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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第3章:独占される聖母

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沈黙の聖域


 都心の最高層ビルの最上階。


 そこは蓮が作り上げた、重力さえも

 書き換えられたかのような異様な空間となっていた。


 蓮は、境界から現れた少女・紗夜を、

 外界から完全に遮断された「鳥籠」へと閉じ込めていた。


 部屋の壁一面は、かつてクチナシの村で見たような白鷺色の絹で覆われ、

 足元には香りのしない白い花が敷き詰められている。


 蓮にとって、この部屋だけが、

 自分を「神」ではなく「蓮」として認識させてくれる唯一の場所だった。



「……紗夜。こっちへ来い」



 蓮がソファから声をかける。

 

 その声は、かつての澄んだ少年のものではなく、

 石と石が擦れ合うような、不気味な低音を含んでいた。


 紗夜は無言で、部屋の隅から蓮を見つめる。

 彼女の瞳には、日本中の人間が蓮に向けている「狂信」の色は微塵もない。


 ただ、深い夜の海のような静寂だけがある。


 蓮の右半身は、今や完全に石化し、

 服の上からでもその異様な隆起が判るほどだった。


 彼は石化した右腕を動かし、テーブルの上のリモコンを操作する。


 モニターには、蓮を称える信者たちの暴動に近い熱狂が映し出されている。



「見ろ。

 誰もが俺を欲しがっている。

 俺が指一本動かせば、彼らは自分の命だって差し出すんだ。


 ……なのになぜ、お前だけは俺をそんな目で見る?」



 蓮は、感覚のない石の指で紗夜の頬を撫でようとした。


 紗夜は避けなかった。


 だが、その冷たい石が肌に触れた瞬間、彼女は微かに悲しげに目を伏せた。


 蓮にとって、紗夜は「救済」であり、同時に「呪い」だった。


 全人類をハッキングし、意のままに操れるようになった蓮にとって、

 唯一洗脳が効かない彼女は、自分の全能感に対する「欠陥」であり、

 同時に「自分がまだ生きている」ことを証明する最後の鏡だったのだ___。



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