鏡の審判
ある嵐の夜。
雷光がスイートルームを白く焼き、
窓の外では信者たちが雨に打たれながら
蓮の名を呼び続けていた。
蓮は、激しい頭痛と全身の軋みに
のたうち回っていた。
「ああ……ああああ!
重い、身体が……崩れる……!」
紗夜が、静かに立ち上がった。
彼女は部屋の隅に置かれた、
大きな姿見を覆っていた布を取り払った。
そして、
その鏡を蓮の目の前まで引きずってきた。
「見たくない……! そんなものは、見せるな!」
蓮は叫んだが、左目だけは、
鏡に映った「それ」を捉えてしまった。
そこにいたのは、かつての天才子役の
面影など微塵もない、化け物だった。
右半身はゴツゴツとした岩塊となり、
そこから無数の朱色の触手のような
神経が飛び出している。
顔の半分はひび割れ、
そこから黒い霧が絶えず噴き出していた。
そして全身を覆うのは、
人々の憎悪が凝縮された、
血のような赤い文字の群れ。
それは、神などではなかった。
人々の不幸と呪い、
そして「成功者を引きずり下ろしたい」という
醜い欲望をすべて一身に受け止めた、
**「現代のゴミ捨て場」**の姿だった。
「…………これが、俺か?」
蓮の声が、鏡を震わせた。
紗夜は、鏡の中の蓮を指差し、
初めてその瞳から一筋の涙を流した。
彼女は自分の喉元を指差し、
それから蓮の口元を指した。
『 お前も、もう何も語ることはできない 』
蓮が何かを言い返そうと口を開けた瞬間、
口内からパラパラと、
真っ黒な石の破片が零れ落ちた。
舌が、石に変わったのだ。
蓮は鏡を叩き割った。
砕け散った鏡の破片の一枚一枚に、
無数に分裂した自分の醜悪な姿が映し出される。
「クチナシ……。クチナシへ行かなければ……」
蓮は本能的に悟った。
このままでは、自分はスタジアムに立つ前に、
自分の重みで粉々に砕け散ってしまう。
この呪いを解く方法は、
あるいは、
この「死よりも残酷な生」の正体を知る場所は、
あの廃村にしかない。
蓮は、跪き続ける鬼童を蹴散らし、
紗夜を連れて部屋を飛び出した。
彼の後ろ姿は、
もはや栄光を掴んだスターではなく、
自分の呪いから逃げ惑う死神のようだった___。
第3章、完。




