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68 魔術師、剣を作る

もうひとりの信頼できる友人の名は後で教えてもらえるだろう。クレアが説得してくれると思う。僕たちはクレアを残して武器屋を出た。その人物を巻き込んで何か手が打てればいいのだが…


宿に帰れと言ったはずだが、店を出たところでアリサが僕たちを出迎えた。待っていてくれたようだ。帰りの道があやしいので正直のところ助かった。


今後のことはまだ少し考える時間がある。気分転換してから考えることにしよう。僕はすっかり口数が少なくなってしまったノアに言った。

「この辺りに宝石を扱っている店はあるかい」

「知らない…」

ノアがつぶやくように答えると、アリサが言う。

「わたくしが存じています。ご案内いたしましょうか」

「ああ、たのむ」

「何を買うの…クレアさんへの贈り物…」

「いや、ちょっと素材がほしくてね」


アリサに案内された宝石屋につくと、ダイヤモンドの原石かルースが欲しいと店主に尋ねた。

「原石はお売りできませんが、ルースならばございます」

「出来るだけ不純物のない、クリアなものが良い。大きさは小さくても良い。2, 3個欲しい」

そういうと、店主は店の奥から平らな箱を持ってきて、僕の前で開けて見せた。中に大小さまざまの裸石が綺麗に並んでいる。希少なレッドダイヤモンドやブルーダイヤモンドも含まれている。僕はその中から無色透明で0.2カラットほどの石を3つ選んで購入した。

「そちらの可愛いお嬢さんへの贈り物にするのでしょうか?指輪でもピアスでもお好きなものに加工させて頂きますが」

「いや、ルースのままで良い。しかし、贈り物か…」

王からもらった報奨金がまだ残っていることを思いだし、指輪を4つ購入した。それぞれ個別に箱に入れてもらい店を出る。あっという間に王からもらった報奨金を使い切ってしまった…


この店でもギルドカードによる信用払いだった。一見さんお断りの中央区の店だからできることだ。金貨以上の通貨がないので他に方法がない。収納魔法の類がないから金貨を何千枚と持ち歩くなんてできないからね。王も金貨を直接渡してくれた訳ではない。


白金貨とか作らないのかな…

落としたりすられたりしたら死ぬけど…


「贈り物を受け取ってくれ、ノア」

そういって箱のひとつをノアに渡した。ルビーの指輪だ。赤い色はノアに似合うだろう。

「もらっていいの…」

「もちろんだ。アリサにはこれを」

そういって別の箱を渡す。中身は濃い黄色のダイヤの指輪だ。

「ありがとうございます。拝領いたします」

そういってアリサは受け取った。

「あとの2つは?」

ノアに答える。

「ソアとエマに贈るつもりだ」

「クレアさんや王女には?」

「今のところ贈るつもりはない。もう金もない」

「貧乏人なんだから…」

ノアの表情が少し緩み、口調も元気が少し戻った。

「裸石はどうするのかなー」

「あれは僕が使うつもりだ」

「使う?」

「ああ、あとで教えるよ」


宿に帰ると、他のみんなが揃っていて夕食になった。宿の2階にあるレストランだ。


夕食を食べながら今日一日の出来事を話題にして雑談に興じる。クレアと出会って話をしたことは話さないでおこう。アリサは僕が話題にしない限り口にすることはないし、ノアも珍しく空気を読んで話題にしなかった。


そのノアの指にルビーの指輪があるのをソアが目にしてノアに聞いた。

「その指輪はどうしたのでしょうか、ノアさん」

ノアをさん付けで呼ぶときはソアがノアに詰問するときだ。ノアが僕の方を見る。

「僕からの贈り物です。今日、宝石屋で購入するものがあって、ついでといったら何ですけど、そのときに買って贈ったものです。もちろんソアさんへの贈り物もあります」

そう言って、ソアに小箱を渡す。ブルーのサファイアの指輪だ。

「エマの分もあるぞ」

エマに渡す箱の中身はグリーンのサファイアの指輪だ。

「ありがとうございます」

そういうと、ソアは指輪を左手の薬指に着けた。


ええと、この世界の習慣ではどうなっているのかな…

そういえば、ノアも左手の薬指か…


店主はノアとアリサをちらっと見ただけでサイズを選んでくれた。ノアの分はぴったりのようだ。アリサは指に着けていないが、店主の見立てに間違いないだろう。

ソアとエマの分は僕が見当を付けて選んだ。ソアの方はそれほど間違ってはいなかったようだ。エマは指輪を受け取ると、

「指に着けていると武器の扱いに支障があるのでな…」

そう言って、細い紐に通して首から提げた。アリサが着けていないのも同じ理由なのだろうか。


「裸石は?自分の指輪にするの?」

ノアが聞いてくる。

「いや、別のものに加工するんだ。今夜中に出来れば明日見せてやるよ」

「だいたいミスターはアクセの類を何にも着けないよね」

ノアの調子が戻ってきた。

「アクセの類は好きじゃないんだ。エマじゃないけど、じゃまだろ」

「ほんとは今まで貧乏で買えなかったからだー」


貧乏だったことは認めますけど…

アクセは好きじゃなくて着けないというのも本当のことですからね…


「今なら好きなだけ買えますね。ミスターには何が似合うでしょうか」

そう言いながらソアがノアの方を見る。ノアもソアを見て言う。

「一緒にいろいろ選んで着けてもらおうよねー」


未来の自分の姿を想像して、ちょっと憂鬱になった…

アクセは着けませんからね!



翌朝、宿の裏庭で僕はダイヤを素材にして錬金術もどきで作った新しい武器をノアに披露していた。エマにはちょっと協力してもらうつもりで同席を頼んでいる。例によってアリサは僕と一緒だ。


「なにそれ、魔術師のあたしが見てもダメダメな剣だよー」

僕が披露した剣を見てノアが笑った。まぁ、見かけは僕が見てもノアに同意する。だがこれはフェイクだ。

「まぁ見てくれ。エマ、すまんがこの短剣でこの剣を受けるように構えていてくれ」

短剣を渡すとエマが構える。普通の短剣だ。僕は用意した剣を振り上げる。見るからになまくらな粗悪品の鉄の長剣だ。


それほど勢いも付けず、エマが構えた短剣にゆっくりと振り下ろす。短剣にあたった瞬間、僕の剣が砕けちった。

「やっぱり、ダメダメじゃん」

ノアが大笑いだ。しかし、エマは無言で手に持った短剣を見つめている。


短剣は綺麗に切断されていた。切断面は鏡のようになめらかだ。僕はポケットから昨日買ったアダマンタイトの塊をだした。

「あぶないから、近寄るなよ。ちょっと離れて見ててくれ」

僕は手に持った塊を上に放ると、刀身が砕け散って柄だけになった剣を振るった。微かな音がして、落ちてきたアダマンタイトの塊が地面に落ちて二つに分かれた。断面はぴかぴかの鏡面だ。


「なに?なんかの魔法?」

ノアが叫ぶ。

「魔法じゃないよ。鉄のなまくら剣は偽装だ。こんな具合に…」

僕は砕けたなまくら剣の破片を材料にして、錬金術もどきで柄の先に鉄剣を作り出した。

「さっきのなまくら剣だ…」

「この剣は張りぼてさ。中空になっているんだ。しかもすぐ壊れる」

そういって近くの木を剣で軽く斬った。剣は木の幹に食い込むどころか、さきほどのようにばらばらに砕け散った。木の本体は無事だ。振り切っていたらまっぷたつのところだ。

「なまくらどころか、わざと脆く作ってある。見たとおりだ」

「じゃぁ、なんでエマの短剣が…それにアダマンタイトが…」

「良く見るんだ、あっ、あぶないからあまり近寄るなよ」

僕が柄だけになった剣を上にかざす。

「なんか日光が反射して光っている…糸のよう」

「そう、これはダイヤモンドの単分子チェーンだ」

「タンブンシ…?」

「あー、ようするに凄く細いダイヤモンドだな」

「そんなのすぐ折れちゃうよ」

「ところが、これは全体でひとつの分子になっているんで、信じられないほど強靱なんだ」

「ブンシ…?」


もとの世界で読んだSFにでてきたやつだ。単に炭素原子がつながっているだけじゃなくて、この糸全体がひとつの分子になっている。力学的に壊すのは困難な物質だ。理屈上は作れるはずで、軌道エレベーターのロープなどに使えるとか。まぁ理屈では可能でも、工学的あるいは技術的に実現できないってことはあるけどね。しかし、そこは僕のエネルギーと物質を操る超能力だ。理論さえ理解できればなんとかなる。これはその成果だ。


力学的に強靱でも熱や電磁波などへの耐性は別だ。SFでは時間を停止する謎技術の停滞フィールドを使って対策し、なんでも斬れる自在剣なんて言っていた。


理屈の判らない停滞フィールドは実現できないけど、あらゆるエネルギーを遮断する障壁は作れる。剣を包むだけなので光子も遮断できる。見えるはずのない分子の細さの剣が光って見えたのは障壁のせいだ。自分が使っている障壁と違って熱も遮断できる。この剣を振るうときは単分子チェーンの刀身に張り付くように障壁を張る。何でも斬れる自在剣もどきの完成だ。


「見えない剣じゃん、すごいねー」とノア

「間合いがわからない…」とエマ


「僕の剣は素人レベルだからね。意表をついただまし討ちじゃないと通用しない。僕のレイピアだって普通の剣を両断できると思われないから初撃で剣ごとあいてを斬れてたんだ。でもエンダーのようにアダマンタイトの剣を持っていたら通用しないし、あのゾルドバの炎の障壁にも通用しなかった。それで新しい剣を作ったのさ」

「初撃を躱しても、折れた剣の中に見えない剣があるなんて思わないよねー」

ノアが言う。一方エマは

「卑怯です…」

「訓練や模擬戦ならともかく、実戦は生き残ってなんぼだからな。武器も実力のうちさ」

「装備も実力のうち…エンダーの教え…」


「エマにも作ったものがある。これだ、剣と同じ糸を使った縄標だ」

そう言って、エマに単分子チェーンで作った縄標を見せた。単分子チェーンを12本ほど撚って縄というか糸にしている。エマが使うときは障壁の保護なしだから自在剣ほどではないが、この糸で大抵のものは切断できるはずだ。自分が怪我をしないように注意は必要だが…エマなら使いこなせるかもしれん。

「糸の部分は素手で持たない方がいいな、これを使え」

そう言って単分子チェーンの糸で織った手袋を渡した。見てくれは良くないが、薄くて武器の扱いに邪魔にはならないだろう。これなら糸を持って操作ができる。振り回すだけで糸が通過する範囲の敵はまっぷたつになるぞ。そのうえ見えない糸だ」

「必ず使いこなして見せる」

「あー、いきなり本物で練習するなよ。あと言うまでもないけど、自分の手や足に巻き付けて標の方向を変化させる技は使えないからな。自分の手足が切断されちゃうぞ」

そう言って縄標本体を渡した。

「それと長さの調整はできない。調整したいときは言ってくれ、その長さで作り直すから」


新しい剣のお披露目を終えて、ふたりと一緒に宿にもどりながらふと考えた。


トールやゴードが自在剣もどきを欲しがったらどうしよう…


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「こんちわ…」

今日は元気がないね。

ノア:「だって、昨日…」

あー、大変だったよね。ノアの家で食事してたら火災警報がなって…

ノア:「火事なんてなかったのに…誰が…」

駆けつけた警備兵が逃げていく女性を見かけたらしいけど…

ノア:「ソ…」

結局いたずらみたいだったね。

ノア:「いたずらと分かったら、警備兵もさっさと帰ればいいのに」

でも、僕が事情聴取で警備兵の詰め所に連れて行かれちゃったからね…

ノア:「すぐ戻ってくると思って待ってたのに…」

いやぁ、先日に続いて火事騒ぎだからね、疑われちゃったのかな…今朝まで帰してくれなくて…

ノア:「おかげで計画が台無しよ」

計画って?

ノア:「あんたと既成事実を…あー、なんでもない」


★★ 69話は11月30日00時に投稿

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