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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第3章:独占される聖母

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感覚の消失:砂の身体


 石化の侵食は、ついに蓮の五感のほとんどを奪い去っていた。


 食べ物の味はとうに消え、今は「視覚」さえも変容し始めている。


 蓮の目には、豪華な家具や金銀の装飾が、

 すべて「朽ちた骨」や「灰」のように見えていた。


 人々が着ている高級な服は、

 ドロドロとした黒い欲望が編み込まれたボロ布にしか見えない。



「……紗夜。お前の顔が……見えにくくなってきた」



 蓮の右目は完全に石に覆われ、

 左目もまた、朱色の膜が張り付いたように濁っている。


 彼は焦燥に駆られ、紗夜を強く抱きしめた。


 だが、その抱擁に「温もり」はない。

 蓮の身体は、すでに体温を失い、周囲の冷気を吸い込む石の塊と化していた。


 紗夜は、蓮の背中にそっと手を回した。


 その瞬間、彼女の指先が、蓮の皮膚に刻まれた「文字」に触れた。


 蓮は知らなかった。

 

 自分の背中や腕、全身の石化した部分に、

 無数の細かい文字が浮かび上がっていることを。


 それは、彼がハッキングした数百万人の人間たちの、

 心の底に押し込められた**「醜い本音」**だった。



・・・『死ね』『嘘つき』『消えろ』『苦しめ』『自分だけずるい』・・・



 蓮を愛していると叫ぶファンたちの、

 その愛の裏側に潜むドロドロとした嫉妬と憎悪が、

 蓮という「器」に物理的な呪詛として刻まれていたのだ。


 蓮が人々を熱狂させればさせるほど、

 この呪いの文字は深く、鋭く、彼の肉体を削り取っていく___。



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