下顎の墓標と案内人
村の入り口には、門番のように二本の巨大な柱が立っていた。
それは鳥居の形をしていたが、一番上の横木(冠木)がない。
まるで、空を仰ぐことを禁じられた「口」のようだった。
足元に違和感を覚え、蓮が視線を落とすと、そこには砂利の代わりに、
無数の**「人間の下顎の骨」**が敷き詰められていた。
数百年、あるいはそれ以上の年月をかけて積み上げられた、沈黙の残骸。
「……ようこそ、有馬蓮さま。お待ちしておりましたよ」
霧の奥から、聞き覚えのある湿った声が響いた。
狐の面を被り、泥一つついていないスーツ姿の男・コトシロが、
一軒の朽ちかけた社の前に立っていた。
蓮は震える左手でコトシロを指し、問いかけようとした。
だが、声は出ない。
コトシロは面の下で、蓮の醜悪な姿を愛おしむように目を細めた。
「ああ、言葉は不要です。この村では誰も『声』を持ちませんから。
……ご覧なさい。あなたが憧れた、栄光の先人たちの姿を」
コトシロが社を囲む鳥居の柱を指差した。
蓮が目を凝らすと、その朱色の柱の表面に、無数の「顔」が浮き出ていた。
それは見事な彫刻などではない。
かつてこの国で「神」と崇められ、
絶頂の中で姿を消したスター、政治家、時代の寵児たちの、
生きたまま石化した本物の顔だ。
彼らの口は、一様に朱色の泥で塗り固められている。
彼らは今も、この柱の中で生きている。
自分たちを消費し、使い捨てた大衆の呪いを吸い込み続ける
「フィルター」として、永遠にこの場所で晒されているのだ___。




