようだった。


  祖巫は手を伸ばし、切り落とした翼を拾い上げた。


  その顔には微かな笑みが浮かんでいる。


  そして、その背中を見る。


  失われた翼は、すでに再生していた。


  新たな翼が、春雨の中で芽吹く新芽のように、ゆっくりと開き、新生を迎えている。


  祖巫は手にした翼を、水池へ投げ入れた。


 「そなたは、我ら一族の新たなる世代を救った」


 「我にはすべて見えておる」


 「これは、その対価だ」


 「受け取るがよい」


  ドボン。


  翼が水中へ落ちる。


  血に濡れた断面が、瞬く間に陽の断腕へ接続された。


  二つはまるで、生まれた時から一つだったかのように融合していく。


  膨大な生命力が断腕へ集まっていく。


  翼は眩いばかりの白い光を放った。


  その光は水面を貫き、部屋の屋根さえも突き抜けていく。


  周囲で様子を見ていた多くの一族が、思わず目を覆った。


  しばらくして。


  光が消える。


  そこには一本の純白の腕が生えていた。


  元々失われていた左腕の位置に、まるで生まれたばかりの赤子の肌のように白く、柔らかく、きめ細かな腕が繋がっている。


  元からあった右腕の小麦色の肌とは、あまりにも対照的だった。


  魔力が消えていく。


  治癒の力も徐々に弱まっていく。


  そして今度は、凄まじい眠気が陽の意識を襲った。


  水の中で、陽はゆっくりと瞼を閉じる。


 「もう……浮き袋に入ってるみたいに浮いてるだけでいいんじゃねぇか……」


 「銭湯で風呂に浸かってるより気持ちいい……」


  意識を失う直前まで陽が考えていたのは、自分をいつ、誰が水から引き上げてくれるのかということだった。


 「眠れ」


 「次に会う時は……どれほど……先になるか……」


  祖巫にも眠気が訪れたらしい。


  全身を丸める。


  巨大な翼を広げ、背後からその身体を包み込んだ。


  前身の隙間と頭だけを外へ残す。


  シキアは、祖巫が眠る姿を一度も見たことがなかった。


  そもそも、シキアが物心ついた頃から、祖巫は一度も眠ったことがない。


  いつ会いに行っても、気怠そうに目を閉じ、眠ったふりをしていた。


  そんなラミアの眠り方を、シキアは初めて祖巫の身で目にした。


  だが、それ以上に彼女を恐怖させたものがあった。


  祖巫の身体から、灰色の霧が立ち上り始めた。


  霧は祖巫の全身へ絡みつくように渦巻いていく。


  そして。


  祖巫の肉体が、急速に石へと変わり始めた。


  やがてその身体は、完全な彫像へと変わっていく。


 「え?」


 「えっ……! あ、ああっ!」


 「長老! 長老、早く来て!」


  シキアは慌てて、完全に石化した祖巫を指差した。


  もし人間だったなら、今頃はその場で足を踏み鳴らしていただろう。


  もともと焦燥に駆られていた長老の胸に、嫌な予感が走った。


  彼女は居ても立ってもいられず、祖巫の部屋へ飛び込んだ。


  まず目に入ったのは、身体を丸めたまま石化した祖巫。


  次に、水池の中で肌が白くなり始めている陽。


  長老は、まるで頭上から雷に打たれたように立ち尽くした。


 「こ、これは……どういうことです?」


  そしてすぐに我に返る。


  シキアの両肩を掴み、揺さぶった。


 「これはどういうことです!?」


 「祖巫様は……どうなされたのです!?」


  シキアは、自分が祖巫の部屋へ入ってから起きたことを説明し始めた。


  祖巫が何を言ったのか。


  何をしたのか。


  話を聞くにつれ、長老も少しずつ理解していった。


  拳を握り、祖巫の決断を受け入れようとする。


  長老は振り返り、祖巫の部屋の外へ出た。


  その顔からは、喜びも悲しみも読み取れない。


  目の前に集まってきた一族を見つめ、静かに告げた。


 「祖巫様は、化繭なされた」


 「え?」


 「どういう意味?」


 「化繭って何?」


  細かなざわめきが、長老の耳へ届く。


  長老は何の反応も示さず、説明もしなかった。


 「全員、家へ戻って荷物をまとめなさい」


 「集落を移す準備をします」


 「外へ出ている者たちにも伝えなさい」


 「三日後、新たな居住地を探しに出発します」


 「本当!?」


 「新しい場所へ行けるの!?」


  再び、一斉に声が上がった。


  その中には、隠しきれない興奮の声も混じっている。


  目の前にいるこの子たちは、長く生きた者でもせいぜい百歳を少し超えた程度だ。


  だが長老には分かっていた。


  この土地がどれほど痩せているのか。


  多くの子供たちは、生まれたその瞬間から、この場所で苦しい生活を送ってきた。


  動くことのできない祖巫を守るため、一族はこの地で三百五十年を生きてきた。


  食料は狩猟隊が持ち帰る獲物と、僅かな野生の果実に頼っている。


  水源も、近くを流れる、すでに枯れかけた小川と雨水だけだった。


  何も知らない新生代の子供たちを見つめ、長老は胸の奥が痛んだ。


  彼女たちはきっと、もうこの土地を守り続ける必要はないのだと思っている。


  だから、もっと豊かな新天地を探しに行ける。


  ただ、それだけを喜んでいる。


  まだ知らないのだ。


  祖巫の眠りは、同時に祖巫の庇護が消えることを意味する。


  これから待ち受ける危険や天敵が、一族にどれほどの犠牲を強いることになるのか。


 「はぁ……この子たちったら」


 「私もあと千歳くらい若ければ、同じように割り切れたのかしらね……」


  長老は重苦しいため息を吐いた。


  今はもういない、かつて共にいた他の長老たちが無性に恋しくなる。


  その瞳が、ふと冷えた。


  晩秋の古井戸のように、深く、冷たく。


  一方その頃。


  まだ誰かに引き上げられるのを待っている陽は、すでに深い眠りへ落ちていた。


  手足が時折ぴくりと痙攣する。


  瞼も小さく震えている。


  どうやら、夢を見ているらしい。


  そして陽は、数日前の出来事を思い出し始めていた……

※読者の皆様へ

はじめまして、本作の作者です。

この物語は、ごく普通の青年が、特別な力もシステムもない状態で、魔物娘たちと共に「ゼロからの文明建設」に挑む群像劇です。

翻訳ツールを使用しているため、日本語に少し不自然な部分があるかもしれません。また、原作の呼吸感を大切にしているため、一章あたりの文字数が多めで、展開はややスローです。

それでも、この残酷で優しい世界の記録を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

面白いと感じていただけたら、感想や評価(★)をいただけると励みになります。

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