鬼童の焦燥
一方で、テレビ業界の帝王・鬼童は、
かつてない焦燥の中にいた。
「どういうことだ、あのガキ……!」
テレビ局の役員会議室。
鬼童は、目の前のモニターに映し出される
「有馬蓮」の圧倒的なバズを、
忌々しそうに睨みつけていた。
視聴率が取れるなら、
かつての教え子だろうが何だろうが
利用するのが彼の主義だ。
だが、今回の有馬蓮の復活は、
あまりにも「異常」だった。
「演出が、効いていない……?」
鬼童は、長年の勘で理解していた。
通常、タレントの復活には「物語」が必要だ。
苦労、挫折、そして這い上がる姿。
それらを鬼童が脚本として書き、
大衆に提供する。
それが彼が何十年も続けてきた
「神の商売」だ。
しかし、今の蓮にはそれがなかった。
蓮はただそこに「いる」だけで、
人々を狂わせている。
脚本も、演出も、
事前の仕込みもすっ飛ばして、
大衆が蓮という巨大なブラックホールに
吸い込まれているのだ。
「鬼童さん……例の件ですが」
秘書が、震える声でタブレットを差し出した。
そこには、
鬼童の冠番組『鬼童エクスプレス』の
公式アカウントに寄せられた、
数万件のコメントがあった。
『蓮さまを呼べ』
『蓮さんを侮辱した過去を謝罪しろ』
『今夜の放送に彼を出さなければ、
この局を焼き払う』
「……チッ。どいつもこいつも、
集団ヒステリーか」
鬼童はタバコを床に叩きつけた。
だが、彼はまだ気づいていなかった。
その秘書の手が、微かに震えている理由を。
彼女の瞳が、蓮の画像を見た瞬間、
わずかに「白濁」していたことを。
「いいだろう。呼んでやるよ。
生放送のカメラの前で、
あのガキの化けの皮を剥いでやる。
演出の力を見せつけてやるよ」
鬼童は、自ら地獄への
招待状にサインをした__。




