感覚の消失:砂の身体
石化の侵食は、ついに蓮の五感のほとんどを奪い去っていた。
食べ物の味はとうに消え、今は「視覚」さえも変容し始めている。
蓮の目には、豪華な家具や金銀の装飾が、
すべて「朽ちた骨」や「灰」のように見えていた。
人々が着ている高級な服は、
ドロドロとした黒い欲望が編み込まれたボロ布にしか見えない。
「……紗夜。お前の顔が……見えにくくなってきた」
蓮の右目は完全に石に覆われ、
左目もまた、朱色の膜が張り付いたように濁っている。
彼は焦燥に駆られ、紗夜を強く抱きしめた。
だが、その抱擁に「温もり」はない。
蓮の身体は、すでに体温を失い、周囲の冷気を吸い込む石の塊と化していた。
紗夜は、蓮の背中にそっと手を回した。
その瞬間、彼女の指先が、蓮の皮膚に刻まれた「文字」に触れた。
蓮は知らなかった。
自分の背中や腕、全身の石化した部分に、
無数の細かい文字が浮かび上がっていることを。
それは、彼がハッキングした数百万人の人間たちの、
心の底に押し込められた**「醜い本音」**だった。
・・・『死ね』『嘘つき』『消えろ』『苦しめ』『自分だけずるい』・・・
蓮を愛していると叫ぶファンたちの、
その愛の裏側に潜むドロドロとした嫉妬と憎悪が、
蓮という「器」に物理的な呪詛として刻まれていたのだ。
蓮が人々を熱狂させればさせるほど、
この呪いの文字は深く、鋭く、彼の肉体を削り取っていく___。




